ABCクッキングスタジオ(志村なるみさん)、スクール事業の本質

 頻繁に物を失くしてしまう達人である。そんな不運にしばらくは遭遇しなかったのだが、とうとう昨日、一年ぶりで新幹線の切符を失くしてしまった。静岡~東京間の片道回数券である。講演用のファイルの間にクリップで挟んであった。ふらっと入ったコーヒーショップにでも置き忘れたのだろう。


さきほど、静岡の駅で片道分の切符を買い直して、ひかり号で東京駅まで戻ってきた。
 午後からは、大学院生のプロジェクト指導に入る。秘書の福尾にメールしたところ、つぎのようなメールが返ってきた。そんなふうに反応されるのだ。

 以下は、新幹線からのメールとその返信である。わたしが、美人にはからっきし弱いことが、ばればれである。お恥ずかしい次第である。
 
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 (わたしから、福尾に)
 おはようございます!
 帰りの切符をなくしてしまいました!がっくり。

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 (福尾から、わたしに)
  おはようございます。
 さては、志村先生に心を奪われて、
 うっかりされましたね(にこにこマーク)

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  さて、昨日の講演は、わたしが中心とはいえ、実際には、ABCクッキングスタジオのビジネスモデルを、マーケティングの枠組みで開設する内容になった。「恋愛の比喩」(恋愛と結婚のプロセス)を用いて、わたしがマーケティングの考え方を説明した後で、志村なるみさんに、「ABCクッキングスタジオ」の事業の特徴について、話していただいた。それぞれが35分と45分である。
  昨年の12月にも、SOHO静岡の同じセミナー室(ペガサート)でも同じような講演だった。そのときとの重複聴講者はそれほど多くはなかったようだ。前回と比べて、志村さんの話は、進化をしていた。というか、事業の本質について、より詳しく説明してくれた。

  ABCクッキングスタジオについて、わたしのまとめ(10分間)は、以下のようなものだった。同社の成功のエッセンスは、つぎの3点だった。もちろん、講演で話されたことも大切であるが、本質的な要因は、

(1)生徒による講師の評価システム(指名制度)
 全国130店舗にいる3500人の講師の教え方については、すべて生徒が評価する。指名をもらえない料理講師の先生は、自然に退出となる。AKB48が「総選挙」を始める前に、ABCでは、きびしい評価制度が行われていた。当初は「総選挙」(1番から3500番までのランキングがつく)の導入に否定的な職員や先生たちがほとんどだった。
 だが、志村・横井夫婦は、敢然とドライな評価システムの導入をはじめた。やめて行った職員と講師もいたが、店長が講師の顔を気にすることがなくなった。生徒の意見が最大限に尊重される評価制度は、優秀な講師の選抜を促進し、ダメな講師の甘えを排除することになった。
 ウエットな人間関係よりも、顧客によるドライな判断がスクール経営については大切である。評価制度を導入した結果として、「生産性が飛躍的に高まった」(志村さん)

(2)料理メニューの改廃
 パン・ケーキをはじめとして、約2000のメニューが、生徒には利用可能である。料理教室の講師は、新規の開発メニューをPCで勉強する。
 ところが、人気メニューとそうでもないメニューが出てくる。「死に筋」は逐次に早めにカットして、新しく開発された人気メニューを導入していく。例えば、北海道で開発されて人気だった「スープカレー」を、他の地域の教室(店舗)に広げていくなどである。いわゆる、人気商品の横展開の手法である。
 このやり方は、コンビニで行われているPODデータの手法と同じである。講師と商品の死に筋を早期に発見するシステムが事業の装置としてセットされているのである。
 
(3)顧客志向と経営者の資質
 とはいえ、「POSデータ的な」商品メニューの管理と料理講師の評価システムでは、人間そのものに触ることになる。成績次第で役に立たないメニューと人間をドライにカットしていく。なので、それをドライに実行できる決断力が経営者には必要である。
 それを可能にしたのは、「日本で一番の会社をつくろう!」という思い入れと、しつこいくらいの顧客志向である。会社にとって良い事は、すべてお客様(生徒)が教えてくれた。そのように信じて会社を経営してきたご夫婦の勝利である。
 
 「しまむらとヤオコー」に続いて、またしても(笑)、「優秀な日本人女性の新しい雇用機会」を創造してきたビジネスを紹介することになった。わたしからの最後のコメントであった。