先月の16日、日本版顧客満足度指数(JCSI)の「お披露目シンポジウム」が開かれた。当日の小川の基調講演記録がまとまってきた。SPRINGのHPには、業界別・指数別のランキングが掲載されている。本HPでも、講演の要約部分をアップしておく。
基調講演 Keynote Speech
「日本版CSIベストプラクティス企業から学ぶ」
(写真入る)
小川孔輔 氏 CSI開発改善ワーキンググループ委員長 法政大学経営大学院教授
■JCSIの開発を終えて
3年間にわたる日本版顧客満足度指数、JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index)の最初の調査が終了し、今日そのスコアとランキングを業界別、指数別に発表できるようになりました。
CSI(Customer Satisfaction Index:顧客満足度指数)の測定システムは、すでに世界30カ国以上で運用されていますが、日本版の特徴は2つあります。ひとつは、業界を横断的に比較できるという点、もうひとつは、満足の理由(原因系)を説明するモデルを開発したことです。さらに、満足した結果と再利用意向の因果関係も分かります。
[図1]JCSI業界別の顧客満足度分布
[図1]は今回の顧客満足度指数の調査結果です。横軸が業界、縦軸が得点です。理論的には0点もあり得ますが、現実的には一番悪いところでも50点です。一番高いところはレジャー系で、トップは82.3点です。
それぞれの棒グラフの一番上は、各業界における顧客満足度指数のトップ企業で、一番下は一番得点の悪い企業です。くさびは中央値で、その業界ランキングの真ん中にある企業の得点を示しています。
目安は、業界ごとに真ん中にある企業が何点ぐらいを取っているかです。例えば携帯電話は全体が少し下ですが、真ん中の企業は下ではなく、意外と高いところにあります。
もうひとつ、例えば衣料品専門店や生活雑貨・家具専門店などは、上と下の幅が非常に狭く、トップと下位にあまり差がない。業界内で、顧客満足度のばらつきが比較的小さいということです。逆に、飲食や国際航空などは幅が広くなっています。これは顧客満足度のばらつきが大きい業界ということです。このデータはそのように読んでください。
サービス業では「見える化」することが重要です。この棒グラフは、日本のサービス業全体を見るときに一番分かりやすい鳥瞰図になります。
■JCSIの仕組みと調査概要
[図2]JCSI 原因と結果の関係
顧客期待とは「お客様がそのサービスの利用前に抱いている期待」、知覚品質は「利用した際の品質評価」です。[図2]で矢印の色が非常に濃くなっているのは、期待と品質の間の因果関係が強いことを表しています。 知覚品質から知覚価値に向かう矢印は、薄い網が掛かっています。ある種のサービスに対する品質の評価が絶対的に高いかどうかが重要ですが、もうひとつ、サービスに支払った金額に見合った品質かどうかも大切で、それを示すのが知覚価値です。
その結果として顧客満足(CS:Customer Satisfaction)が決まっている。これがJCSIの仕組みです。満足度は、顧客期待と知覚品質と知覚価値の3つが決めているというモデルです。
サービスの結果は、お客様のクチコミにつながります。ロイヤルティは、一度利用したお客様に継続してサービスを利用していただけるかどうかです。
JCSIの仕組みとしては、顧客満足度を100点満点で評価するだけでなく、それを説明する3つの要因(顧客期待、知覚品質、知覚価値)、そして満足以降のお客様の行動(クチコミ、ロイヤルティ)も同時に測定します。この6指標が同時に評価できるのが、日本版の大きな特徴です。
準備段階のものを別として、調査は次の3回実施しました。
・第1回調査(平成21年6~7月):8業界・64企業、回答数2万4,586人
・第2回調査(平成21年10~11月):9業界・108企業、回答数3万8,292人
・第3回調査(平成22年1~2月):12業界・110企業、回答数4万2,249人
トータルは、29業界・282企業で、総回答数は、10万5,127人です。それ以外に参考指標の回答者数が1万4,511人ありますので、計11万9,638人のサンプル数となります。
調査方法は、基本的にネット調査です。ネット調査の場合、20~30歳代にサンプルが偏るので、日本人口の年齢分布に合うようにサンプリング比率を割り当てています。
次はデータ特性です。まず回答者は、1人が何社も答えるとバイアスがかかるため、1人1社のみで、しかもそのサービスを利用したことがある人に限定しています。各社のサンプル数は300プラスαで、いいかげんな答え方をする人は事前に排除しています。設問数は約100問です。
■ランキングの読み方
[図3][図4]に、上位50社のランキングをご紹介します。
[図3]平成21年度JCSI上位50社(その1)
[図4]平成21年度JCSI上位50社(その2)
トップは東京ディズニーリゾートで、得点は82.3点です。中央の欄に赤く網を掛けているところは、各業界のトップ企業です。通信販売業界と旅行業界、飲食業界が、日本のサービス業のなかでは上位のほうにランキングされていることが分かります。
[図5]に、各業界で利用者からの満足度が高かったトップ企業をご紹介します。売上高シェアや利用度によって各業界5~10社程度をピックアップしています。
[図5]各業界で、利用者から最も満足度が高かった企業
これは顧客満足度指数の得点だけでなく、横に見てください。顧客満足度の高い企業がクチコミやロイヤルティも高いかというと、そうでもありませんし、顧客期待が高いから顧客満足も高いかというと、必ずしもそうではありません。こ6つの指標のバランスを見ながらご覧ください。
顧客満足度という指標ではなく、顧客期待や再利用意向など、別の指標でのランキングではまた別の評価が見えてきます。
[図6]顧客期待(6項目の評価)
まず顧客期待です[図6]。サービスを利用する際に、事前に持っている印象で一番高く評価されている企業です。ここには顧客満足度が高い企業も入っていますが、そうではない企業も入っています。利用者からの期待が高い企業が並んでいますが、その業界を見てみますと、レジャーイベントやホテル業界、特にシティホテルの数社がトップにきており、お客様からの期待が非常に高いことが分かると思います。では、それが顧客満足度も高い企業かというと、それはまた別の話です。
[図7]知覚品質(6項目の評価)
[図7]は知覚品質です。サービスの品質が高いと評価されている企業ないしは業界は、ホテルも入っていますが、意外と多いのは通信販売で、特にネット通販の会社がお客様からの品質評価が高いことが分かります。ネット通販、カタログ通販、テレビショッピングを入れますと、トップ10社中4社が通信販売業界です。ですから、ホテルと通販で7社ということになります。
[図8]知覚価値(6項目の評価)
[図8]は知覚価値です。これが高いのは、圧倒的に飲食業界で、半分以上を占めています。しかも、すしチェーンが3社も入っているのが特徴です。知覚価値とは単に価格が安いことを意味しているわけではなく、品質に対するお値段の相対的なトレードオフを評価しています。つまり値頃感ということです。フードビジネスのなかで値頃感のある会社のサービスが評価されていることが分かると思います。
[図9]クチコミ(6項目の評価)
クチコミは次の利用者の期待に関係があります。
[図9]に面白い結果が出ています。シティホテル業界は顧客期待が高く、クチコミでもやはり上位にきており、何と上位8社を占めています。クチコミの指数そのものは、ほかの指数に比べあまり高くありません。
[図10]ロイヤルティ(6項目の評価)
[図10]は再利用意向、満足したお客様がまた利用したいと思うかということを指数化したものです。この特徴は、上位3社が旅行業界のネットサービス企業です。その下はばらついていますが、インターネットの予約サイトが4社も入っています。
[図11]詳細なお客様の心理はどうなっているか? さきほど、満足した結果がクチコミや再利用意向にどう結びついているかという話をしましたが、実はJCSIではもう少し違う指数も測っています[図10]。
具体的には、利用した際の品質評価に関しては、商品の品質評価とサービスの品質評価を別々に取っています。また、総合的な顧客満足に対して、満足を超える喜びや感動の指数も測っています。
もうひとつ、再利用意向と関係がありますが、満足していなくても、ほかに代替案がないので継続利用しているというお客様もいらっしゃいます。スイッチングバリア(切り替え障壁)といいますが、その指数も測定しています。
経済産業省のバックアップは2009年度で終わり、来年度以降は、サービス産業生産性協議会が継続的にこの調査・公表を行っていくことになります。JCSIの最終目標は、ランキングの発表ではなく、日本の流通サービス業の生産性を高めることにあります。今後とも皆様のご協力をお願いいたします。ご清聴ありがとうございました。