小田川梨園@白井市では、幸水の収穫はお天気まかせ

 毎年秋になると、田舎の親戚や日ごろお世話になっている有人・知人たちに、地元白井市特産の梨を箱で送る。夏が終わる頃に、甘くてジューシーな幸水でシーズンが始まる。秋風が吹くとやや歯ざわりが硬い豊水に主役が交代する。大玉の新高が出るころに、梨の季節は終わりになる。


いつも梨の宅配でお世話になっているのが、近所の「小田川(おだがわ)梨園」さんである。1986年に、市川市から印旛郡白井町(当時)に引っ越して来て以来のお付き合いになる。
 子供たちが小さな頃から、梨園の中で遊ばせてもらっていた。蝉や甲虫が、梨の木にしがみついて、たくさん這いずり回っていた。農薬をほとんど散布していなかったからである。当時は、そのことに気がつかなかった。
 小田川さんは、わたしが教えていた法政大学の語学クラスの学生で、卒業後は千葉銀行小室支店に勤務していた佐野秀行君(現在、千葉銀行のコールセンター長)のお得意さんだった。佐野君の紹介で、現在の場所、白井市清水口3丁目に引越しをしてから、いまでもわが家とお付き合いが続いてる。全国発送の梨は、すべて小田川梨園の幸水か、豊水である。

 小田川さんの梨畑は、鎌ヶ谷大仏から印西方面に向って、風間街道に沿って道路脇の右側にある。庭先で梨を販売をしているので、「小田川梨園」の幟の旗を見られたかたもいるかもしれない。白井でいちばん美味しい梨農家として、「知る人ぞ知る」の梨園である。
 一時期、新宿伊勢丹のお中元の取り扱い量も大きかった。いまは、あまり数量は多くはないらしい。その理由はこの後で述べる。わたしのように、直接電話でお願いして、地方に発送してもらうお客さんも多い。それなので、いまでは農協へはほとんど出荷していないのではないだろうか?
 どう考えても、小田川さんのような作り方だと、共選共販は割りに合わないだろう。美味しさ、安全ともに、折り紙つきである。自社ブランドが確立した小田川さんのような農家さんだと、お客さんを自分で抱えている。農協に頼って、無駄な手数料を払う意味は、いまやほとんどないだろう。

 小田川さんの梨は、自然農法に近い状態で栽培されている。梨畑には、有機堆肥がすきこんである。害虫駆除のための農薬散布を最小限にとどめているので、畑にはカブトムシやクワガタがたくさんいる。わが子たちが畑で安心して遊ぶことができたのは、安全な梨畑だったからである。
 成長ホルモン剤を使用していないので、純粋に商売上ではまずいこともある。収穫期が正確にはコントロールできないのだ。もし発送の時期をピンポイントで定めて、収穫期が固定されている商売ならば、小田川梨園さんには怖くてオーダーができない。しかし、わたしたちが小田川さんに求めるのは、そうした正確な発送のタイミングではない。
 ビジネス的に言えば、収穫時期や発送のタイミングは、きちんとしていてくれたほうがいい。でも、ホルモン剤を使用していないから、「こんな暑い夏なんで、(収穫時期が)わからないんです」と60歳をすぎてもまだ若々しくて、梨のように美しい小田川さんの奥さんに言われたら、「発送はいつでもいいんですよ」となる。「美味しくなるのを待たせてもらいます」とつい言ってしまうのだ。
 人間は、もっと自然の摂理にしたがうべきだろう。梨であれ、リンゴであれ、コメであれ、最も糖度がのっておいしくなるときが、適切な収穫時期である。化学的な薬剤を使用するのは、ほんとうは最小限にとどめるべきであろう。果物などは、そんなに厳密に販売時期を失うものではない。

 人間の体も、自然の摂理にしたがっている。美味しさを感じる味覚やや指の触覚も、自然の移り変わりにしたがっているはずである。わたしたちの体は、天候の変動に適応していく。暑ければ暑いなりに、寒ければ寒いなりに、体は自然の空気に慣れ親しんでいく。
 天気の変動に、一喜一憂しているのは、価格や売上の上下動にあわてふためいているのは、卸と小売りの中間流通業者だけかもしれない。庶民には、一日二日の収穫時期の違いなど、ほとんど関係のないことである。ばかばかしい。
 いつも梨のお届けする先は決まっている。8月も中旬、お中元の時期はとうの昔に終わっている。お届けのときは、もはやいつでもいいのだ。相手は梨の到着を待っているわけでもない。わたしからお中元は来ないものだと思っている。
 ある日突然に、小川先生から、白井の名梨「幸水」10KG入りが一箱、玄関先に届くのだ。そのときがいちばん、千葉産の梨がジューシーで美味しくなる時期である。だから、美味しさをピンポイントでお届けするのだ。
 日本でいちばん安心で安全な梨を、もっとも美味しい状態でお届けします。日本でいちばんお金持ちの方からいただいたお中元・お歳暮ののお返しが、千葉県白井市の自然栽培の梨なのである。わが町でいちばんおいしい梨、小田川梨園の幸水である。ご賞味あれ。