「オランダの花き産業に復活はあるのか?」 JFMA通信 2009年7月号

 JFMA副会長で、資材メーカー「インパック」の守重知量社長から、「社長通信」を送っていただいた。オランダ滞在中に、社員に向けて書いた現地レポートである。長くなるが、前半部分を引用させていただくことにする。


「社長通信」(社員に向けたメール、2009年6月4日)

 おはようございます。オランダは朝ですが、日本は現在、昼を回ったところでしょう。こちらでは相変わらず、1日に何度も天気が変わります。雨あり、晴れあり、曇りありです。数人の方々との話し合いの結果ですが、オランダ花卉業界は平均30%ダウンの様です。日本は10%ほどですから、これは相当なものです。日本の10%ダウンは普通なのかも知れません。
 オランダも、花き産業に対する投資の凄まじさには目を見張るものがありました。過去10年近く、オランダに来る度、会社が変わりグループに出たり入ったりしていました。つまり、会社そのものが商品となっていたのです。常にトップが入れ替わり、落ち着いてビジネスができないでいたのです。ただ、利益は実体のビジネス以外からもたらされる関係で、表面的にはいい会社であり続けました。それが、一気にここに来て、実体のビジネスも落ち込み、金融関連は見る影もありません。それらの結果、今となっているのです。
 気をつけなくてはいけないのは、投資対象となったオランダ花卉産業がそれだけで今になった、と考えるのは問題があります。アフリカの産地の増大、イギリスへの販売に絡めなくなりつつある現状です。(中略)オランダのフラワービジネスは大きな転換点を乗り切れないかもしれません。その真因は、花卉ビジネスそのものです。しかし、わたくしは次の事例で、この先のオランダフラワービジネスの再生あり、と考えています。
 オランダは、「グローバルフラワーネットワーク」を、どうやらやろうとしています!?これは、今から10数年前に、オランダが立上げた構想です。日本でもセリは市場に行かずに、コンピューターでおこなう時代が来ています。ただ、日本のそれは、市場と購入者などとの関係で成り立っていますが、オランダの場合、産地と購入者の関係で成り立たせます。
 この場合の大事な要件は、(花が)どこで作られようが、規格が1本でなくてはなりません。同じ言葉でないと成り立たなくなります。国内のように、個人により、生産地により規格が異なっているようでは、Eビジネスは成り立ちません。規格統一には、目視ではなく統一した機械での規格判断が必須となります。それらを可能にできるのはおそらくオランダだけでしょう。
 世界で通用する高度なグレーディング・マシーンが必要となります。それが商物分離へ到ります。オランダは商売に必ず絡むという訳です。以上が可能になれば、どこにいても産地を選ばず購入が可能となります。そうであれば品種の開発力、産地開発力、周辺産業の豊富さからオランダが圧倒的に有利となります。
  *    *    *
 守重副会長は、オランダの復活を予言している。そうかもしれない。グローバルネットワークの構築は、フローラ・ホランドで働いている友人(ユルン君)からの手紙でも、着々と進んでいることが伝えられている。オランダの花市場が、グローバル調達の情報ハブであり続けることはまちがいないだろう。しかし、問題はそれからである。
 物流がスキポールを迂回することで、オランダが失うものがどれほどになるかである。わたしは、オランダの花産業の未来に対しては、かなり悲観的である。というのは、かつてのオランダの産業史が、そのことを教えてくれるからである。
 その昔、オランダは、ワインや酪農の分野で先端的な産業国家であった。いまは、花きとマッシュルーム、有機野菜などの分野で技術的には先頭を走っている。かつて産業基盤を失った理由と、現在進行している世界の動きの基本は異なっている。軽々に推論を下すことができないが、つぎの点で、オランダの花き産業の未来は、相当にきびしいのではないだろうか?
 オランダの競争優位は、安いエネルギーコスト(北海油田)と研究開発シーズの蓄積(生産と品種)とに支えられてきた。そして、産業集積と物流の結節点であった。このすべてをいま、オランダは失おうとしている。
 環境汚染とコスト上昇が、オランダから大量生産の優位性を奪っている。投資資金は、アフリカ大陸に移動してしまった。それらの国も不況にあえいではいるが、需要国である英国やドイツで、それなりに花の消費は堅調である。
 知りたいことは、つぎのことである。オランダ花市場の取扱高の30%ダウンは、価格要因なのか?数量でのダウンなのか?である。前者であれば、まだオランダには復活の芽がある。しかし、もし後者が事実であれば、物流と情報のハブとしての有効性は、もはや機能しなくなったということである。