ボスポラス海峡クルーズは、事前に何も調べてはいない。すべてが行きあたりばったり。ガイドさんに概要を聞いただけで、あとは適当に勘でトラム(路面電車)に乗る。それが、トルコ旅行でいちばん楽しい小さな旅に。
ボスポラス海峡は、アジアとヨーロッパを分断している。南北32キロに裂けたサファイヤ色の深い水の峡谷だ。観光クルーズに用いられる大型船は、旧市街の港町エミノニュを、午前10時35分と午後13時35分に出る。一日ニ便だから、あと10分遅れたら、午前の便を逃すところだった。
ホテルの前からトラムを乗り継いで、港町まで急な坂を下りて行く。イスタンブールの路面電車に乗るには、切符売りのスタンドで、一枚1リラ50で、プラスチックの丸いチップを購入しなければならない。コインの細かな刻みなど、どこかポーカーのチップに似ている。
改札を通るときに、チップを一枚、改札スタンドの穴(スリット)に入れる。美術館の入館システムと同じ方式だ。回転式のバーが回るのは、パリやニューヨークの地下鉄と同じ。違いは、片方が紙の切符で、もう一方が使い切りのプラスチックのコインの差である。
朝10時なのに、三両編成のトラムはかなり混んでいる。「スリに注意を!」とアリさんに警告を受けたばかりだ。海外旅行のときにいつも携帯している、小さなポシェットを脇にしっかり抱えて立つ。
グランバザール駅で、乗り換えを一回。終点シルケシでトラムを降りる。ここまでは、ホテルのフロントで聞いたとおりだ。しかし、その先がわからない。下調べをわざとさぼって、クルーズの航路を調べていないからだ。自業自得を楽しむ。
ボスポラス海峡クルーズは、一番端っこの3番ピアから出ることがわかる。フルコースとショートコースの選択があることが判明した。知らなかった。朝のお迎えガイドさんが、夕方に帰ってくるコースがふつうだとか言っていた。「スタンダード」の意味か?ちょうど接岸した大きな船が、一日コースのクルーザーだった。
こんなときは、「お客さん!迷ってはいけませんよね」(アリさんの口癖)。往復分の25リラ(約1500円)をチケット売場のお姉さんに払う。片道ならば15リラだ。あとは乗ってから考えればよい。
フルコースは、ボスポラス海峡を、マルマラ海側から黒海まで北に昇っていく。片道1時間30分のクルーズである。途中、4つの港に停まる。それぞれが有名な観光スポットになっている。お城あり、別荘あり、モスクありだ。
クルーズの乗客は500人ほど。甲板が溢れかえるほどではないが、快いくらいには混雑している。ほとんどは、最終の港町アカバギ(A.KAVAGI)まで行って、3時間を過ごす。お昼時である。
(後編に続く)