夏ごろから小川浩孝さんと取り組んできた翻訳、Transforming Your Go-to-market Strategy: The Three Disciplines of Channel Management by K. Ranganが脱稿した。校正作業が順調に進めば、3月末にはダイヤモンド社から出版されるはずである。
本書は、2006年にHBS Press(ハーバード大学ビジネススクール出版)から刊行された研究的実務書である。同時にコンサルタントである研究者が、実務家に向けて書いた「枠組み本」という位置づけになる。ただし、著者のランガン教授(インド人?)は、「小売りの輪」で有名なマルコム・マクネア講座の教授を務めている。本来的に、流通の理論家である。
日本の実務家たちから、本書の枠組みはほとんど注目を集めることがなかった。その辺の事情は、後段の研究者たちとは少しちがっているようにも思う。
「基本的なチャネル構造が米国のそれと違っている」というのが実務家な考え方である。米国の現実をベースに構築された流通論は、そもそも日本の現実問題を解決するためには役に立たないと思われていたからである。
わたし自身は、本書を読んでから、この偏見を捨て去るようになった。マーケティング現象といえど、真実は世界共通である。だから、共通の枠組みで、流通現象を議論することができるはずだと。
他方で、日本のチャネル研究者は、オーソドックスな理論書を好む傾向にある。
わたしの推測が正しいとすると、現実に基礎をおいた本書のようなチャネル論は、日本人の研究者にはあまり好まれない。しかし、インターネットの小売り・流通システムへの強烈なインパクトと同様に、現実は必ずしもオーソドックスではない「代替的な理論」を求めている。
ところで、本書を「発掘」することになったきっかけは、まったくの偶然だった。わたしのゼミでは、数年おきに、Kotler and Keller の”Principles of Marketing”を読んでいる。昨年読んでいた最新の改訂版の脚注に、本書が紹介されていた。
そのときは、「チャネル・スチュワードシップ」(チャネルの番人?)という概念をとくに気にも留めていなかった。しかし、数週間後に、そのときのゼミに同席していた小川(浩孝)さんが、原著をアマゾンで入手してきた。彼のコメントは、「読んでみて、けっこうおもしろかったです。含蓄があります」(発掘者の小川さん)。
監訳者の立場から、本書のポジショニングを簡単に説明してみる。従来からある「(モノ製品の)マーケティングチャネル論」は、生産段階から中間流通を経て小売までを、縦長の川の流れに見立てている。SPA(製造小売業)は、各段階を内部化して統合した仕組みとして説明される。実務的にも、統合的なチェネル機能を、内部調整して効率化したシステムである。
本書では、その調整役を「チャネルスチュワード」(チャネルの管理人)として概念化している。従来の「チャネルキャプテン」(チャネルの支配者)とも異なっている。また、チャネル管理を「パワー論」で片づけようとしているわけでもない。
比喩的に言えば、「遺伝子を組み変える」ような作業として、チャネルシステムの構築と再編集(改訂)を論じている。そのために、「分析マッピング」「構築と改定」「方向づけと影響付与」の3原則が登場する。一般にわかりにくい米国の事例ではあるが、ZARAやアマゾンなどの身近な例で補強できている。
以下は、本書の「はじめに」の部分(完訳)である。「序」を一読していただければ、本書のエッセンスはおおよそご理解いただけると思う。
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はじめに
1998年、我々はゼロックス社のマネジャーたちと、ある調査プロジェクトをすすめていた。当時はインターネットが普及し始めたころであり、書籍のオンデマンド印刷技術(Book-In-Time、BITと呼ぶ)の商業化の検討を、2つに分かれたチームがそれぞれ別に行う、というプロジェクトだった。プロジェクトそのものは、ゼロックス全体からすれば、ごく小規模なものだった。
BITのアイディアは、ごく単純なものだ。書籍の中身がデジタル化されていれば、ゼロックスの印刷技術を使い、例えば300ページの本なら、一冊あたりわずか1分、約7ドルでプリントできる。この技術によるコスト削減効果は、計り知れないものがあった。オフセット印刷なら、1,000部以上の部数でないと、一冊あたり7ドルにはならない。さらに初期セットアップ費用として別途5,000ドルが必要だった。
BITを使えば、米国だけで百万冊、世界全体では一千万冊といわれる絶版になった書籍の再印刷が可能になる。また、少部数の出版が手軽にできる。
我々は、2つのチームがそれぞれ提案した販売チャネルに興味を引かれた。最初のチームは、グラフィックアート市場に向けた製品ラインの追加製品として、BITを位置づけていた。グラフィックアート分野はゼロックスの営業チームの得意分野で、高価なDocu-Techという機器を、ビジネスユーザーやその印刷部門に販売していた。
もう一つのチームは、BITはバリューチェーン(訳者注:付加価値をもたらす一連のプロセスあるいは組織のつながりをいう)の参加者たちに、新たな価値をもたらすだろうと考えていた。印刷業者だけでなく、チャネルの他のメンバーたち、すなわち著者(特に出版部数の少ない専門書の著者)、出版社(特に絶版本の版権を所有している出版社)、取次業者(動きの遅い在庫の削減)、そして書店(絶版本に対する需要の獲得)に恩恵をもたらすと考えていた。チームはBITを、書籍チャネルのバリューチェーン参加者に対する、新しいサービスとして位置づけようとしていた。
両者の違いを図1-1に示す。最初の提案(左側)では、BITのチャネルへの参入点が、明確に示されている。また利益の源泉は、システムの販売によるものである。一方、もう一つの提案(右側)は、幅広く複数の参入点を持ち、価値の獲得方法も様々である。
図1-1 チャネルを通じて価値を創造・獲得する
案1:製品としてのソリューション 案2:サービスとしてのソリューション
著者 著者
↕ ↕
出版社 出版社
↕ ↕
ゼロックスBIT → 印刷業者 ゼロックスBIT → 印刷業者
↓ ↓
取次業者(卸) 取次業者(卸)
↓ ↓
書店 書店
↓ ↓
顧客 顧客
第1のチームは、印刷システムの販売(数十万ドルから百万ドル程度の価格)を前提に、プランを立案した。一方、第2のチームは、BITをチャネル内の複数メンバーに対するサービス提供と位置づけ、ゼロックスあるいはそのパートナーを通じて、サービスを提供するというプランを描いていた。それは、ゼロックスは、書籍販売チャネルに参画し、本をプリントする毎に手数料を獲得し、完成した本を小売店に届けるというものであった。売上は、印刷システムの販売に比べて、数倍と予想された。
このサービス型のビジネスモデルを進めるためには、ゼロックスは既存チャネルを見直す必要があり、それにはリスクが伴うと予想された。既存の販売チャネルは、高価な機器を限られた顧客に販売することを前提として、構築されていたからだ。最終的に、ゼロックスは、最初のチームの提案を手直しして、導入するという結論を出した。
この事例を紹介したのは、ゼロックスの出した結論が、正しかったかどうかを議論するためではない。そうではなく、チャネル戦略を考えるうえで、マネジャーたちが直面するジレンマを、伝えたかったからである。我々は20年に及ぶ、調査研究やコンサルティングの経験から、この事例と同じジレンマを、数多く見聞きしてきた。チャネル管理の担当者たちは、常に「チャネルを大幅に作り替えるリスクをとるべきか、それとも今うまく行っている(少なくともそう見える)ことを続けていくべきか」というジレンマに直面する。このようなジレンマに答えを出すのは、容易ではない。なぜなら、明白で大きなリスクがあるにもかかわらず、その見返りはごくわずかなように思えるからである。本書は、変革のためのフレームワークを必要としているチャネル担当者たちに、その答えを提供しようとしている。
本書は、ある組織がチャネルの管理人(チャネルスチュワード)として、成功するための道筋を示そうとしている。チャネルに影響を与える様々な力や、チャネルの転換を阻害する様々な要因について、チャネル担当者に理解を深めてもらうことが、我々の目的である。流通チャネルを設計・管理し、チャネルの転換を漸進的に行うための新しい考え方が、我々の提唱する「チャネルスチュワードシップ」である。「チャネルスチュワードシップ」の考え方を用いれば、チャネルの設計・管理に必要な力をうまく利用し、自社やチャネルパートナーの能力を、最大限に活用することができるだろう。
さらに、本書では、チャネル戦略を系統立てて適用することで、顧客満足を最大化しつつ、チャネルパートナーおよび自社の利益を、最大化する方法を説明する。「チャネルスチュワードシップ」は、導入されたチャネル戦略を、主体的に管理していくための手法でもある。その結果、チャネルは着実に進化してゆくだろうし、改善を図ることもできるだろう。
本書では、複雑なチャネル管理を成功させるための、3つの基本原則を提示する。すなわち、「分析マッピング」、「構築と改定」、「方向づけと影響付与」の3原則である。はじめに、これら基本原則について説明し、次に、それらの枠組みを、チャネル戦略の実行担当者たちが、どのように活用し、様々な課題に対処してゆくべきかについて、事例を用いて紹介する。
基本原則と枠組み
第1章においては、日常のチャネル業務の中で、戦略を立ててゆくことの難しさを説明する。「チャネルスチュワードシップ」という概念を提示し、3つの基本原則を示す。それを通じて、変革の難しさや、変革を阻もうとする意識をどう乗り越えるか、その道筋を示す。
第2章では、「分析マッピング」について、自動車業界の例を基に説明する。分析マッピングにより、業界他社がどのような行動をとっているかが明らかになり、チャネルスチュワードが直面する機会と脅威も明らかになる。スチュワードの目的は、チャネルを成功に導くことであり、そのためには、チャネル戦略を動かしている「4つの力」を理解する努力が必要である。それら「4つの力」とは、「ディマンドチェーン」、「チャネル能力とコスト」、「チャネルパワー」、「競合の活動」である。
しかし、スチュワードが、これらの力の影響を感じ始めた時には、もはや手遅れかもしれない。これら力は、外部環境の根本的な変化がもたらすものであり、「分析マッピング」を通じて、事前に注意を払っておくことができる。もし、分析マッピングが適切に行われれば、市場の変化についての因果関係と、市場の変化に応じて、チャネルをどのように変化させるべきかについての、指針を得ることができる。スチュワードは、分析マッピングを通じて、主要な「力」を理解し、チャネルバリューチェーン(訳者注:以下、CVCと略す)を構築・改定することによって、それら力に影響を与えることができるようになる。これこそが、チャネルスチュワードシップの第2原則である。
第3章と第4章では、この第2原則について詳述する。第3章ではデルコンピューターの事例を用いて、構築・改定のプロセスを説明する。デルは直販を採用しており、構築・改定プロセスのエッセンスを分かりやすく説明するのに、適していると思う。その後、第4章において、中間業者を含む場合の構築・改定プロセスを説明する。CVCは、ディマンドチェーンのニーズに対応しようとする、チャネルの能力構築の結果として作られる。バランスのとれたCVCであり続けるためには、常時見直しが必要であり、それを行うのが真のチャネルスチュワードである。真のチャネルスチュワードは、利益あるチャネルへの転換を主体的に行うため、変化の力を理解し、利用しようとする。一方、受け身のチャネル担当者は、変化の波に翻弄されるだけである。これが、真のチャネルスチュワードとの違いである。
第4章では、チャネルスチュワードシップについて、その意義を詳しく見てゆく。チャネルとは、顧客に到達するための単なるパイプではない。それは、顧客に価値をもたらすための組織体である。チャネルが果たすべき役割と、その役割を担うチャネル参加者とを、区別して考える必要性を説くために、6段階のアプローチを用いる。たとえチャネル参加者は同じであっても、彼らの役割を変えることによって、スチュワードはチャネルの転換を促すことができる。
チャネルスチュワードシップの第3の原則は、「方向づけと影響付与」である。この原則は、前段の原則(構築と改訂)で開始された活動を補うものである。また、複数の中間業者がチャネルに関与している場合は、常に必要な原則である。
第5章では、「チャネルパワー」という概念を検討する。チャネルパワーの効力を認めつつも、「構築と改定」において、パワーに必要以上に頼ることは、スチュワードシップの精神に反する。CVCでは、そのメンバーが、「近くにいる遠い友達」という関係から、チームとしての努力に転換すべきであり、その意味でも、パワー以外の方法で変革を主導しなくてはならない。その方法が、CVCのパフォーマンスに注力することである。CVCの全体的パフォーマンスが、チャネル内の関係者全員を結ぶ基礎になる。そうであれば、限られたチャネルパワーしか持たない小企業であっても、チャネルに影響を及ぼし、他のメンバーの努力を、同じ方向に向かせることができるはずである。チャネルスチュワードが、効果的に機能するためには、すべてのチャネルパートナーに対し、CVCのパフォーマンスこそが推進力であることを納得させなくてはならない。これをどう成し遂げるかは、第6章で詳述する。
スチュワードシップは、「いい人」になることとは違う。スチュワードシップにおいて必要なのは、レーザー光線のようにまっすぐに顧客にフォーカスし、様々なパートナーが、CVCにどう貢献しているかを、詳しく調べることである。その結果、パートナーを取り替えたり、退出を願ったり、その他もろもろの厳しい判断が求められる場合がある。重要なのは、そのような困難な結論を出さざるを得ない場合でも、相手に何も説明せず、黙って実行に移すようなことがあってはならないということだ。チャネルスチュワードシップの絶対要素の一つは、CVCがどのように顧客需要を満たしているのかを、チャネルに関わるパートナー全員が、理解している状態を作り出すことである。そのためには、顧客にフォーカスし、常に透明性を確保することが重要である。そうすることによって、仮に不人気な結論に至ったとしても、それが単なるパワーの行使と誤解されることはないだろう。
透明性の確保は、言うは易し、行うは難しである。もちろん、情報技術を用いれば、CVC内の情報を継ぎ目なく統合することは可能である。しかし、これも、あくまでチャネルメンバーの協力が得られれば、の話である。パートナーに共感を持ってもらえて初めて、このようなことが可能になる。つまり、「ニワトリとタマゴのような議論である。信頼は情報の共有によって得られ、情報を共有することにより、信頼が得られる。様々なプロセスを改善するだけでなく、これらプロセスに付随する、人と人との信頼関係を強化することが、肝要である。
実際の適用と推論
第7章と8章では、供給業者と中間業者のそれぞれがチャネルスチュワードとなった場合の事例を、チャネルスチュワードシップの3つの原則と概念を基に、紹介する。チャネル戦略を、確固たる手順に基づいて実行し、エンドユーザーのニーズを満たしたいと考える、チャネル内のいかなる組織も、チャネルスチュワードシップを活用できる。スチュワードの立場になる企業は、製品やサービスの製造業者でもよいし、中間業者でも構わない。ただし、一つのチャネルシステムにおいて、スチュワードは1社のみに限られる。その1社とは、チャネルの中で、顧客の価値、パートナーの価値、そして自社の価値をどう高めてゆくかについて、最も明確なビジョンを持っている企業である。
第7章では、5つの製造業者による、スチュワードシップの活動について説明する。その5社とは、「ZARA」(革新的で垂直統合型のアパレルメーカー)、「シスコ」(ネットワーク機器の技術および市場リーダー)、「アトラスコプコ」(定置式エアコンプレッサーメーカー)、「ベクトン・ディッキンソン」(医療機器メーカーであり検体採取システムの市場リーダー)、「ハワース」(オフィス家具メーカー)である。これらのうち、アトラスコプコやハワースは、マーケットシェアトップのメーカーではない。このことは、チャネルスチュワードシップが、企業サイズに関わりなく、どの企業でも適用可能であることを示している。規模に関係なく、顧客ニーズに焦点を当て、チャネル転換を図ろうとする企業は、チャネルスチュワードとなる資格がある。
第8章では、家電製品の主要小売である「ベストバイ」が、どのように顧客対応を進化させてきたかについて紹介する。それを通じて、中間業者が、チャネルスチュワードシップの原則を、どう利用できるかを示す。また、テキサス州南部の食品スーパーである「H-E-B」が、ウォルマートに対抗し、市場トップの位置を守るために取った、機敏なアクションについて紹介する。続いて、「アロー・エレクトロニクス」と「オーエンズ&マイナー」という、B2Bにおける2つの大きな中間業者に、光をあてる。両社は、歴史ある大製造業者がひしめくチャネルにおいて、スチュワードの役割を果たしている。章の最後では、小規模な中間業者(空調と冷蔵庫の部品と消耗品を販売)が、大規模な供給業者(「ゼネラル・エレクトリック」)に対し、チャネルスチュワードとして接していく過程を紹介する。
ここまでは、供給業者がエンド顧客に結びつくという、垂直的なCVCにおける、スチュワードシップのあり方を見てきたが、次に複数チャネルを管理する上での課題を概観する。供給業者は多くの場合、いくつかの製品あるいは製品ラインを持っており、異なる顧客ニーズや市場セグメントに対応するため、様々な形でそれらの製品を販売している。そのために、複数のチャネルが開発されるが、それによって、チャネル間のコンフリクトを惹起する可能性がある。第9章では、そのようなコンフリクトが起こる原因を説明し、スチュワードシップがその管理の助けになることを示す。章の最後では、市場環境の変化に応じて、「シスコ」がダイナミックに複数チャネルを管理した事例を紹介する。
過去50年間において、企業のチャネル戦略に最も大きな影響を与えたのは、1990年代半ばに出現した、インターネットである。インターネットは、変化を促進するツールと考えられてきた。しかし、実際には、武器として利用されがちだった。チャネルにおけるツールとしてのインターネットは、極めて有用であるにもかかわらず、チャネルを管理するスチュワードとしての難しい役割を、さらに難しくするケースが多かった。どの章においても、インターネットについて触れてきたが、第10章と11章においては特に、インターネットだけに絞って議論を進める。
第10章では、チャネルとしてのインターネットの力を理解するためのフレームワークを提示し、チャネルスチュワードがそれを利用するための手順を示す。航空旅行業界やB2Bの交換市場(フリーマーケット)など、多くの事例を用いて、我々の考え方を提示する。第11章では、複数チャネル戦略におけるインターネットの活用について、説明する。いつどのようにインターネット技術を利用すべきか、もしくはチャネルの一つとして活用すべきかについて、具体的に説明する。「ヒューレット・パッカード」、「プライスライン」、「メリルリンチ」の事例を紹介する。
チャネルスチュワードが、最大の可能性を発揮するためには、チャネル戦略が、事業戦略の主要な一部となる必要がある。多くの企業幹部が、チャネル戦略は、単に事業戦略の実行に過ぎない、と考える過ちを犯している。チャネル戦略は事業戦略の主要な要素であり、核となる要素であることも多い。その意味で、チャネルスチュワードシップは、トップマネジメントの意思決定を必要とする。このことが第12章の話題である。
チャネルスチュワードシップの関与する領域
消費者向け、ビジネス向け、製品・サービス問わず、流通チャネルはどのようなタイプのビジネスにとっても重要である。米国の小売売上は、2005年に3.9兆ドルと見込まれている。この米国のデータから推測すると、全世界の小売売上は、10兆ドル程度ではないかと想像される。この数値には、サービス産業の売上は含まれておらず、それは少なくとも同額ではないか、と言われている。似たような統計では、米国における卸売販売額は、3.3兆円と見込まれている。この金額には、最終的に末端小売段階に到達する製品も含まれているだろうが、B2Bのカテゴリー、すなわちコンピューターやその周辺機器、機械や機器、化学品やその同等品なども含まれている。全世界の売上高を計算するためには、やはりこれを3倍にすると分かりやすい。すなわち約10兆ドルが、全世界の中間業者を通じた売上である。
これらのことから明らかなように、チャネルスチュワードシップの領域は広大である。よって本書では、チャネルスチュワードシップの考え方を様々な事例に使えるよう一般化して提示している。チャネル戦略は、残念ながらトップマネジメントの頭の中にないことが多い。そのため、本書では、彼らにも理解してもらえるよう、核となる原則だけを抽出することに努めた。