外部の講演は、基本的には依頼されて引き受けるものである。ところが、昨日は「売り込み講演」を行ってみた。場所は、秋葉原のインテージ本社。日本版顧客指数の開発では、インテージはプロジェクトの重要メンバーだった。今回は、社内向けのプロモーション講演である。
講演時間は、予定をはるかに超過して、約90分にも及んだ。わたしの講演は、秋葉原本社以外にも、上海子会社(二度ほど現地調査でお世話になった)や長野支社(SESの実施で関係)にも同時配信されていた。
宮首社長のご配慮なのだろう。連休の谷間にも関わらず、150名ほどの社員の方がわたしの話を聞いてくださった。
社内での講演レジュメをアップするのは、わたしとしても異例のことである。ただし、レジュメだけをみても、内容はきっとわからないだろう。矛盾しているのだが、本テーマと調査会社のポジショニングが理解できるひとが深く読めば、内容は推測できるようになっている。
講演の中で一番に言いたかったことは、最後のふたつのフレーズである。
・(調査業界トップの上場企業といえども、)財(モノ)を対象とする調査事業だけでは先が見えている。
モノとサービスを一体と考えた「ソリューション事業」に対するインプットとして、調査データ(情報)を位置づけないと、10年後、20年後に会社が消えてなくなってしまっているかもしれない。
・現代のビジネスリスクとは、「何もしないこと」にある。
いまの日本企業にとっての最大のリスクは、アジアからの脅威でも大震災のような環境の激変でもない。もっとも危険なリスク要因は、社内のビジネスに対する姿勢(昨日と明日が同じであることが心地よい組織)にある。
現在、苦境に陥っている大手家電メーカー(3社:ソニー、パナソニック、シャープ)が、この20年間でたどってきた道を虚心坦懐に眺めてみるがよい。事業領域の選択で、既存技術(モノ)にこだわりすぎていたのではないか。新しいものへの挑戦を許す企業風土をどこかで失ったいたのかもしれない。そして、「(日本企業の)モノづくりの素晴らしさ」を過度に持ち上げてきた研究者たちにも、その責任の一端はあるように思う。
以下に、特別講演のレジュメをアップする。(多少、解説を付してある。)
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インテージ特別講演会
「顧客サービス戦略を成功に導くための事業のデザイン」
2012年3月19日
法政大学大学院 小川孔輔
1 顧客サービス戦略の今日的な課題
(1)なぜ、JCSI(日本版顧客満足度指数)の開発座長を引き受けたのか?
・国家的な課題 = 日本の産業構造の変化(2007年6月)
サービス産業の低生産性を反転させる
・個人的な理由 = 農業分野とサービス産業に研究者としての未来を託した
・社会事業家としての選択 = 新しい事業の種を撒くために
(2)顧客満足の向上とサービスの特性
・命題1:「顧客満足度の向上は、必ずしも事業収益の向上にはつながらない」
イエス? OR ノー?(サービス・プロフィット・チェーンによる説明)
・どのような条件が満たされれば、「イエス」になるのか?
製造業とサービス業の違いは?
・「サービス・ドミナント・ロジック(SDL:サービス主体論)」
命題2:「サービスも財も、顧客満足を生み出すための共同インプット」
(3)顧客満足の構図:3つのモード
・メーカーの顧客サービス
~ 「モノの購入後のアフターフォロー」という位置づけ
・小売業における顧客満足度
~ 「品ぞろえ形成のためのサービス」と「接客サービス」の融合
・サービス業の対顧客戦略
~ 「顧客接点そのものがサービスの本質」
(4)顧客戦略のための事業設計(インテージの事業構造)
・命題3:「調査事業は、コンサルティングサービスを伴わないと付加価値が付かない」
・命題4:「事業の長期的な成長は、定期的(10年に一度)の事業構造の見直しを求める」
・調査業界のナンバーワン企業が目指すべき事業領域の選択
引用:IBM PCメーカーからソリューションビジネスへ
2 顧客満足度の測定とCS向上(事例集)
(1)日本版顧客満足度(JCSI)の今
・何が達成できたのか?
・何が不足しているのか?
・実現しなければならないことは?
(2)日本版顧客満足度(JCSI)の事例から
・2012年度の調査結果から
・調査システムの概要(別パワポ)
・事例1
・事例2
・事例3
(3)B2B企業におけるCS向上(H社:別刷り)
・大手トラックメーカーにおける販社CSの測定
・失われた顧客の再獲得:H社CS測定の副産物
・リサーチ/コンサルティング・システムの再設計
(4)顧客満足ナンバーワン企業の特性
・事例1:「オルビス」(通販部門第一位)
参考資料: CSフォーラム講演資料(第3回)
・事例2:「スターブライヤー」(長距離輸送部門第一位)
参考資料: CSフォーラム講演資料(第1回)
・事例3:「劇団四季」(エンターテインメント部門第一位)
参考資料: CSフォーラム講演資料(第2回)
3 新しい事業機会の創出
(1)インテージの位置
・シンジケートデータの品ぞろえ
・パネル調査の充実
・調査事業とコンサルティング事業のシナジー効果
(2)次世代のための事業システムの設計
・ネット時代における事業ドメインの選択
・ミドルの人材育成は、社内ベンチャーにあるのでは?
・事業システムの「専門性」をどこに見出すのか?
(3)ビジネスチャンスとリスク
・SDL(サービス・ドミナント・ロジック)再考
~ 財(モノ)を対象とする調査事業だけでは先が見えている
・現代のビジネスリスクとは、「何もしないこと」にあり!