昨日(6月21日)は、経営大学院の「マーケティング論」に、歯科医師の寒竹郁夫社長(博士)を講師としてお迎えした。自らが社長を務める「デンタルサポート株式会社」(「医療法人」ではない!「株式会社」である)は、2011年度の売上高が約100億円(予想)である。どこから見ても、成功している起業家である。
「デンタルサポート」は、中国本土をはじめとしてアジア各国(5カ国)に支店を持ち、海外でも事業を展開している。簡単に説明すると、「歯科医師派遣サービス事業」の会社である。
創業者の寒竹さんは、たまたまなのだが、現首相の野田佳彦さんと県立船橋高校の同級生である。昨日、講義に同席してもらった友人の高橋郁夫教授(慶応義塾大学商学部)の人物紹介によると、野田さんがはじめて千葉県会議員に立候補したときの応援団長である。
授業内での60分の講演で、時間が不足していた。医師派遣ビジネスのユニークさを話してもらう時間があまりなかったが、老人ホームや介護施設に歯科医師を、治療機器を装備した車両に乗せたまま派遣する実に面白い事業モデルである。全国17か所の医療法人をネットワークしており、同時にコールセンターを運営している。だから、首都圏だけではなく、全国どこにでも(歯科)医師を派遣することができる。ありそうなビジネスなのだが、そこは政治がらみの規制業種である。物事を進めるのは、それほど楽ではなかったらしい。
ご本人の話しぶりや風貌から察するに、極めつけのギャンブラーである。バブル期には、自社ビルに投資して4億円の借金を抱え込んだり、事業パートナーや従業員には二度にわたって数百万を持ち逃げされている。波乱万丈の人生を経験しているのだが、苦境から這い上がることができたのは、強運だけではないだろう。「たとえ数パーセントの確率であっても、成功を信じてあきらめない気持ちを維持できたから」とご本人はおっしゃっていた。そのことを、「『ともしび』を消さないでいられたから」と表現されていた。
わたしたちにとって、とくに新規事業に挑戦する起業家にとって、事業運営ではぎりぎりの場面に何度となく立たされる。寒竹社長の場合のように、資金繰りの苦しさや同僚の離反や裏切りなどは、日常茶飯事である。少なくとも、わたしの周囲の経営者たちは、成功しているひとも、まだこれからのひとも、等しく直面している種類の困難はほぼ共通である。
仕事の性格上、「最終的に、成功と失敗を分ける分水嶺はどこにあるのか?」を、わたしは日常的に考え続けている。寒竹さんが、「(消してはならない)ともしび」以外に、もうひとつ、重要なこととして指摘していたことは、「事業の社会的な意義(社会性)」であった。これをもたないと、従業員も顧客も、経営者には最後まではついてきてくれない。自分の金銭的な営為だけを望む経営者は、成功したとしてもそれは一瞬なのだろう。
翻って、わが身のことを考えてみる。「もうそろそろ投げだしたい!」と思っている事業(仕事=プロジェクト)がいくつかある。そのプロジェクトのための時間も金も人も、絶望的といえるくらいに不足している。十分な資源を与えられている事業など、わたしの周囲にはひとつもない。「ナイナイ」だらけの事柄ばかりだ。
しかし、20年前と10年前の二回、寒竹さんが置かれていた状況を想像してみよう。借金を抱えて家族に離反され、うまく行きそうになると同僚に裏切られている。そこから這い上がっていくことができたのだから、わたしにもできないわけがない。昨日、講義を受講していた起業家志望の大学院生たちは、ドクター・寒竹の経験をどのように感じただろうか。わたしは、ずいぶんと勇気をいただいた気がする。