知床合宿3日目。午前中は、斜里の海岸をウトロに向かい11KM。夕方は、ウナベツ岳のメーメーベーカリーがある急な坂道のコース(2KM)と、一週間前に熊が出没したという森の中(6KM)を走った。合計19KM。3日間の累計で、走行距離は40KMになった。
10日夜から、ウナベツのスキー場に併設されている自然休養村管理センターに泊まっている。地元の人が銭湯として利用している「ウナベツ温泉」がある保養所である。おかげさまで、宿泊料金は格安である。
知床斜里町に来た目的は、昨年の信州小諸に続いて、マラソン合宿のためである。東京の暑さを逃れて、北海道で避暑である。幸いにして、毎日が17~20度。8月末までは、帰りたくない!
ウナベツ温泉の泉質は、かなりのスグレものである。単純硫黄泉だが、「美人の湯」である。知床フラワーの武藤さんの説明だから、たぶんまちがいはないだろう。というのは、お湯からあがってからも、しばらくは体がほかほかになっているからだ。たしかに、お肌がすべすべになった気持ちになる。これに匹敵する泉質のお風呂は、栃木県喜連川温泉にある、五月女の湯だけである。
「メーメーベーカリー」さんの店主、小和田(こわだ)さんも、2KMの急坂を下りて、ウナベツ温泉に湯浴みをしに来るという。すっぴんの小和田さんのお顔が、白く輝いて見える理由の一つは、美人の湯のせいかもしれない。想像だけで書いている。誤解があったら、ごめんなさい。
武藤さんから聞いた話である。小和田さんは、ウナベツ岳からオホーツクの海を見下ろすの眺めが気に入って、この丘に移ってきたらしい。東京から来たのか、道内の人なのかは、わたしにはわからない。いずれにせよ、この風景を一度見た人間は、この地に定住したくなるだろう。小麦畑の丘の向こうに広がる海。絶景である。
お店の開店は、木曜から日曜日まで。営業時間は、朝11時から夕方17時まで。6時間営業で、月~水はお休みになる。やぎ(めーめーさん)を飼っているので、そのお世話のための休みらしい。木曜日から日曜日までは、パン窯でピザやパンやタルトを焼いて販売している。極小サイズのパン製造小売業だ。
お店は、オホーツク海を見下ろす小高い丘の途中にある。ウナベツ岳の麓をまっすぐに走るシニックロードの頂上までは、あと500M。店の奥には、焼き上がったばかりのパンやビザを収めている小さなガラスケースが、キッチンから突き出ている。それ以外は、民家を改築した6席だけの小さなカフェである。デコーは、実に素朴に自然な感覚である。小和田さんの横顔が、京都にいる娘の知海に見えた。
奥のキッチンには、パンを焼くための土窯がある。どこからか調達してきたのだろう。パン焼き窯について、「うまく機能しないことも多いんですよ」と小和田さんは歎いていた。でも、パイナップルビザも、地元野菜のキッシュも、かなりおいしかったですよ。自信を持って!
日曜日の午前11時半。焼きあがったパンやピザを持ち帰る地元のお客さんがぞろぞろ。店の前に列をなす。坂の途中にある看板が気になって、ふらりとカフェの中に吸い込まれて来た旅のライダーたちが数名。わたしもそんな、ふらり入店組に見えるだろう。
先程、午前中は、観光客風の夫婦連れが店内に。近くのペンションからの紹介でやってきた(会話からの推論)品のよさそうな年配のカップル。客筋がよいのだろうな。実の娘が働いている様子を眺めるがごとく(わが主観)、小和田さんとその友人の働きぶりを、ふたりは目を細くして眺めていた。
朝方に斜里の海岸線をウトロまで11キロ走ったあとで、メーメーベーカリーさんに立ち寄ったのだが。武藤さんの推薦である。わたしが急な坂の昇りをバックで引き返して来たら、小和田さんが、パン焼きの窯があるキッチンの窓から顔を出した。通り過ぎてしまったからなのだが。「よろしかったら、中にどうぞ!」と、キョロキョロしているわたしに、大きく手を振ってくれた。まるで、トトロの世界から声を掛けてもらった気分になる。パイナップルピザとホットコーヒーを一杯。アイスティーは、おまけだった。わたしが、大汗をかいているのをみてとったからかな。
ウナベツ岳を背景に、メーメーベーカリーがある急坂のてっぺんからは、オホーツクの海がパノラマの絵のように見える。夕暮れ時はとりわけ、小麦畑の向こう側に凪いでいる北の海がきらきらと輝いている。夕日は、西に落ちていくことを忘れかけていた。
小和田さんに包んでもらった野菜のキッシュ。買い物袋を抱えて、海にまっすぐに落ちていく急坂を、車の窓ごしに目で追ってみた。ジャンプ台からゲレンデに着地するジャンパーの気持ちになる。まさかの転倒は考えないが、きれいに着地できるかどうか。感覚的には、かなり危うそうだ。いつもそうだった。たくさんのプロジェクトを動かしてきたが、詰めが甘かった。最後の着地がきれいに決まったことなど、数えるくらい。
つかの間の休息。短い休み中にいる自分の明日を考えてみる。10点満点のスコアなど、完璧な着地など、わたしには望みようもない。