5月10日に、『JFMAニュース』の巻頭言として執筆した原稿である。扉頁のために、オリジナルの原稿は、約3分の一をカットしてしまった。ここに、全文を掲載することにした。この巻頭言にもとづき、6月7日の総会では、これまでの10年間を総括することになる。
5月18日で、JFMAは創立10周年を迎える。人間ならば、小学校3年生。ようやく自分の頭でものごとを考えられるようになったばかりである。体力的にも、どうにか昼寝をしないで一日が過ごせるぎりぎりの年齢である。
JFMAの誕生は、今から振り返ってみると結構な「難産」であった。当初のメンバーと協会の設立を思い立ってから、法政大学の小川研究室を暫定事務局にして、実際に動き出すまでに1年を要している。米国のFMA(フローラルマーケティング協会)に制度システムを見習って、日本の花産業の成り立ちを根本から変えてしまいたいという目標を掲げた。そうはいっても、人もモノも先立つ金も、まったくないところからの船出であった。
もちろん、社会的な認知度もゼロであった。手弁当で、海外視察や地方セミナーを実施して、少しずつ会員の数が増えていった。初期の取り組みで重要だったのは、「切り花の鮮度保証」の実験とテスト販売(花良品、八王子店など)である。2001年では問題提起がやや早すぎたかもしれないが、昨年度の「JFMA鮮度保証販売プロジェクト」の実施にこの運動はつながっていった。農水省の「花き産業振興方針」(2010年度)に「日持ち保証販売」として組み込まれ、少なからぬ予算が今後は投入されていくことになる。約10年前にわれわれが蒔いた小さな種が、ようやく芽を吹き出し始めている。切り花バケットのサイズ規格提案も、実はそれと関連した派生プロジェクトであった。
わたしたちの協会にとって、大きな転換は2004年に起こった。「リードジャパン」との共催で、この年の秋に、東京ビッグサイトで「IFEX(東京フラワーエキスポ)」がはじまった。展示会としての規模が拡大した結果、現在は幕張メッセで開かれている。この国際展示見本市は、花の産業界で働く人々に、新たな商談と情報交換の場を提供することを目的にしていた。2008年からは「GARDEX」(ガーデニング部門)、2009年からは「EXTEPO」(エクステリア部門)を併設して、現在、アジア最大の花き展示会に発展している。
2007年に、2度目の転換点が訪れた。JFMAが協会としての位置づけを大きく変えることになる「MPSフローラルマーケティング㈱」(現、MPSジャパン㈱)の設立である。2004年の秋に、オランダのMPS財団(花の環境認証会社)のデグルート総裁を招いて、法政大学で記念セミナーを開いた。日本の花業界でも、将来、農薬や化学肥料の多投入による環境汚染や健康への被害が問題になるだろうと予見したからである。業界として事前に準備を整えておこうと思い、オランダの最高責任書を招聘したのである。
日本経済新聞社が、大学でのセミナーの様子を大々的に報道してくれた。ところが、いざMPSの仕組みを導入しようとする段になると、JFMA理事会の中心メンバーでさえ、具体的に会社設立に対しては難色を示した。農水省の対応は、それよりもっときびしかった。エコファーマー制度がすでに存在しており、MPSは外国の農業規格である。当時は、MPSを日本に移植することに、積極的に賛意を示してくれた人はひとりもいなかった。
2005年に潮目が変わった。岐阜大学農学部の福井博一教授にお願いして、MPS導入のためのプロジェクトリーダーになっていただいた。その後、2007年の子会社設立以降も、紆余曲折はあったが、松島義幸社長のもとで、MPSジャパンは着実に成長を続けている。今年4月からは、野菜・果樹の環境認証プログラムに事業を拡張している。また、MPSのプログラムは、生産から消費までのCO2の排出量を測定できることから、CFP測定の強力な道具としての社会的な役割が期待されている。
守重知量副会長(インパック社長)とは、協会設立の当初は、「二期4年で任期満了、会長・副会長、専務理事は次の人に交代するようにしましょうね」と約束したものである。結局は、ふたりとも10年間、会長・副会長職を離れられないでいる。JFMAの協会活動で次の世代を担う後継者を育てることが、いまの最大の課題である。もっとも、花の業界においては、この10年間で有能な若手の人材は間違いなく育ってきている。
年間20回ほど開かれている各種セミナー(主担当:伊藤瞳副会長)や、年二回の海外視察ツアー(主担当:海下展也)を通して、花業界の人材交流と事業機会の提供、情報交換の場を提供してきたという会長としての自負心はある。しかしながら、それでも、花業界の構造改革は、まだ緒についたばかりである。これからが本番である。IFEXもMPSも日持ち保証販売の取り組みも、すべてがそのための手段である。
ひとりでも多くの人がお花を楽しむことで、人々が幸せな気持ちになることができる。そのための仕組みと情報とツール、そして、仕事の場を提供することがわたしたちJFMAの変わらない社会的な使命である。