4年生の副ゼミ長・白鳥文菜さんが、授業の発表時に、おもしろい電車のつり革広告を紹介してくれた。つり革に時計をプリントした広告で、つり革を手で握ると、時計をはめているように見える。会社名を聞いたら、スイスの高級腕時計メーカー「IWC (International Watch Co.)」であった。
以前から、還暦祝いに自分用に時計を購入しようと思っていた。ちょうどタイミングよい。三越でお歳暮を担当しているかみさんに、IWCの製品カタログを持ってきてもらった。さすがに高級時計だけあって、カタログもハードカバーである。たぶん、この製品カタログだけでも、2千円はするだろう。
東京駅の大丸百貨店では、少し前からIWCの時計を扱い始めていた。時間があったので、時計売り場を覗いてみたのだが、機械式の高級時計は、そのデザインが際立っていた。キャンペーン期間中で、IWCの製品が15%引きだった。
4~5個を展示ケースから取り出してもらった。シンプルな時計のほうが、デザインがよく見えるのが不思議なところだ。100万円を超すような商品は、宝石がついていたり純金製だったりする。なんとなくごてごてしている感じが好きになれない。わたしの好みを反映してか、お値段が50万円前後の普及品がすてきに見える。
購入を検討してみようと思い、時計売り場の若い男性にたずねてみた。
すると、大きな問題があることに気付いた。スイスの高級時計は、すべからく「手巻き式」なのである。日本人が発明した「クオーツ式の時計」は、全自動である。土曜日に机に放置しておいても、月曜日にも間違いなく動いてくれる。
ところが、スイス製の時計は48時間で、時計の針が動きを停止してしまうのだ。中国本土でセイコーの時計を販売していた大学院生の岩崎君に、聞いてみた。「先生、そうなんですよ(彼の口癖)。スイスの高級時計は、みんな手巻きなんです」
そこが良いらしいのだが、わたしのような人間は、まちがいなく毎週末に時計を止めてしまうだろう。
とりあえず、入手したIWCのカタログを、毎日、眺めている。100万円の時計を買わなくとも、カタログで充分満足である。もう買ったも同然の気分になっている。価格表が付いたカタログは、どうやら返却を求められていないらしい。
そうこうしているうちに、ゼミ生の白鳥からメールが来た。
「スイスの高級腕時計が、どうして一般向けに電車に(つり革)広告を打つんでしょう?」の問いに対して、小川先生が、「普及版を販売するつもりなのじゃないの?」との答えに対する反応だった。
「おはようございます。
そうなんですね! そんなにハイクラスな時計でも、電車で広告を出すんですね(「猫」の絵文字)!
ぜひ、次の時計の候補に( ´ ▽ ` )!
ありがとうございます!」
そうなのだが、手巻きである限りは、たぶん購入にはいたらないだろう。コレクターの楽しみの中で、わたしはデザインを重視するほうだと思う。しかし、時計に関していえば、授業や講演時にも使用することになるので、同時に機能性もほしいのだ。
IWCは、本当に、ミドルクラス(普及品:5万円~20万円)を販売する予定はあるのだろうか?わたしは、その可能性があると見ているのだが。だから、東京駅の大丸に、新規に売り場を設けてみたのではないか?