岡藤正広君(伊藤忠商事社長、元クラスメイト)と38年ぶりで再会

 昨日、伊藤忠で講演をさせていただいた。岡藤社長は、東大の梅沢豊ゼミの級友である。講演の内容は、後程アップすることにする。それより、講演の前に社長応接室で、38年前を振り返って話した思い出話がおもしろかった。20分間の対談要旨を紹介する。

 23階の社長室応接室には、繊維カンパニーの岡本プレジデントや食料カンパニーの青木プレジデントも同席していた。いま総合商社のトップになっている岡藤君くんだが、わたしたちはあまり教室に座っていなかったことがばれてしまった。
 夏の軽井沢合宿で、ふたりの女性秘書たちを梅沢先生が「強制混浴」させた事件が話題になった(もちろん、タオルは巻いてましたよ!)。いまならば、たぶん梅沢先生はセクハラ事件で訴えられるだろう。ずいぶんと牧歌的な時代だったものだ。
 そんな話を切り出した岡藤君も、自分の部下がその場にいたのだから、少々照れ臭かったのではなかったろうか。なんとなく、お見合いをしている雰囲気だった。
 
 経済学部の梅沢ゼミ第二期生は、東大紛争後(1970年入学)、最初に受け入れたゼミ生たちである。上級生(4年生)がいなかったので、3年生がたくさん(18人?)ほどいたように記憶している。わたしたちの共通認識は、梅沢ゼミには二つのグループがあったことである。
 岡藤君は大阪出身、わたしは秋田の県立高校出身である。ともに地方出身の「バンカラ体育会系」に属していた。以下では、個人のプライバシーに関わりそうな話なので、名前と会社名はイニシャルで符号化する。
 体育会系のゼミ構成員には、鹿児島ラサールの出身で、卒業後に商社経由で大手製パン会社の娘婿(社長)になったO君、アメリカンフットボールの部員で卒業後は商社マンになったM君、伊藤忠の対抗商社のMに行ったT君などがいた。このグループの構成員(多数派)は、あまりモテモテの集団ではなかった。(実際はそうではなかったかもしれないが、わたしはそう見ていた。)

 一方、東京都出身で開成・麻布・武蔵出のゼミ生たちがいた。数は多くはなかったが、VANやJUN、アメカジ(アメリカン・カジュアル)に身を固めたファッションセンスが良い東大生たちである。
 彼らの多くは、卒業後に大手都市銀行や当時の人気企業(JやDやS)に就職した。F銀行に就職した小柄なI君(岡藤君は期末試験の時にI君から借りたノートにお世話になっていた)、S銀行に就職したN君、海外支店が多いのでT銀行に行ったH君。破たんした航空会社のローマ支店に駐在していたY君たち。
 そういえば、4人とはちょっとタイプが異なるが、大手広告代理店Dでコピーライターになり、就職してすぐに特別賞をもらったE君、留年してから外交官になったN君などもこの中にいた。彼らは、地方出身だったが、わたしの意識の中では、なぜか東京私立進学高のグループに分類されていた。
 この6人は、わたしや岡藤君とはちがって、見てくれもよかった(ごめんなさい、岡藤くん)。だから、女の子には相当にもてたはずである。横で聞いていると、「どこの店に新しいデザインの服が入って、今度一緒にいこうぜ」のような、いつもファッションの話題が中心だった。「ヨーカドー」が百貨店ではなく、衣料品系の量販店であることはずいぶんとのちになってから知ったことだった。
 厳密に言えば、学生たちの中には、3番目のクラスターがあったように思う。筑波大や学芸大の付属高校から来ている勉強好きな集団である。大蔵省や外務省の役人、あるいは大学院に進学して東大教授になった連中である。幸いなことに、梅沢ゼミには、このグループのメンバーはただのひとりもいなかった。

 大学を卒業してから38年が経過している。いまや皆さん、還暦を過ぎて、60歳から62歳である。退職した人も多いし、生き残っていても子会社や関連会社の出向役員である。振り返ってみる。
 ふたつのグループのなかで、世間的な物差しで出世しているのは、第一のグループである。圧倒的である。地方出身で、ビジネスの世界でたくましく生き抜いてきた人間たちなのだ。岡藤君やT君(どちらも商社マン)がその代表選手である。
 成功の秘訣は、日本の経済と一緒に、自らも変化しながら機敏に動いてきたこと。そして、なによりも、自らの立身出世よりも、組織の成長と自社の繁栄を願って、月並みな言い方だが、ともかくも一生懸命に働いてきたことだろう。第一グループの特徴は、愚直にたくましく生きてきた結果として、組織メンバーからすこぶる愛される人になることができたことだ。
 昨日の講演には、200人の伊藤忠社員(管理職と一般社員)が参加してくれた。岡藤社長は、会議室の一番後ろの席に座って、わたしの話を90分すべて聞いてくれた。そのときの印象である。会議室の雰囲気でそれがわかるのだ。

 岡藤君は、伊藤忠商事の社員さんたちに、とても愛されている。風貌や話しぶりや、経営のスタイルが好かれているらしいことが、社員たちの話から伝わってくる。そして、もっと大切なことは、経営トップとして、絶対的に頼りにされていることである。そうなのだ。
 元のクラスメイトが大手商社のトップに就任したことは、わたしたち同級生にとっては誇りに思える出来事である。しかし、縁があって彼の会社に招かれて講演し、懇親会で社員のみなさんと話してみて、元の級友が社員からとても慕われていることを知ることができたことのほうが、わたしにはうれしかった。
 岡藤君は、学生時代は案外とシャイだったように思う。そして、庶民的で目線が低い人だった。昨日、改めてそのことが確認できたように思う。ご招待、ありがとう。
 講演の機会をいただき、気持ちよく感じたこと。伊藤忠商事の社員の皆さんは、仕事に取り組む姿勢がまじめで素敵に思えました。これを機会に、岡藤君、そして社員のみなさん、今後ともよろしく!