小売りのプロは、陳列の見方がさすがにちがうぞ!(イオンリテールの時岡顧問と)

 暑い日に、一日中、電車を乗り継いで飛び回っていた。朝一番は、都営線で五反田駅まで。ネット食品スーパーの「オイシックス」で、高島宏平社長のインタビュー(サービス本の取材)。午後は、「ヤオコー新座店」(昨年10月開店)に、イオンリテールの時岡顧問を案内してきた。


「切り花の日持ち保証販売」の現場を紹介するためだった。イオンリテールのDS事業部の福嶋部長など、約束の2時ごろには3人が新座店に現れた。
 「(イオンの本社がある)幕張から、電車で一本なんで、案外と近かったですよ」と時岡さん。
 イオン岡田社長の「懐刀」である時岡さんは、亡くなった渥美先生が、草葉の陰から、わたしに仲介してくれたようなものだ。
 告別式のときに、たまたま隣に座ったのだ、ご縁である。その場で、時岡さんに、「イオンがJFMAを脱会した経緯」を率直に話した。このひとは、さすがに動きが早い。「それでは、、」ということで、わたしがヤオコーの取り組み(日持ち保証販売)を紹介することになった。
 いまのところ、イオンリテールのDS事業部として、イオンがJFMAメンバーに戻ってくることになっている。東北マックスバリュの西川常務にも、この話を伝えてあるようだ。

 ヤオコーの木村芳夫チーフバイヤー(花部門担当)は、不在にしていた。
 新座店のパートナーの小森さんが、私を含む一団に、親切に対応してくれた。 春先は、日持ち保証した花には、クレームがほとんどでなかった。しかし、さすがに、この暑さで、夏は返品のクレームが出ているらしい。いつもは、レシートだけで対応しているが、「本日は、現物の持参をお願いしている」と、小森さん。
 小森さんは、JFMAの花育の講座にも、最近になって参加してくれている。ヤオコーのパートナーさんは、モチベーションが高くて優秀だ。木村君!しっかりがんばりなさいね。「日持ち保証販売は、むずかしいと思うので、だから、しっかりと店でもがんばりたい」(小森さん)
 クレームは宝である。「いちばん厳しい時期(真夏)にこそ、問題点が明らかになる」が、わたしの小森さんに対する答えだった。気温がそんなに上がらないふだんのときには、売場で花の処理を適当にやりすごしても、たいして問題は起きない。しかし、この季節だけは、鮮度保持はそう簡単ではない。 花にうそはつかない。手を抜くと、すぐに傷んでしまう。

 もっとも、買う側にも問題はある。だって、気温30度で、かんかん照りの町中を、自転車をこいで花を持ち帰ったら、くしゃんとするのはまちがいない。花だって、子供と同じだ。やさしくして、涼しくしてあげないと。車の中に放置された子供や老人と同じで、熱中症で死んでしまうぞ。
 どんなに、途中のコールドチェーンがしっかりしていても、花は枯れてしまうだろう。フラワーフードも、ひとたまりも無い。エアコンを切って寝ていたら、毎朝30度を越してしまう。そうなのだ。26~28度が、花にとっては、まだ生きている植物として気持ちがよく過ごせる生命の限界点なのだ。
 人間でも切り花でも、条件は同じことなのだ。それで、クレームを出すのは、どこか非常識なような気がするが。店頭の黒板には、「クーラーの風があたらない場所に、置くようにしてくださいね」と注意書きがしてある。あんなにでかでかと書いてあるのに、それでも、黒板やPOPの説明をきちんと見ていない消費者が多いのだ。
 ただし、プラスもある。「切り花を日持ちさせるために、どんなにしたらいいのかしら?」。と、お客様とのコミュニケーションがはじまることもある。小森さんは、熱心だ。
 
 さて、二時間のディスカッションのあとで、わたしは、時岡さんとヤオコーの売場を見て歩いた。お刺身や焼肉コーナーなど、生鮮品のパックを見ながら、「時岡さん、どこを見て売場を回っています?」と時岡さんにたずねてみた。 
 「(ヤオコー新座店は、)商圏が小さいんですよね。家族構成を見ています」が、時岡さんの最初の答えだった。去年10月の開店時期に、この店の周辺を歩いてみたことがある。店の周辺は、埼玉県南部の新興住宅街である。若い世帯が多い。来店頻度も高い顧客が多い。だから、全体的に生鮮品や惣菜のリテールパックが小さいのだ。そのことをきちんとチェックしている。
 「ホームワイド」(九州のHCで、後に「イオン九州」と合併)の社長だった時岡さんは、幕張では「カルフール」(フランスのハイパーマーケット、数年前に撤退)を担当していた。カルフールが日本を撤退した後は、イオンが店を引き継いでいる。時岡さんが、その後始末を担当したのだ。
 カルフールが置いていった店(幕張店と狭山店)で、時岡さんは、ヤオコー(狭山店)と競争することになった。結局は、カルフールはヤオコーに負けてしまうのだが、そのときの印象記がおもしろかった。
 売場を見て歩きながら、時岡さんは、「(ヤオコー狭山店は、)驚くような商品があるわけではないが、基本がしっかりしていますよね」。
 ヨーグルトの売場は、「縦型に」きれいにカラーコントロールされている。それを見ながら、率直にヤオコーの売場をほめた。たしかに、売場が乱れていないのだ。「パートナーさんの力ですよ」(小川)。
 「カルフールの狭山店も、一部の商品ではヤオコーに勝っていましたが、全体としては、完全に負けてしまうことになったね」。完敗の理由を、「ヤオコーの狭山店は基本の徹底がしっかりできていた」からだという。
  洗濯用品やトイレタリー、日用雑貨のコーナーにふたりで回ってきた。蚊取り線香の売場を見て、時岡さんがぽつり。「このコーナーは狭いでしょ。得意な生鮮に比べて、ヤオコーさん、ここでは苦労していますよ」。
 ちょっと気の毒そうに、わたしに、蚊取り線香のエンド陳列を見るように促した。
 アースの蚊取り線香が、2種類、陳列されている。20巻き以上が詰まった「大容量の蚊取り線香」が、エンドのいちばん前に陳列されている。目立つような位置に、大量に陳列されている。それに対して、「小容量の蚊取り線香」(10本入り?)は、手を伸ばさなければ取れない位置にある。いちばん奥のほうに、陳列されている。
 蚊取り線香の大容量のパックを指差して、「これは、もう売れないですよ」とひとこと。今日は、8月3日である。家庭使用で約60日分も入っている「大容量」がなくなる頃には、夏が終わるのだ。だから、「8月に入ったら、エンド陳列のいちばん前には、小容量の小さい補充用のパックを置くべきなのです」。

 プロの見る目は、こんなにもちがうものだ。売れ残りを恐れる店側の気持ちが、陳列の仕方にあらわれている。それでも、夏は8月いっぱいで終わってしまう。お盆すぎ(8月15日)までには、残った蚊取り線香は不要になる。だから、お盆を迎える消費者は、小容量の香取線香しか、あるいは、30日分の液体が入った「ベープの詰替液のボトル」しか購入しないのだ。
 6月末から7月上旬かけてよく売れる、「60日分」や「90日分」の大容量のボトルは、もう売れない。だから、「思い切って、陳列の後ろ側に、これらの商品は下げるべきなのだ」(時岡さん)。とても勉強になった。
 生活者の視点に立てば、陳列の仕方(売り方)はちがってくる。そのことを売る側は、気がついていない。あせって自分の目線でしか、売場が見えていないのだ。些細なことだが、売り手が買い手の生活感覚や心理が読めていないと、売場はこうなってしまう。その差は大きいのだ。

 となりのコーナーに回っていった。コンパクト洗剤が置いてある。アタック、トップ、アリエール。PBコンパクト洗剤が一緒に並んでいる 。どれも、同じフェース取りである。最下段に、2フェースずつ。値段も、よく見ると、全品298円で変わらない。値札は同じ大きさ、同じ色あいだ。
 「どのブランドを売りたいのか。わからないですよね」と手厳しい。売り手の意思が、買い物客には伝わらないだろう。「(1箱)298円までは、それぞれが好きなブランドを選ぶんです。でも、298円を切ると、ブランドは関係なくなります。どれでもいい。いちばん安い洗剤を(買い物客は)選ぶんです」
 そのようなプレゼンテーションに、売場がなっていないのだ。ヤオコーさんは、家庭用品や日用雑貨では、苦労しているのが見える。
 ついでに、時岡さんは、ライティング(照明の仕方)にも注文をつけた。明るすぎるスポットの照明。省エネの問題を指摘しているのだ。
 「売りたいものがはっきりしないのに、美しく見せるためのライティングは電気代の無駄ですね」。正しい指摘である。
 このひとには、学ぶところが多い。