この先(3年間)、わたしが集中的に取り組もうとしているテーマが3つある。(1)サービス産業の生産性向上とそのための手法開発、(2)農業分野でのマーケティング技術の蓄積、(3)アジアの中の日本。この数日間は、第3課題のために読書をしている。
読書の目的は、今年からはじまる文部科学省の助成研究(平成24年度~平成26年度)のためである。基礎的なリサーチの枠組みと、チーム研究のスケジュールを立てることが目的である。
書評を数週間さぼっていたので、読書のスピードが上がらない。もともと速読派だから、読むのが遅いといらいらしてしまう。
それはいいとして、昨日から読んでいる本は、決して最近のものだけではない。リーマンショックの前(2007年~2008年)に書かれたものが何点ある。その後に3.11があったから、今の日本を考えるときに、識者たちが当時は、日本とアジアをどのように見ていたのかを知る参考になる。
むしろ最近のものではない本を読むほうが、時代考証的には有用かもしれない。日本のアジア戦略や日本の進むべき方向性を示した文献である。このごろのわたしの本棚を紹介してみる。
・原丈人(2007)『21世紀の国富論』平凡社(★★★)
・ドミニク・テュルパン+高津尚志(2012)『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまづくのか』日本経済新聞出版社(★★)、
・大津啓一郎(2011)『消費するアジア:新興市場の可能性と不安』中公新書(★★★★)、
・渡部千春(2010)『日本ブランドが世界を巡る』日経BP社(★★★)、
・関満博・池部亮(2007)『ベトナムの市場経済化と日本企業』新評論(★★★★)、
・久繁哲之介(2010)『地域再生の罠:なぜ市民と地方は豊かになれないのか?』ちくま新書(★★★★)
この6冊のうち、昨夜は、最初の3冊を読んでいた。2冊(久繁、関・池部)は、すでに読み終わっていて、最後の一冊(渡部)は、ブランドのパッケージ本なので、単に眺め読みをする対象である。
最初の書籍(原)は、米国金融資本主義批判の書である。リーマンショック前に書かれたものである。スマートフォンが携帯電話の主流になる少し前だったので、IT産業を取り巻く市場環境のダイナミズムはすでに大きな変化が起こっている。しかし、いまでも充分に通用する見通しと論理がそこでは展開されている。
ITが専門の人間ではないのでよくわからないが、PUCやIFXの理論は、発想としてはおもしろく感じる。技術的な評価は別にして、リレーショナルデータベースを基盤にした米国発の「1to1マーケティング」におけるプライバシー問題はこれで回避できるのだろう。
また、日本が米国のような短期志向(株主資本主義)に陥らないよう、どの分野に長期的に国富を投じるべきかを論じている点は評価できそうだ。しかし、最近、このひとはあまりメディアで見かけない。それはなぜだろうか?(どなたかご存知でしたら、教えて下さい)。
二番目の本(ドミニク+高津)は、日本の全地化対応のまずさを指摘した本である。スイス在住のフランス人との共著ということにはなっているが、実際には日本人(高津氏)が大幅に手を入れたであろうと思われる。興味深い点は、日本がグローバリゼーションで躓いた理由を4つの要因(つまづきの要因#1~#4)で説明している点である。おもしろいので紹介する。
要因#1: もはや競争優位ではない「高品質」にこだわり続けた
要因#2: 生態系の構築が肝心なのにモノしか見てこなかった
要因#3: 地球規模の長期戦略が曖昧で、取り組みが遅れた
要因#4: 生産現場以外でのマネジメントがうまくできなかった
要因#1と要因#2は、同じ事柄の裏面と表面を説明している。モノづくりが日本の強さであって、サービスとソフトの組み合わせをシステムとして提供する能力に欠けていた。正しい説明だが、あまりグローバリぜーションとは関係がないようにも思うがどうだろうか?
要因#3は、日本企業だけの問題ではない。となると、要因#4は、製造現場で日本が強みを持つことの裏返しだから、すべて製造業で優位性を持っていた日本のマイナス面という説明になる。人材育成のシステムが国際的でないことが、日本の弱みなのかは?マークである。
原氏の著作は、米国ビジネススクール批判である。二番目のフランス人(テュルパン氏)の本は、スイスのビジネススクール(IMD)の礼讃である(学校の宣伝色が強すぎたので★★である)。わたしは、どちらも極端を走りすぎていると思う。
世界を見渡してみるとよい。素晴らしい国とダメな国があるのではない。役に立つ人間と役に立たない人間がいるのである。ビジネススクールも同じである。フランスとスイスのビジネススクールがよいとは限らない。米国の経営大学にも素晴らしい教授たちがいた。ただし、自分の授業や理論を高く売りつけるだけの先生もいた。
いま3冊目を読んでいる。半分ほど読み終えている。大津(2011)『消費するアジア』中公新書。これは、お勧めの一冊になりそうだ。前橋シティマラソンに行く時間が迫っている。宇都宮線、前橋行きの電車の中で読了することになるだろう。
ちなみに、最後の本である久繁(2010)『地域再生の罠』は、地方商店街の開発問題(衰退の理由と処方箋)を扱ったものである。現状分析は素晴らしいのだが、処方箋はいまいちである。しかし、読むべき価値はある。