海外視察ツアー中に、ロンドン郊外で5つのスーパーを見学した。その後で、花加工会社のズヴェッツルーツ社を訪問した。5つのSMは、ウエイトローズ、マークス・アンド・スペンサー(M&S:PB主力の総合スーパーに近い)、テスコ、セインズベリー、モリソンの5社である。17人のツアー参加者には、店舗見学の際にフィールドワークをしてもらった。立ち止まり率、購入率をカウントしてもらう仕事である。また、レジカウンターでは、購買者に占める花の買い上げ率を調査した。
<イギリスの花産業概況>
簡単に、英国の花市場の概要を紹介する。あまりのポンド安で、一年前との比較では、円換算で市場が半分に縮んでいる。それだけに、すべての商品に割安感がある。切り花市場は22億ポンド(小売販売額、2,640億円)である(クリザールUK調べ)。対前年比で8%販売額が減少した(ポンド評価)。
人口5900万人、一人あたりの切り花消費額は、38.80ポンドである。日本円に直して、約5千円である(日本は約4千円)。1年前ならば、ポンドの価値がいまの50%増しであった(一ポンド180~220円)。2年前ならば、約一万円の購入金額である。日本はまったく及びもつかなかったわけだが、ポンドがこれだけ安くなり、ロンドンの町に”to let”(事務所貸します)の看板がよく見かけるようになると、消費額が減少したことではなく、それとは逆に、切り花の安さが目立つことになる。10本束で3ポンドが基準である。小売で一本が35円!である。これは、仕入値段ではない。びっくりである
この値段では、国内産の花はまったく消えてしまっている。一部の球根切り花(チューリップとスイセン)以外は、海外産である。しかも、ケニアだけではなく、ジンバブエ、ウガンダなどの花が目立っている。産地も移動が激しい。昨年までは、スリーブに「ユニオンジャック」の旗がもっと多かった。ウエイトローズからは消えていて、テスコとセインズベリーでほんの一部だけ残っている程度である。
<花束加工会社>
経済不況と競争の厳しさで、この一年間で3つの花束加工会社が倒産した。現在は、ズヴェッツルーツ社(以下、ズ社と略記する)が属する「フラミンゴグループ」の3社(ズ社以外に、リンガーデン、あと一社)と「ダッチフラワーグループ」の4社(インターグリーン、ワールドフラワー、JXフラワー、あと一社)のふたつのグループになっている。そのほかに、「独立系」で3社(ウインチェスター、フラワーワールド、あと一社)が残っている。独立系の会社は、国産の球根切り花とサマーフラワーに特化している。
テスコに関して言えば、全体の店舗数は国内約2200で、配送センター(デポ)は9か所。ズ社のような花束加工会社は、前日にオーダーを受けた商品を翌日の朝に、9つのデポに納品する。朝11時まで受けて翌朝に納品するのは不可能である。実際には、18週間前、3週間前、1週間前の3回需要を予測しておき、前日のオーダーに備える。
納品業者は4社である。インターグリーン(ダッチグループ、finestなどの上級ラインとモノブーケ)、ズ社(主力商品、広範な品ぞろえ)、ワールドフラワー(ダッチグループ、バラとカーネーション)、ウインチェスター(球根切り花)。売上の80%はズ社からの供給である。
テスコの花の売り上げは、約2,5億ポンド(約320億円)である。その80%をズ社が供給している。小売価額では240億円になる。ズ社は、その他20%を生協(COOP) に納品しているので、小売りで2,5億ポンドの売り上げとなる。花の粗利は、テスコで30~40%であった(2006年)。しかし、現在はそれほど稼げてはいないように見える。花加工会社の経営もきびしいと見える。
<テスコの商品構成>
テスコは、3つの業態をもっている。メトロポリタン、エクストラ、エキスプレスである。今回は、エクストラ業態(一番大きな店舗、ワンフロアのGMS)を訪問した。レジが約50台もあった(雑貨と衣料品も同じフロアになる)。広大な売り場である。おそらく1万平米(約3000坪)はあるだろう。午前中に、セインズベリーとモリソンを観察したが、こちらはほぼ3000平米(1000坪)だった(徳永君と足で計った)。
以下は、束の価格とバケツの数である。原則として、バケツあたり数量(束数)が、価額30ポンドで調整されているように見えた。
価格1 ポンド 1(バケツ)
1.49ポンド 2(バケツ)
1.79ポンド 1
2 ポンド 6
2,5ポンド 1
3 ポンド 22(バケツあたり10束)
4 ポンド 7
5 ポンド 16(バケツあたり6束)
7 ポンド 6
7,5ポンド 4
8 ポンド 1
9.99ポンド 14(バケツあたり3束)
10ポンド 2
12,5ポンド 2
14.9ポンド 1 (バケツあたり2束)
トータル 86バケツ
ひとバケツ30ポンドとして、推定在庫金額は2580ポンドになる。約2日分の在庫と考えられるので、1日の売り上げは、1300ポンド(約17万円)である。一昨年までならば、一日が35万円の売り上げだったことになる。年商一億円の感覚と思ってよいだろう。中心価格ラインは、3ポンド(350円)、5ポンド(650円).10ポンド(1300円)である。
つじつまを合わせておこう。テスコ2200店舗の売り上げが2、5億ポンド(300億円)である。一店舗あたりの年間の売り上げは12万ポンド(1500万)となる。1日で切花の売り上げが平均5万円弱となる。昨年までならば、日販が約10万円、年間3500万円である。エキストラ業態は、そのなかでも特別と考えてよいだろう。テスコエキスプレスでは花を扱っていないだろうから(扱っていても数量はわずか)、1500店舗での取り扱いで2.5億ポンドの売り上げと考えてよいだろう。店舗あたり日販が約8万円。年商で25000万円前後。それでも日本の3倍はある。
<店舗観察の結果>
5社のフィールドワークからわかったことを紹介しておく。それぞれが15分間の観察結果である。以下は、5社のサマリー記録である。
(1)M&S(SC内の業態、売場面積、推定300坪+α?)
花売場の場所:正面入り口
通行人:167人、立ち寄り人数:41人、買い上げ人数:9人
客単価:?
注目率:25%、買い上げ率: 5%
(2)ウエイトローズ(M&Sと同じSC内、推定売場面積、約300坪+α?)
花売場の場所:食品コーナーの左奥
通行人:75人、立ち寄り人数:11人、買い上げ人数:3
注目率:13%、買い上げ率: 4%
(3)テスコ(エキストラ業態、推定売場面積、約3000坪、食品のみで2000坪?)
花売場の場所:食品売場の真ん中
通行人:89人、立ち寄り人数:23人、買い上げ人数:6
注目率:25%、買い上げ率: 6%、 客単価:4ポンド
レジ客中の花束の購入数:20人中5人で、25%。
(4)セインズベリー(NSC内、推定売場面積、約1000坪)
花売場の場所:食品売場の入り口
通行人:101人、立ち寄り人数:19人、買い上げ人数:7人
注目率:19%、 買い上げ率: 7%、
レジ客中の買い上げ率、34人中4人、12%
(5)モリスン(単独店、推定売場面積、約1000坪)
花売場の場所:食品売場の入り口(正面近くの野菜売場近く)
通行人:38人、立ち寄り人数:6人、買い上げ人数:1人
注目率:20%、買い上げ率: 3%、客単価:1,95ポンド
<典型的な売り場>
おそらくは、セインズベリーの売り場が全イギリスの典型ではないかと思う。徳永君と売り場面積を測定した。34人中4人が、花束を持っているレジ客である。購買率が12%である。それに対して、テスコは、25%と高い(エキストラ業態で特別かもしれない)。クリザールのふたり(ロニーとクレア)によれば、3人にひとりは花束を抱えていた(過去形)であったという。いまは、20%前後に落ちているのではないだろうか?それでも、日本の購入率1~2%(PI値が2~3)よりは遥かに高い(PI;来位店客100人中の部門買い上げ点数)。
セインズベリーの店は、年間販売額は15億円くらい。1日の売り上げは450万円。来店客数が3000人(推定)。客単価1500円(2年前ならば3000円)だと推測できる。切り花は10%が購買するとして、買い上げ人数300人。客単価は3ポンド(約400円)である。一日の売上は、12万円(年商5000万円)。これは、売れている店の事例である。日本の感覚では、日販が25万円(価格が約半分なので・・)、数量的には年商で7000~8000万円の感じである。
日本の販売データで調整してみる。ヤオコー規模のスーパーであれば、年商が20億円、フルサービスの店で切り花の日販は5~8万円(平日で物日を除く)、年間販売額が2000~2500万円である。店全体の売り上げの約1%である。イギリスは、セインズベリークラスであれば、日販が約12万円であるから、切り花の貢献ウエイトは約3%となる。
<視察を通しての結論>
日本の課題はかなりクリアーになった。わたしたちの問題は3つである。
(1)花束のボリュームと単価
英国でもドイツでも、ブーケは10本が販売単位である。しかも、花束の単価が350円から650円である(テスコのデータからわかるように、中心価格ラインは、3、5,10ポンドである(一本単価では35円から60円)。だとすると、そもそも切花の一本単価を下げなければならない。
不況のいまでも、欧州での切花の販売数量は変わっていない。おそらくは、一本単価を日本でも60~100円程度に設定して、モノブーケを5本単位で販売できれば、もっと花は売れるようになるだろう。5本束が基本で、価格帯は300円~500円。プライスポイントは、380円(5本入り)。あるいは、2つの価格帯(280円、480円)のいずれかにする。
(2)花束の作り方
サイズは40センチ。スーパーでも花店でも、欧州ではそれ以外の規格の花はほとんど見かけない。日本でも、基準を70、80センチから、40、50センチに切り替えるべきである。国産であっても同じである。むしろ国産だからこそ、国内物流を改革するためには、標準規格を40センチに持っていくべきである。そうであれば、「面積単位あたりの収量を倍にすることができる」(メルヘンローズの小畑さん)。
バケットのサイズも、縦長は30センチで充分である。台車への積載効率を高めるためにも、小さな低いサイズのバケットを多用すること。モノブーケであれば、産地加工が可能になる。初心者にはミックスブーケよりも、モノブーケのほうがわかりやすい。
(3)産地加工、センター納品
市場を経由せずに産地で加工して、量販店へセンター納品する。おそらくは、産地FBOで35円(一本あたり)、輸送賃を15円(束あたり75円)。輸送を加工側が持つとすれば、納品価格は50円である。販売単価は一本あたり78円であるから、小売マージンは28円ほど取れることになる。ロスのコントロールが課題にはなるが、10%であれば、18円のマージ(束あたりでは90円)。
この方式は、産地側と加工業者がうまく対応できれば、不可能な数字ではない。販売は間違いなくうまくいく。欧州の事例でも、日本の事例でも、すでに証明されている。量販店は、このケースでは、3年で売上が3倍に上昇する。当初一年間では、数量が2倍、販売金額50%増加。