兵庫県生花市場と鶴見花きの経営統合の記事が発表されている。日本農業新聞などで記事をお読みになった市場関係者は、この合併劇をどのように感じられただろうか?わたしの印象はすでに掲載したので、本日は、市場の経営統合について一般原則を述べておきたい。
<補足>
昨日のブログは、関係者に対して配慮が足りないとのご指摘を、一部の方からいただいた。間違ったことを書いたとは思わないが、たしかに誤解を受けそうな書き方だったかもしれない。そこで、オリジナルのドラフトを間接的な表現に書き直して、本日再掲することにした。
まずは、学者らしく、原理原則論から話をはじめることにする。ロジカルに考えて、卸売市場を再編するときの原則は、以下の二つである。
#1: 社会性の原則
卸売市場、とくに中央卸売市場は、公共団体(国や県)によって運営されている。取引の場所は、民間ではなく国や県などが場内の整備や使用する施設・設備を含めて、一般利用よりもかなり低い家賃・利用料で荷受会社に取引の場所を提供している。だから、統合には、公的な視点が必要である。
つまり、第一に、生産者と買参人、その先の消費者にとって、統合が利便性を高めるものでなければならない。企業としての自社都合は、すこし優先度を下げて考えるべきである。
#2: 経済合理性の原則
消費者と小売業者にとって、そして生産者にとっても、市場統合の経済的なメリットが実現できような形が理想である。つまり、以下の3つのベネフィットが、花き供給チェーンの参加者にすべからくもたらされるよう、卸市場の合併とその後の経営の合理化が進むことが望ましい。
市場の統合によって、 ① 「安くて」②「品質の良い商品」が、③「迅速に届く」ことが実現できること。この3つの原則を忘れないでいただきたい。そうでないと、社会システムとしても、市場の統合が無意味に終わる。
前者は、市場の公的側面を強調した論理、後者は、民間企業の論理であり、消費者志向の考え方である。いずれにしても、このふたつの原則にしたがって、市場は統合されていくべきである。したがって、本来は、政府機関(農水省や経産省:公取委)などが、市場の経営統合に関与すべきであると、わたしは考える。
以上の観点から、実際の統合にあたっての形について、ひとつの重要な論点を指摘しておきたい。それは、(1)市場の物理的なロケーションと(2)荷受会社の組み合わせに関してである。
(1)物理的なロケーション
情報システムと管理部門の統合は、合併のメリットを生かす最低限の要件である。しかし、それだけでは、十分ではない。少なくとも、物理的な場所を集約しないと、企業全体としての生産性は高まらない。合併のメリットが一番大きく出る部分は、ロジスティックス=物流(場内・場外)関連の作業から生まれるからである。
統合のメリットを、流通コストの削減という観点から考えてみよう。うまくやれば、現行の手数料を約2%は下げることができる(市場手数料1%を下げて、1%は荷受会社が利益に留保してもかまわない)。なぜなら、出荷者(生産者、輸入業者)からみると、出荷先が数か所から1か所に集約できるからである。出荷経費(パッキング、事務作業の簡素化)+輸送費が大幅に低減するはずである。
単純に推計しても、出荷者側には粗利(コスト)で2%以上のメリットが生まれる。だから、たとえば、兵庫県生花と鶴見がロケーションを一か所に集約することで、「新関西市場」は、圧倒的に「選ばれる市場」になることができる。逆に場所を集約できなければ、他市場にとっては、両社の統合はたいした脅威にはならないだろう。
海外の事例を上げてみよう。オランダの市場統合(フローラホランドとアルスメール)は、いま問題山積の状態にある。せっかくの合併が、充分な成果を上げていないのである。リーマンショックと欧州債務危機だけが、オランダの市場に深刻な問題をもたらしているわけではない。根本的な原因は、二か所(3か所)のロケーションを残したままの合併だったからである。
(2)荷受会社の組み合わせ
関係者からの反発や実現可能性をわきに置いて、具体的な例をあげてみよう。
たとえば、日本で最大規模のふたつの荷受会社(大田花きとFAJ)は、同じ大田市場の中に入場している。1990年に、公正取引委員会が「競争原理を導入する」という名目のもとで、同じ場所に複数の荷受会社を入れようとした。現実的な競争の形をよく理解しないで、「机上の」経済理論を適用した結果である。
私見ではあるが、中央市場化のプロセスの半分は失敗だったと思う。合理化された側面(成功した半分)は、中央市場化によって、小さな市場が一緒になって効率が高まったことと、市場が情報武装化したことである。この部分の貢献は、かなり大きかった。
ただし、二社を同一場内で競争させたことで、統合のスケールメリットが失われてしまった。その結果、場内物流の整備や情報システムが非効率なままに終わっている。野菜・果物など比較して、あるいは海外のそれと比べて、花きは市場手数料が高くなっている。あまり望ましくない現実である。
しかし、公取委も、ようやく卸市場の統制に関しては、基本的に態度を変えたわけである。いまでは市場間競争を広く考えるようになった。異業種間競争(ネット取引)や新規参入も視野にいれて、業態をまたいで競争概念をとらえている。
したがって、行政の側からは、たとえば、大田花きとFAJが経営統合する下地ができたことになる。同じ場所にある荷受会社をセットで統合するほうが、経済的にはあきらかに合理的である。「なにわ」と「鶴見」の組み合わせについても、同じことが言えるはずである。
行政当局はそのように指導すべきだとわたしは考える。
今後、関東地区などでも、次なる経営統合の兆しが見られる。
そこで、わたしからの希望とお願いである。市場関係者の困難とご苦労はわかるが、市場の統合にあたっては、民間の経済原則にしたがうと同時に、市場というものは「公的な存在」でもあることを考慮しながら、提携・合併を推進していただきたい。基本原則を忘れないでいただきたいのである。