このところ、仕事に対する価格(報酬)が上昇気味である。講演依頼やコンサルティングに対しての需要が増えている。出版する本が続けざまに増刷になったり、新本の企画依頼や監修を頼まれることが多くなった。人気上昇は良いのだが、その分、自由な時間を失ってしまう。
講演の依頼が増えたり、知名度や人気が高まるのは、過去の努力の結果である。しかし、依頼主への貢献が十分でなければ、追加の依頼は来ない。自分の仕事の依頼先への貢献がそれなりに評価されているからなのだろう。
いま、世間一般は事業的に苦戦している企業がほとんどである。コンサルティングや研修の業界でも、あまり良い話は聞かない。それだから、申し訳のないくらいに、わたしを取り巻くビジネス環境はポジティブである。好循環がさらなる上昇気分をもたらす。
今年は、厄年(前厄)である。なのに、これまであまり経験をしたことがない順境にある。これまでは、望んでもなかなか来ない状況が、いまの不況の下で実現している。面白いものだ。
わたしは、関西風に「ぼちぼちでんな」とは言わない。「すっごく順風ですね」と言っている。そうしていると、運気を感じてひとがそばに寄ってくる。そのことがさらに仕事の量を増やして、結果は仕事の質の向上につながっていく。
人間には二通りのタイプがあるようだ。うまくいっていることを公にせずに、こっそり隠してひたすらブレークするときを待つタイプ。今晩、静岡のセミナーでご一緒する(今年3度目)、志村なるみさんがその典型である。ABCクッキングスタジオは、その草創期には、ビジネスモデルをコピーされるのを心配して、会社のことを絶対に表舞台には出さなかったそうだ。志村さんに伺ったことである。
その逆が、ユニクロの柳井さんの場合だろう。地方のカジュアルウエアの企業から、いまやグローバルにプレゼンを持つ会社に成功したFRだが、上昇するときのポイントポイントでは、目立つ(無料)広報活動でタイミングよく存在感を高めてきている。
柳井さんは広報が上手である。天才的な勘を持っている経営者だ。「なんか、(ユニクロは)うまいんですよね」と日経の記者が言っていた。わたしもそのように思う。
自分はどちらのタイプなのか、よく考えてみたほうがよいだろう。ビジネスのタイプにもよるのだが。スケールメリットの大きなユニクロと、事業モデルの模倣が比較的容易なサービス業のABCクッキングスタジオでは、店舗の立地や利益構造についての条件が異なっている。
わたしは、一貫して「志村路線」を歩いてきている。なるべく目立たぬように、プレゼンスを高めることなく。静かに裏舞台で、それこそ、「しこそこ」と物書きをしている。そのほうが楽しいのだ。
この先も、広報戦略はそのつもりでいる。知名度や報酬よりも、自分の時間をもっと大切にしたい。