学生達が隔月で提出してくれている感想文の中から、優秀作品を掲載する。今回の課題図書は『小さくて強い農業をつくる』だった。3人分を掲載する。
『小さくて強い農業をつくる』感想文 38期 愛場 瞳
まず『小さくて強い農業をつくる』という本書の題名を読んだとき、内容を全く想像することが出来なかった。そもそも自分にとって農業は全く身近な存在ではなく、そのうえ農業の本を手に取ったことがなかったからだ。「野菜の魅力」や「農業魂」が語られていたらどうしようかと、少しヒヤヒヤとしながら読み進めた。しかし、想像に反して、実に『農業らしくない』内容で何度も驚かされた。農業をビジネスとして扱い、その考え方がユーモアを交えて紹介されていたので、すらすらと読んでしまった。驚いた中でも特に、農業と題名が付けられた本のなかに、『SNS』という言葉が使われていると思わなかったので、良い意味で期待を裏切られた。
農業については「なるほど」と思わされることばかりだったため、今回は、なぜ久松さんが『小さくて強い農業をつくる』ことに成功したのか、私なりに考察しようと思う。
まず、本書冒頭から印象深いのは、久本さんの謙虚な姿勢である。もともとそのような性格なのかと思いきや、サラリーマン時代のエピソードを読んで、そういうわけでもなさそうだと思い、何が大胆で思い切りのいい久松さんを、謙虚な姿勢にさせたのか、とても気になった。私はこの正体を、久松さんが研修期に何度も経験した、「役立たずへの転落」での失敗にあると思う。
謙虚な姿勢に少し通じるところがあると思ったのが、ダイソーの矢野博丈社長だ。矢野社長は謙虚を超えて、自分を卑下する発言で有名だ。「私はどうしようもないただのオッサンです」「私はインターネットも分からないし、時代遅れな人間ですから」と話し、また、ダイソーについても「そもそもダイソーなんて底の浅い商売ですから」「セリアには店でも商品でも負けた」とも言及している。どうしてこんなにも自信を持たないか調べてみると、矢野社長はダイソーで成功するまでに、借金や9回もの転職など、失敗と挫折を繰り返しているからであるようだ。
失敗から多くを学び、それを成功につなげているのは、久松さんや矢野社長に限ったことではない。今まで読書感想文を通して読んできた『挫折のすすめ』の平石さん、『福島屋 毎日通いたくなるスーパーの秘密』の福島さんなど、成功するまでに大きな失敗を繰り返し、その失敗を成功に結び付ける点が共通している。
今まで、失敗することは成功するために、無い方が望ましいものだと思っていたが、それは間違っている。成功のために、失敗はするべきである。一度失敗を経験し、その失敗から謙虚に姿勢を正すことがきっと重要なのだ。
では、久松さんが経験した失敗の中で得た成功へのヒントは何かと考えてみると、それは他の農家と違い、自身が『言語化する』という能力を持っていることに気が付いたことだと思う。そもそも、私がなぜ農業の本に少し心構えてしまったか、改めて考えると、農業家が文章を書くことが上手く無いという偏見があったからだ。
「向いていないからこそ言語化する」というエピソードを読んで、プロ野球選手イチローの、「僕は天才ではありません。なぜなら自分がどうしてヒットを打てるか説明できるからです。」という言葉を思い出した。努力家こそ、自分の行動や目標を言葉にして説明する力があるのだと気付かされた言葉だ。
『言語化する』大切さは、自分の身の周りでも思い当たる。私の読書感想文に多く登場するアルバイト先の塾を今回もとりあげようと思う。私の勤める塾では「楽観的」と「悲観的」を交互に繰り返すことで、生徒の目標を達成しようという考え方がある。楽観的に夢を持って、悲観的に計画を立て、楽観的に立てた計画を実行して、悲観的に結果を反省するというものだ。実際に良い成績をとる生徒はこの「悲観的」なプロセスで自分の具体的な目標を『言語化する』ことがとても上手で、例えば、「単語を100語覚える。そのためには1日に20単語覚える。」といったふうに、自分の目標を達成するために、日々のノルマを細かく設定している。自分がなぜ、何を勉強するか分かっているため、自然と能動的になる。それに反して、なかなか勉強が上手くいかない生徒は、やたらと「楽観的」または「悲観的」のどちらかに偏ってしまう。その結果、自分がなぜ、何を勉強するのか分からず、どうしても勉強は受け身になってしまう。
きっと生まれながら農家のもとに生まれてきた農業家は、直感的に農業が出来る代わりに、『言語化する』ことは難しいだろう。久松さんは(自称)センスもガッツもなくても、言語化することが出来たからこそ、他の農家とは違うニッチな強さをもった農業をつくることができたのだと思う。
本書の最後に書かれていた「途中」の詩も含め、本書を読んで、もっと思い切りよくすごすことが今を大事にできる方法なのだと気が付いた。大学3年、これから先の人生を決める就活が始まるが、失敗も恐れずに挑戦したいと励まされた。
『小さくて強い農業をつくる』 38期 江頭菜摘
「君のファンを増やしなさい」、この言葉は久松達央氏が一流サラリーマン時代の上司に言われた言葉であり、彼が農業家となった今でも大事にしている言葉である。一流サラリーマンと農業家という2つの職業は、一見共通項がないように見える。
しかし、久松氏の経験からも分かるようにこの2つの職業にも共通する価値観が存在したのである。私はこの事実に驚愕した。
現在私は就職活動に一歩足を踏み入れた段階であり、自分の過去や現状を振り返り、将来のビジョンを設計している。自分の進むべき道は企業就職なのか、あるいは別の職業なのか。企業であったら、大手企業なのか、中小企業、ベンチャー企業なのか。どの道にまっすぐ進むのが適切であるのか苦悩しているのである。
この状況下において、本書を読み、久松氏の人生経験を知った。そして、真っ直ぐその道に進む人生でなくても、最高の人生を送れるという事が分かった。以後、久松氏の人生に焦点を当て、自身の人生について考えることにする。
「小さくても強い農業をつくる」の筆者久松達央氏は、一流大学卒業後、一流企業のサラリーマンとなった。学歴と語学力が評価され、若手社員のうちから出世コースが待ち受けている事が予想できた。
しかし、幼少期から「束縛させるのは嫌だ」という純真な思いと、「人と同じ事はしたくない」という小さなプライドを持っており、結果出世の道が待っていたのにも関わらず、農業への道に進んだ。
地位や給与を重視する生き方を選ぶ人間にとっては、久松氏の一流サラリーマン時代の人生は実に魅力的に感じ、目指す者が多いだろう。大企業という安定した世界の中で着実に成長し、それに見合った給与をプライベートで使用するライフスタイルである。
久松氏のサラリーマン時代において、仕事は面白いが、会社員としての立場や働き方への違和感を拭えなく、いつの間にか、関心の対象が趣味の活動へと移っていたそうだ。そして、その趣味というのが、人間らしさを求めて始めた農業なのである。
その後久松氏は、いわゆる脱サラをし、農業家になった。一見、最初からサラリーマンへの道に進まなければ良かったのではないか、と思うが、彼はサラリーマンを経験しなければ農業に出会わなかったであろう。そして、現在久松農園の経営者として活躍しているのは、高学歴ゆえの知識量やサラリーマン時代の経験が活きているからであろう。
冒頭でも紹介した「君のファンを作りなさい」という久松氏が上司からもらった言葉は、社内という大きな組織の中で自分のやりたい事を実行するのであれば、自分を支援してくれるファンを作る必要があるという意味を持つ。この言葉は会社を辞め、農業家となった現在でも活かされているそうだ。
では、私達就活生のような、社会へ一歩足を踏み入れようと志す者にとって、現段階でどういった人生を目指すのが最適か。私自身、計画的に物事が進まないと気が済まないタイプの人間である。小川孔輔ゼミナールに入ろうと志したのも、入学前の高校生の時である。その為、自分の人生プランは念入りに設計している。
しかし、本書を読み、人生とは思い通りいかないものだと感じた。
小川先生がクレドの「私達は目的意識を持ちます」について、目標を目指す中で、目標は変わって良い、むしろ経験を通し新しい目標を定めて再設定する能力が重要である、と仰られていました。
この小川先生の言葉と本書の久松氏の人生を通して、現段階で精密に進むべき道を設定しなくとも、進む中で進むべき道を模索していけば良いのではないだろうかと思った。
もちろん、精密に人生設計をし、その通りに人生を歩む者は中にはいるだろう。しかし、多くの者が挫折であったり、経験を通して、新しい進むべき道を歩んでいるのだ。
久松氏は自身で一流サラリーマン華麗に道を外すと述べているが、道を外し、新しい道へと進んだとしても、どの道も繋がっていると言える。人生の経験において無駄な事はないのである。
就職セミナーに足を運ぶと耳にタコが出来るほど「自分の過去、現在を分析しなさい。そしてそれを踏まえて将来自分がどうなっていたいか考えなさい。」と言われる。そう言われ、紙に自分が何歳までにどうなっていたいかを細かく書き出す作業をしている。
もちろん、必要最低限やらねばならない作業ではあるが、おそらくこの精密な設計は予定通り進まないか、新しい目標が設置されるだろう。そうであるならば、予測不能な人生設計をするよりも、久松氏のような経験豊富な人間の本を読んだり、話を聴いたりする方が有意義ではないだろうか。
本を読んでいて、久松氏を魅力的な人間だと感じた。それは、一流サラリーマンから農業家という一風変わったキャリアを積みながら成功している為に感じた。また、毎回話を聴いていて、小川先生を魅力的な人間だと感じている。それは、小川先生が多くの経験をし、多くの引き出しを持つ方だからである。
私も多くを経験し、多くを語れる社会人になりたいと強く思った。
『小さくて強い農業をつくる』 38期 塚田章翔
私は、今回の読書課題である「小さくて強い農業をつくる」を一読して、一番に考えたことは、若いうちは様々な事柄にチャレンジしていかないと、たった一度の人生なのだからもったいないということです。また、若いうちにたくさんチャレンジをして、失敗を重ねることで、その後の人生の経験で他者との差になると思いました。
「小さくて強い農業をつくる」の著者である久松達央さんは、一流大学の慶応大学を経て、一流企業の帝人に就職氷河期という厳しい時代に就職しました。しかし、自分自身の過去のキャリアを気にすることなく、身一つ投げ出して、農業の世界に飛び込んでいった「勇気」は、素晴らしい精神力の持ち主だと思いました。
しかし、著者もたった一人で現在の「久松農園」のような経営状態まで、成長させることができたわけではありません。そこには、たくさんの人々の支えがありました。私は、著書の中に二つの印象に残る言葉がありました。
一つ目は、まだ企業の帝人に著者が勤めている時の配属面談の際に上司に言われたという、「周りにあなたのファンを作りなさい」という言葉です。この言葉そのものは、当時やりたいことに対して一直線だった、著者を納得させる言葉だと思います。しかし、それと同時に、この言葉に隠された上司の方の著者に対する「思いやり」を強く感じました。
つまり、自分のやりたいことは自分だけの気持ちだけではなく、周りの人々の理解も、しっかり得られないと本当に達成できたとはいえないということです。この言葉のおかげで著者は様々な状況において、周りと協力していくようになります。そして「久松農園」を経営していく上で欠かせない存在となる、「フシミ」さんとも出会い、さらに「久松農園」を成長させる結果にもなりました。
また、この言葉は自分自身の胸にも大きく響きました。なぜなら、私が大学に通えていることや、小川ゼミナールで充実した活動ができているのは、親や小川先生・フィールドワーク先の企業の方々の協力があってこそ成り立っています。しかし、日常の忙しさの中にいると、そんな当たり前のことを忘れてしまいがちです。「なぜ、自分だけがこんなに大変な思いをしないといけないのだ」という気持ちを抱いていた時期もありました。だが、時間に余裕が生まれると、周りの支えがあってこその自分だということに、いつも気付かされます。なので、これからは忙しい中でも、貴重な経験をさせて頂いていることに感謝の気持ちをもって臨みたいと思います。
二つ目の印象に残っている言葉は、「20代で土日が楽しみになったら、人間おしまいだ」という言葉です。この言葉は、「目的・目標」を持たずに、日々をただなんとなく過ごしていたら無駄だということを言いたいのだと思います。
著者は、帝人に勤めていた何年かは、心のどこかに「有機農業」への思いを抱えたまま生活をしていました。つまり、「本当にやりたいこと」とは別のことを辛抱しながら過ごしていました。著書の中にも実際、「有機農業」一本に踏み出すのはとても勇気のいる決断だったと書かれていました。
しかし、そこで勇気を持って一歩を踏み出すことが、過去の自分と別れ、未来の自分と出会うきっかけになると思います。このことをきっかけに、著者は常に「過去のことは考えなくなり、今を良くすることで未来を改善していく」という考えになったと述べられていました。
この言葉は、これからの自分の人生に活かしていきたいと思えました。「やるかやらないか」を迷っている時間そのものがもったいないですし、過去にこだわっても仕方のないことなので、常に先を見すえた視野をもっていたいと思えるようになりました。
著書「小さくて強い農業をつくる」は、久松達央さんの成功談や失敗談がたくさん書かれていました。成功や失敗をするのは、様々な事柄に対して「チャレンジ」した結果です。また、著書の中に、「成功法を教えてあげることは簡単だが、それは何の意味も持たない」と記されていました。私もその通りだと思います。成功した結果よりも、そこで経験した過程のほうが、何倍も貴重な経験になると思います。
なので、私もこれからの人生は、自分自身の信じた道に対して、失敗を恐れることなく、チャレンジしていこうと思います。