「朝令暮改の研究スタイル」

わたしはしばしば、生き方も研究スタイルも「朝令暮改」といわれる。朝に言ったことを夕方には変えている。心理学的にいえば、「態度変容」がはげしいわけである。「それで何が悪いの」と居直っているわけではないが、最近の科学者たちの理論研究を分析した結果(旅行中に読んだ雑誌記事)によれば、ノーベル賞クラスの自然科学者たちの理論も、現実を反映してしばしば塗りかえられてきたそうである。


「君子豹変する」ではなく、現実が理論を乗り越えていくのである。いわんや、社会科学おやである。自然科学とは異なり、対象そのものが日進月歩で変化していく。それだからこそ、われわれ自身の理論を変えるのは当然である。
わたしたちの周囲の研究者を見ていると、実は実務家も同じであるが、自分の理論(モデル)を現実に当てはめようとする傾向がある。現実をしっかり見据えたときに、周囲の世界が、環境が、そして風景が変わっているのに、その現実に気がつかない。たとえ気がついたにしても、現実のデータを既存の理論にあわせて別に解釈しようとする。
「基本的にそれはまちがった態度である」とわたしは思っている。だから、わたしは、現実に合わせて自分の主張や理論を簡単に変えてしまう。それが、朝令暮改といわれるゆえんである。
「あてはめ形」の研究スタイルが悪いのではない。「真実は現場にある」ということを、行動でもって確認できるかどうかである。過去の業績や自らの研究蓄積を無にする勇気があるかどうかということでもある。若い研究者や企業家たちに言いたいのは、若いのだから、いつでもすすんで、研究者や企業家としての過去の自分を捨てる可能性にかけてみることが面白いと感じてほしいことである。
研究者としての醍醐味は、ほんとうは、理論や仮説を作る作業にある。ただし、レポートや論文を常に書き続けなければ、厚みのある研究蓄積にはならない。だから、体力が必要とされるし、そこをドライブする知的好奇心がなければ、いい研究者にはなれない。
企業家も同じである。金銭欲や利益獲得のために事業をしているひとは、最終的にはあまり成功していない。社会や人々の幸せのために仕事をしている事業家のほうが「長持ち」をするし。金欲はいつか飽和点をむかえる。マネーの限界効用逓減の法則である。しかし、ひとびとへの献身やみずからの好奇心には飽和点がない。幸福の達成と知的な満足には、収穫逓増の法則が当てはまる。