驚愕のあいさつを聞いた。3月31日のことである。名古屋の「名港花き市場」の開場祝賀会に招待されて出席した。新しい市場の施設を見学した後、市内のANAホテルに移動して、新市場の開設祝賀会のセレモニーが始まった。
新しい名港花きは、松原地区にある卸会社5社が合併して誕生した、地方卸売市場である。仲卸が23社、資材業者か5社入場している。市場の機械設備は最新式のものである。立派な空調施設も整っており、鮮度保持対応ができている。
MPSのトレードもすでに取得している。問題があるとすれば、バケット対応ができていなさそうな点だけである。昭和49年から36年がかりで、ようやく開場にこぎつけた一大事業である。紆余曲折があったのたろう。ANAホテルで、ようやく祝賀のセレモニーが開かれた。そのときの出来事である。
総工費が50億円弱で、そのうち、行政側が17億円を支援した。そのこともあって、ふつうのセレモニー以上に、たくさんの県会議員、市議会関係者が参列していた。
わたしも壇上にあがって、花の代表者として紹介された。しかし、なんとはなしに、業界関係者の紹介が後回しにされた感があった。、こうした場所の経験が少ないせいなのか、なんとなく興ざめだった。まあ、特別な事情があったのだろう。花業界の内実にあまり明るくないので、行政ばかりが目立っているお祝いの席に、大いに違和感があっただけなのかもしれない。
新しい市場の移転元は、名古屋の中心部の松原地区である。相対市場である。この地区は、交通渋滞がはげしい。逆に、立地としては便利なのかもしれない。ただし、何度も訪問したが、物流と販売には手狭な場所である。先の発展は望めないが、この松原地区には、まだ50社近くが残留しているらしい。
35年以上を費やして、ようやく3分の一の部分移転である。行政と業者の間で、不協和音か聞こえてきそうである。そんなことも、パーティー会場に微妙な雰囲気にを与えていたのかもしれない。
午後から開かれたパーティー会場で、びっくりすることに出くわした。これは、二重の驚きであった。
最初に紹介された来賓のなかに、神田真秋(まさあき)愛知県知事がいたのだが、司会者が知事の名前を紹介するのを忘れてしまった。あるいは、意図的にスキップをしたのかもしれない。わたしにそう思わせたのは、「名前がリストから外れていること」を失念した無礼を、周囲にいた誰もが訂正するように求めなかったからである。ちょっと唖然の瞬間だった。
つぎに起こったことに、また驚かされた。知事のあいさつの順番が、来賓の一番目ではなかった。常識的には、トップだと思うが。さらに驚愕したのは、司会者に紹介されてマイクの前に立った神田知事に、動揺の様子がまったく見られないことだった。それどころか、原稿なしで壇上で堂々と、名港花きの地域における役割(愛知は日本一の花の産地)と開場までの経緯(3分の一世紀を要したこと)を話しはじめた。
理路整然と、約10分間。立派なあいさつだった。事前に準備をしていたとは思えない。ふだんから、地域の事情を勉強しているのだろう。司会者の不手際に対して怒るわけでもなく、実に淡々とあいさつをして、軽い拍手を浴びて壇上から降りた。わたしにとっては、その態度が感動ものだった。