お気に入りの読み物に、『ニューズウイーク日本語版』の「TOKYO EYE」というコーナーがある。東京在住の外人さんたちが、毎週交代で執筆しているライトなコラムである。執筆陣の国籍はまちまち、年齢もばらばら。共通しているのは、日本をこよなく愛している男性という点である。
今週号の担当は、MICHEAL PRONKOさん。本業は明治学院大学の教授で、米国カンサス市の生まれ。ジャズに造詣が深いとなっているが、専門は米国文学である。わたしと同業者だから、変わり者に決まっている。だから、彼が書くコラムもおもしろい。
「TOKYO EYE」は、毎号、NWの最終ページ(78頁目)に掲載されている。今回のコラムのタイトルは、「東京を住みよい街にする”しぜんびと”の力」である。「しぜんびと」とは、庭師(Japanese gardner)や花屋の店員さん(florist)たちのことを指す。彼らこそ、昨日のコラムで書いた、「ジャパニーズ・ワークスタイル」を体現した専門職のことではないか!
外人さんの目からみると、彼らの働く姿や作業服(地下足袋に至るまで!)は、異常に「かっこよく」(cool)見えるらしい。彼らの見方は、わたしの仮説通りではないか。だから、消防士やおまわりさんまで、日本的な制服文化と道具を扱う働くスタイルは、とってもクールなのだ。
かれら(しぜんびと)は、自然を保持するという点で、東京の街の美化に貢献している。このような視点は、日本人以外の人種に言ってもらわないと、日本文化や都市の良さがわからないものだ。
このコラムには、美しい日本ばかりが登場するわけではない。中国人や韓国人が見る怪しげな場所も出てくる。
それを表現する外人のライターさんも、元の職業からして、そもそもがかなり怪しげである。典型的な日本の浅草や銀座だけが舞台になっているわけではない。大久保や歌舞伎町のような猥雑な地域や、渋谷や原宿などのような若者の街も登場する。新旧、遠近、中心から辺縁までを含んで、すべて東京が魅力的に描かれている。
わたしたち日本人は、日常的なものとして、東京の街を見ている。しかし、彼らの目からは、さまざまな東京の顔が、どこでもそれなりにエキサイティングな場所にみえるらしい。
だから、このコラムを通して、わたしたちは、素敵な東京の探し方を、ちがう目の色をした外人さんに教わっているのだと思っている。別の歩き方で、東京の楽しさを味わうことができるのだ。ときにゆっくりと、ときに素早く。
そういえば、42年前に田舎から出てきたとき、TOKYOは異郷の地に見えたものだ。わたしも「外人さん」だった。最初は、新鮮な気持ちで、町歩きをしたなあ、と。
浅草、柴又、後楽園、小石川植物園、井の頭公園、多摩テック。もちろん、山手線内では、歌舞伎町、代官山、青山、六本木。赤坂や銀座は、ビジネスマンが動き回るやや大人の街に見えたものだ。
そうそう、「TOKYO EYE」を読む楽しみのひとつは、外人さんたちが遭遇する不可思議な体験物語のひとコマが、大学生だった自分のいた場所に連れ戻してくれることだ。
ある夏の夜(1970年)、澁谷の道玄坂を登って行った。うぶな19歳の大学生は、偶然にも、井の頭線の神泉駅の裏手にあるラブホテル街に迷い込んだ。そして、その後にはじめてデートした同郷の専門学校生が、神泉駅の裏方にあるアパートに住んでいることを知って驚いたものだ。
そんな東京を、別の視点から楽しむ方法を、このコラムは教えてくれる。そろそろ時間が来たようだ。大学院の演習がはじまる。今年度は、コロンビア人の「ホルヘ」くんもゼミ生にいる。盆栽が趣味の彼に、コラムを書いてもらおうか。
「コロンビア人が見た、日本のガーデナーの仕事ぶり」なんて、どうだろうか。