3年ぶりで3月末に著書を刊行する。文部科学省の科研費で実施した3年間の共同研究をまとめたものである。新刊のタイトルは、『有機農産物の流通・マーケティング研究』である。
出版社は、農業分野では定評がある専門出版社の「農文協」である。
最終編集作業で追い込みに入っている。3連休は、市谷の事務所にこもってほとんど外に出ていない。
本書には、リサーチアシスタントの青木恭子が作成した「有機農産物の書籍・参考資料データベース」のCDーROMが<付録>として添付される。
明後日は西武ドームで学生と野球のゲームである。明日は、ジュエリー・ショップの「ケイウノ」(自由が丘店)を大学院生の伊藤智秋君と二人で訪問する。その前に、全ての仕事を終了させておかなければならない。そして、来週は、神戸(ロックフィールド)と上野原(オリジン弁当)の取材が待っている。「食のSPA原論」の取材旅行である。、
では、いつものように、3月に予定されている新刊本の「はしがき」と「もくじ」を紹介する。
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『有機農産物の流通・マーケティング研究』
小川孔輔編著 農文協(2007年3月)
はしがき
有機農産物の生産についての学術的な研究は、わが国でもかなりの蓄積があり、なおかつ日本人の研究者や優れた理論的・実証的な研究も少なくない。また、農業経済学的な切り口からの理論研究書も、農文協などを中心にかなりの点数にのぼっている。しかしながら、有機農産物(減農薬野菜なども含む)のマーケティングと流通に焦点を当てた研究となると、国際水準での理論的な進展と流通そのものの実態を、包括的に取り扱った書籍は存在していない。もちろん、海外事情(EU、米国)の紹介や消費行動に的を絞った研究書も無いわけではないが、いまグローバルに同時進行している「環境志向・健康志向」の農産物流通をバランス良く取り上げた研究概説書が待たれている。
われわれのチームは、文部科学省(科研費基盤研究B:2003年~2005年)の助成を受けて、「有機農産物の流通、安全性、消費者行動に関する研究」に着手した。本書は、その研究成果を、学会と一般読者に向けて公表する目的で企画されたものである。当時の共同研究チームのメンバーは、小川孔輔(法政大学・経営学部教授)、阿部周造(横浜国立大学・経営学部教授)、西尾チヅル(筑波大学・社会工学系助教授)、青木道代(玉川大学・経営学部助教授)、竹内淑恵(法政大学・経営学部教授)、酒井理(東京都産業労働局主任)、青木恭子(法政大学・小川研究室リサーチアシスタント)である。本書も、この7人のメンバーによって分担執筆されている。
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有機農産物の流通実態については、日本国内だけでなく、海外取材(欧州、米国、中国)の成果を盛り込むことにした(日本は第Ⅱ部、海外は第Ⅲ部)。また、理論研究の進展に関しては、読みやすい「文献レビュー」の形でオリジナルの論文(小川2004、2005)を要約して紹介することにした(第V部)。
有機農産物の生産・流通現場と小売業における商品化政策(MD)の実態については、日本については、主要企業の担当者による講演記録(日本:イオン、IY、ワタミファーム、首都圏コープなど)を要約して紹介する(第Ⅰ部)。また、海外での取材記録では、米国ホールフーズ・マーケットとセントラル・マーケット、およびアースバウンド社を中心に、事例研究という形で米国有機市場の最新動向を紹介した。なお、この間に、英国、オランダ、中国での取材先などを敢行した。これらの調査研究も、本書の中では、ケース・スタディとして取り入れることにした(第Ⅲ部)。
なお、本書の巻末には、有機農産物に関連した文献のデータベースが、
全体としては、有機農産物の市場や流通実態、消費者意識などに関する統計および調査、新聞記事、有機農産物の流通に関係する国内学術文献、WTO自由貿易体制、食の安全氏とトレーサビリティ、有機農産物の地域流通などの流通研究の周辺領域の資料から構成されている。海外の文献では、同様に有機農産物のマーケティング関連、消費者の性向に関する論文、食品安全性の経済学などに関連した分野の論文を収集してある。
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本研究プロジェクトを推進するために、多くの企業組織・生産団体ならびに実務家の方にお世話になった。とくに最初の2年間は、法政大学で講演をしていただいたり、訪問先の会社などで、直接お話を伺う機会をいただいた。原則としてメンバー全員が参加して実施した講演会(取材ヒアリング)は、以下の通りである。
① 東京とれたて野菜プロジェクト(2003年10月16日:築地市場見学・取材、小売事業者現地訪問)、
② 有機農業と農産品の歴史的な展望(2003年11月13日:徳江倫明氏、AFAS代表)、
③ ユニクロ(SKIP)の野菜事業(2004年3月2日:銀座松屋・野菜売場視察、2003年11月13日および2004年4月7日:柚木社長取材)、
④ イトーヨーカ堂:顔の見える野菜事業(2004年6月25日:押久保氏講演)、
⑤ Eアグリ(株)のネットビジネス(2004年5月28日:堂脇社長講演)、
⑥ 首都圏コープの宅配事業(2004年7月9日:高橋氏講演)、
⑦ 有機野菜栽培現地調査(2004年8月17日:茨城県谷田部町現地視察)。
講演者の都合により、③と⑤以外の内容は公表できないが、その他の資料は一般にも入手可能である。講演内容を修正したものが、小川孔輔・青木恭子(2006)「有機農産物の生産流通システムに関する調査研究-講演および調査視察の要約」『イノベーション・マネジメント』第3号、123-160頁に収録されている。その後の動きを取り入れて更新した事例が、本書では要約版として紹介されている。
当初の講演録はリサーチアシスタントの青木恭子が作成し、最終的に編者(小川孔輔)が完成原稿をチェックした。しかし、基本的に、内容のクレジットは講演者側にあると感じている。そこで、各節のはじめに、今回は講演者の名前を入れさせたいただくことにした。面倒くさがらずに、何度も修正のために赤ペンを入れていただいたことに感謝したい。
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本書を完成するために、ほんとうに多くの方にお世話になった。このような理想的な形で、研究書として出版できるのは、法政大学イノベーションマネジメント研究センターの魚住主任のおかげである。当初は、本書の出版は2006年3月に予定されていた。それが、編者(小川)の個人的な都合で、原稿完成が一年ほど先に延びてしまった。研究センターの刊行物として予算を確保しておくために、魚住さんには大変にご迷惑をかけてしまった。辛抱強く見捨てずに、約一年間も待ったいただいたことに、この場を借りて感謝したい。
われわれ研究者にとって、研究成果を世に問うために専門書を出版することは、現在かなり厳しい環境下にある。とくに、本書のように、350頁を超える研究書の出版はなかなか出版元を探すことがむずかしいことである。出版を快く引き受けてくださった農文協は、農業分野では超一流の出版社である。原稿をとりまとめ、無事出版にこぎつけてくださった金成編集員にお礼の言葉を述べたい。
最後になるが、法政大学ビジネススクールの元大学院生、松尾(堀)英理子(現在、サントリー㈱RTD事業部)さんに感謝したい。編著者(小川)が「有機農産物の流通研究」に導かれたのは、彼女の修士論文指導がきっかけであった。ちょうど10年前、松尾さんが修士論文のテーマとして「環境マーケティング」に取り組んでいた。指導教授として事例対象となった「らでぃしゅぼーや」(本社:新宿区神楽坂)を訪問し、徳江倫明氏(当時、代表)と出会うことになった。徳江さんとは、さまざまな形で意見を交換することになった。
その後における編著者の研究上の軌跡は、本書の共同研究メンバーが知る通りである。プロジェクトチームを組んで、有機野菜の流通・消費研究をすることになるなどとは、運命とは実に奇妙なるものである。
2007年1月8日 編著者
共同研究チームを代表して
<目次>
Ⅰ 有機農産物の流通・マーケティング概説
1 世界を席巻する自然・健康志向の市場:LOHAS消費者層の台頭
2 有機農産物の流通事例(1):大手量販店の取り組み
3 有機農産物の流通事例(2):生協とワタミの取り組み
4 有機農産物流通研究のフロンティア
Ⅱ 日本の有機農産物流通とマーケティング
1 有機農産物の流通概説
2 新たな有機農産物流通システム構築
3 消費者は有機農産物にどのように反応したのか?
4 「とれたて野菜」消費者調査
Ⅲ 世界の有機農産物流通とマーケティング
1 米国の有機農産物流通:演出型自然食品小売業の登場
2 欧州の有機農業と農産物流通:市場化への対応
3 中国の有機農産物生産と流通
Ⅳ 消費者行動
1 有機野菜に対する消費者の態度と行動
2 有機野菜に対する価値構造の分析
Ⅴ 有機農産物に関する既存研究の概観
1 有機農業と有機農産物の流通研究
2 有機農産物の国際貿易、食の安全性に対する消費者反応
付属資料:文献データベースCD(有機農産物関連文献データベース)