吉野家、松屋、すき家と牛丼御三家が減益に苦しむなか、急成長を遂げている新興チェーンがある。首都圏を中心に展開する「東京チカラめし」だ。なぜいま人気なのか?急成長の秘密を探った!
牛丼市場は飽和状態。新規参入しても勝算はないように思える。では、「東京チカラめし」があえて切り込んだ理由とは?
「焼肉は食べたいが、2~3000円の出費はキツイし、1人では行きづらい。もっと安くて手軽なら…というニーズをつかんだのが、「東京チカラめし」の“焼き牛丼”。牛丼と焼肉の中間に位置するメニューとして、新定番になりつつあります」
と語るのは小川孔輔先生。
「牛丼チェーンはもともと単品勝負でしたが、BSE騒動をきっかけに多メニュー化にシフト。いまもその流れが続いています。ただ、多メニュー化しても、“牛丼=煮込み”という既成概念から抜けられなかった。そこに切り込んだことが東京チカラめしの勝因です」
大手参入で“焼き”戦争勃発!元祖と追従型、どっちが有利?
東京チカラめしの躍進を見て、他社も“焼き”メニューに追随。すき家は「豚かばやき丼」(630円)、吉野家は「牛焼肉丼」(480円)、松屋は「焼き牛めし」(380円)の販売に踏み切りました。それにしても東京チカラめしの「焼き牛丼」(290円)より軒並み高いのはなぜ?
「牛丼御三家は価格競争で疲弊しきってしまい、利益率の高い付加価値商品への転換を模索していました。次は何かと探していた時に出てきたのが、焼き牛丼。価格競争からの脱却という前提があったので、高めの値段になったのでしょう」
一方、東京チカラめしはなぜ安くできるのでしょう?
「同店を運営しているのは、居酒屋『金の蔵jr.』等を運営する三光マーケティングフーズ。原材料の調達力があることが大きい」
価格帯が違うとはいえ、大手の“焼き”への参入は、新興の東京チカラめしにとって痛手のはず。
「いえ、実態は逆です。マーケティングの世界では、先発優位が常識。他社が追随することによって新カテゴリの市場が拡大し、認知度の高い先発がますます優位になるのです。たとえばアサヒがスーパードライを発売したときは、他社も参入してドライ戦争が勃発。その結果、消費者にドライというカテゴリが定着しましたが、結局は先発優位でアサヒの1人勝ちに。今回の“焼き”戦争でも、他社の参入が東京チカラめしを利することになるはずです」
東京チカラめしは牛丼界のセブン・イレブンだった!
東京チカラめしには、もう1つユニークな戦略があります。それは、近隣に出店を集中させるドミナント戦略。たとえば新宿駅周辺だけでも、西口に5店舗、東口に2店舗で、計7店舗も!なぜ1か所に集中?
「地域にたくさん店舗があれば、顧客の目に触れる機会が増えて、その地域内での存在感が増すからです。この戦略を積極的に採用しているのがコンビニ業界。セブン-イレブンは、同じ地域に集中的に店舗を構え、その地域では『コンビニといえばセブン』といった独占状態を作り出しています。東京チカラめしも、同じ戦略なのでしょう」
ただ、デメリットもあります。
「同じ地域に出店すると、自社チェーンの店舗同士が競合して顧客の取り合いになります。じつは店舗数が少ないうちは、ドミナントの効果より自社競合のデメリットが上回ります。店舗数が一定数を超えてドミナントの効果が表れるまで、粘り強く出店を続けていけるかどうか」
今後どこまで出店を増やせるのか、大いに注目です!