研究の対象に愛情を感じられるか?

 専門職大学院の科目に、「プロジェクトリサーチ」(10単位)という教育プログラムがある。わたしたちが、もっとも大切だと考えている科目である。アカデミックな修士課程ならば、ふつうは研究論文を課されるのだが、IM研究科は経営の専門職を養成するコースである。より実務的なテーマに取り組むことを求める。実際は、新規の事業プランやそれと同等なリサーチ計画を作成することになる。


今年度、校長に就任して最初に手がけたのが、PJ(プロジェクトリサーチ)の指導方法を変えることだった。IM研究科の在校生は約90名。プロジェクト担当教員が20数名ほどいる。人的な投資という視点からは、ずいぶんと贅沢な大学院である。

 これまでは、基本的に先生が一対一で生徒を教育していた。これを、クラス制に変えたのである。全体を6つのクラスに分けた。学生12~15名に対して、教員3~4名の配置である。前期前半(4月~7月)は、これまでも集団で学生のプロジェクトを指導していたのだが、クラスのサイズが小さかった。先生が2、3人に、生徒が5、6人の割り当てだった。クラスの大きさが5人程度だったのを、一挙に先生を含めて20人に拡大したわけである。
クラスは毎週3時間。各回3~5名が、自分の事業プランを発表する。キャリアも視点もちがう教師4人が、彼らに相対するので、クラス運営が以前と比べてダイナミックになった。プロジェクト指導の時間は、よい意味で、緊張感の高い場に変わったのである。知的な稽古場、起業道場の雰囲気である。

 わたしが主査で担任をしている「クラスB2」は、およそありえないくらい豪華な指導メンバーが揃っている。マクロミル社長の杉本さん、インタースコープ(現、ヤフーバリューインサイト)創業者の平石さん、元野村証券チーフアナリスト、大村先生、そして、大学院とJFMAを創業した小川教授である。(偉そうだな、笑)

 昨日も、そんな稽古場で4人の社会人院生が発表を行った。年齢的には、30~40歳が中心である。キャリア、性格、特技は、まったくばらばら。だから、発表を聞いているとおもしろい。ひとり約40分のPowerPointを使ったプレゼン形式である。突っ込みとフォローの交代劇は、へたな芝居を見ているよりおもしろい。どきどきの連続の実況中継は、まじめに金が取れるかもしれない。クラス編成が終わってから、2ヶ月が経過している。3巡目に入っている。だから、だんだん彼等、学生の特徴と持ち味かわかってきた。女性と外国人もひとりずついる。多様なクラス構成ではある。

 いつも強烈な爆撃を敢行する杉本教授が中国出張で、昨日はお休みだった。だからではないが、4人の発表者に対して、ふだんより優しめコメントが多かった。ただし、わたしは、ある学生に対してやや厳しいコメントを与えた。テーマは面白いのだが、発表に熱意が感じられなかったからである。隣に座っている平石さんやわたしから、市場規模や従業員の数を問われても、即答ができなかった。
プロジェクト開始から2ヶ月。彼の問題は、具体的な数字を答えられなかったことではない。それは結果である。自分が事業の対象としている会社組織(買収した子会社)や商品に対して、距離を置いていることを、教員やクラスメイトがなんとなく感じてしまう。それが問題なのである。わたしは、彼に対して別の表現を選んだ。「あなたが取り組んでいる事業は、わたしが聞いているかぎりは、まるで他人事のように聞こえる。商品や会社に対して愛情が感じられない!」
そうなのだ、明日から経営を任されるかもしれない会社について、データを集めよう努力している気配が感じられないのだ。もし対象に興味があったり、どうにかしたいという熱意があれば、聞かれなくともどんどん話を膨らませるものだ。
思うのは経営のパフォーマンスを決めるのは、分析力と実行力である。しかし、最後にそのビジネスが立ちいくかどうかは、対象(商品、ブランド、会社、カテゴリーなど)について語る発表者の心情である。愛情を持って接しているかどうかは、聞き手に透けて見えるものである。

Tくん、お願いです。次回は、心を込めた発表を心掛けてくださいね。、