マック本が脱稿したので、今日からは『小説 坂本孝』を書き始める。本日は、取材のために横浜まで出かける。「俺の株式会社」の経営計画発表会は、14時30分受付開始、15時~19時まで。@横浜ロイヤルパークホテル宴会棟3階鳳翔、桜木町駅徒歩5分。
「横浜ロイヤルパークホテル」は、坂本さんにとっては因縁の場所である。この場所で、2005年6月13日(月)に、ブックオフコーポレーションの経営計画発表会が開かれた。その直後に、週刊文春が坂本さんを誌面でたたくことになる。経営者として失脚することになる不幸な事件の序幕だった。
坂本さんは、縁起などはかつかずに、あえて「俺の株式会社」の経営計画発表会を、ふたたびこの場所で開く決心をした。本日の4時間がどのように進行するのかを観察してくるつもりだ。
同じパターンで同じ道を行くのか。それとも、セレモニーも事業もそれとは違った展開になっていくのか。別の物語がまた始まりそうな予感がする。
むかしわたしが書いたブログ記事を、ここに貼り付けておく。いまから約10年前(2005年6月18日)に書いたものだ。今は亡き石橋社長(ウエザーニュース)と坂本社長(ブックオフ、当時)を対比した観戦記だ。わたしは、坂本さんのブックオフコーポレーションに対して、なんとはなしに「過剰な熱狂」を感じていたのだった。
その熱狂がその後に起こった事件の顛末を予感させた。不幸な予感は当たってしまったこと、日経(ベンチャー?)にも書いている。
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メニュー:Day Watch | 2005.06.18 Saturday
社風は経営者の個性そのものである(ブックオフとウエザーニューズ)
今週は、対照的なふたつの企業の集会に招待された。
月曜日(13日)は、横浜ロイヤルパークホテルで開かれた「ブックオフコーポレーション(株)」(坂本孝社長)の経営計画発表会。水曜日(15日)は、幕張プリンスホテルで開かれた「(株)ウエザーニューズ」(石橋博良会長&社長)の「トランスメディア放送局WITH」発表記念パーティーに参加させていただいた。
何が対照的かと言えば、おふたりの経営スタイルがまるっきり逆なのである。両社ともに全国各地に店舗(中古書店)と支店(観測・営業拠点)を持っている。なので、数百人単位の社員が、当日は地方から幕張と横浜のホテルに集まってきていた。ほぼ全社員を集めるのに、一方のブックオフは、”年に一度”の経営計画発表会である。他方のウエザーニューズは、”たまたま企画された”開局記念発表パーティーである。計画性という点で、まずは大きな違いがある(誤解を招くと困るので、開局そのものは計画的であったとは思う・・・)。ご両人の個性と経営スタイルを反映していると感じた。
ブックオフの場合は、おそらく一年前から、年次テーマと発表会の段取りが計画的に組まれているはずである。進行の時間管理もすばらしい。3分間の持ちタイムをいただいた招待客のショート・スピーチ(15分くらいと長い人もいたな~)も、内容にメリハリがあって、多様でとてもきちんとしていた。わたしは実際には5分間ほど話すことになったが、聴衆の反応(800人の社員と90人のサポーター招待客)が静かすぎてとまどってしまったくらいである。ひな壇の上から、招待客のうちのかなりの方が、わたしの話を聞いてメモを取っている姿が見えた。とにかく、社員も招待客もしごくまじめなのである。「強い体育会」の壮行会の雰囲気である。
もっとも印象的だったのは、4時間に渡る集会の最後に披露された橋本真由美常務の閉会の挨拶であった。「事例発表した社員の原稿が、例年に比べて真剣さを欠いていた」という反省の紹介があった。社員の発表原稿を事前に細かにチェックしてくれているのである。招待客の選択やスピーチの順番なども、細やかに検討されていたのだろうなと感じたわけである。パリ支店とNY支店からは現地人の社員が参加していた。事例発表の日本語もとても流暢で、日本のブックオフと変わらない。海外での仕事への真剣な取り組みが披露された。
ウエザーニューズのパーティーでも、司会役は韓国人の女性とオーストラリア人の男性であった。こちらのほうは日本語がややたどたどしく、台本も大いにアバウトであった。まちがった日本語で業務の説明をした司会者に対して、最初の挨拶の後、壇上から降りてフロアで顧客と談笑していた石橋社長から間違いが指摘されて訂正がなされた。そのやりとりに、会場からは笑い声が渦巻いた。数百人の参加者を集めているに、なんともカジュアルな集会であった。
日本基準からは・・・ちょっとだらしない感じがする、典型的な米国スタイルである(石橋社長、ごめんなさい、これはわたしの本音です!)。3時間のパーティーで挨拶したのは、石橋社長を含めてわずか3人であった。形式や内容にはあまりこだわらない、石橋社長の個性そのものである。新しい放送局のコンセプトの中身など、細かなことはあとでフロアに散っている社員に聞いてください。そういった挨拶内容であった。
パーティーは、昼食時に行われた。ウエザーニューズの世界各地にある支社の名物料理を集めた、バイキング形式の立食パーティーである。ちなみに、ブックオフの経営計画発表会のほうは、900人の着席パーティーである。幕張まで行ってパーティーに参加することになったのは、たまたまウエザーニューズ社が放映しているBSチャンネルの番組審議委員を、5年前から引き受けていたからである。将棋の大内名人やファッションデザイナーのコシノジュンコさんなども一緒である。審議委員ではあるが、その日にならないと誰が出席するかが確定していないらい。
両社ともに、東京証券取引所に昨年、指定替えになったばかりである。偶然ではあるが、初値が1200円前後とほぼ同じであった。しかし、社員の構成には大きな違いがある。元安宅産業で外材の輸入を担当していた石橋社長をトップにいただくウエザーニューズは、約800人いる社員のうち40%が外国人である。また、気象予報という地球物理学的な業務を反映してか、社員の約20%がドクター号を所持している。理科系的な企業文化の会社である。一言で言えば、社風はややオタクっぽい。
いつか石橋社長とインタビューする機会があったとき(拙著「当世ブランド物語」所収)、「いったん辞めた社員の多くが出戻りしてくる」というエピソードを紹介してくれた。そういえば、法政大学経営学部も同じカルチャーの職場だなと思ったことがある(出戻り教授が3人いるが、こんなことは他大学では考えられない)。実際には働いてみないと経営実態はわからないが、それだけオープンな社風なのだろう。目標設定は個人に任せられているように見える。それだけに、ファジーな会社でもある。
それとは対照的に、ブックオフの社風は「体育文化系」である。達成すべき目標は、社長以下、一糸乱れぬ集団的な団結の下、みんなで真剣に討議して突き詰めていく。ファジーさや乱れは許されない。誤解されるといけないので弁護しておくが、坂本社長には強権的なところはまったくない。50歳のブックオフ起業まで、たいへんに苦労された方なので、やさしいまなざしを持った経営者である。
坂本さんは、中古書籍販売という「ローテク業種」の会社を率いている。それだけに、コアとなる人材が大切であるという信念をもたれている。ブックオフには、パート・アルバイトから昇格してきた、たたき上げの社員が多い。まじめさ、ひたむきさが同社の特徴である。
さて、もし就職の機会があるとしたならば、若い皆さんは、どちらの会社を選ばれるだろうか? また、すでにどこかの会社で働いている大人の人は、どちらの社風に共感を覚えられるだろうか?