院生の新田美砂子さんから、メッセ視察後にメールがきた。午前中で視察を切り上げたわたしとはちがって、彼女は午後からゆったり展示会を見学してきた。数日前から、「先生、幕張のトレードショーはいらっしゃいます?」と問われていた。新田さんのような専門家に、会場の案内役を頼みたかった。
新田さんからのメールのコメントで印象深かったのは、「トレードショーは加工品だらけ。こんなになってくると、生鮮食料品は特別なカテゴリーに変化してしまいそうです」だった。わたしも彼女と同じ印象をもった。ホール全体を回っても、生鮮品はほとんど展示されていない。
スーパーマーケットの売場は、60~70%が生鮮食料品だ。「お客様に生鮮品を買ってもらい、家庭で料理をしてもらわない」(新田さん)と商売にはならない。それなのに、8つのホールを占拠しているのは、商社(卸)や加工メーカーの提案する加工品ばかり。この展示方法では、実際には商売にならないのだろう。
新田さんの言う通りで、いまの展示では生鮮品の売上げにはほとんど寄与しないだろうな。正直に言えば、この点がとても気になった。
なお、マテハンや加工技術に関しては、いくつか興味深い展示があった。たとえば、今年度、ゼミ生グループのフィールドワークを受け入れてくださった「イシダ」(京都の計量器メーカー)がデモンストレーションをしていた。物流と加工の作業ロボットなどである。AI技術を使って、精肉などのパッケージ作業が自動化されている。
無人でロボットが、精肉の盛り皿を操作している。米国アマゾンなどでは、レジ周りと商品棚の自動化は進んでいるが、イシダが幕張メッセで提案しているのは、バックヤードにおける作業のロボット化だった。ロボットが高齢者の代わりに、重量のあるトレイを運んでいくシステムが紹介されていた。
この先、スーパーマーケットのバックルームから若者が消えてしまうかもしれない。目の前では、生鮮やデリカのトレイを積んだロボット台車が、自動運転をしながらピッキング作業を代行している。無音のバックルームが、、、そんな未来を想像してしまった。
もうひとつ面白かったのは、インパックの宮西さんに教えてもらった食品卸の「国分」の展示スペースだった。インパック(花のスリーブと結束機の会社)は、ホール2でブースを持っている。たくさんのバイヤーさんが、インパックのブースに寄ってくれるらしい。それはそうだろう。花関係の出展は、ファーマインド(旧フレッシュフラワー)とインパックだけだから。
国分の展示は、その隣にあった(ホール2)。ユニークなところは、消費者の「カスタマージャーニー」(買い物の流れ)に沿って発生する課題を、メーカーがどのように解決すべきをパネル展示したものだった。
斟酌するに、①買い物前の情報収集からはじまり、②店内やネットでのショッピング中の課題、③調理方法の選択(軽量パックや小分け)、④ごみの廃棄問題など、すべての課題に対して、店舗やメーカーは対応すべきという主張だった。宮西さんは、「花業界でも、このような発想で商品開発してほしいですね」とうらやましそうだった。
わたしがもっとそのような主張を、花業界内でもしてほしいのだろう。そのように受け取った。
併設の展示会=「こだわり食品フェア2017」(地方物産)が、今年から独立していたことを、視察後に昭和村の菅家博昭さんから知らせれた。
菅家さんの情報によると、昨年までは、本体に隣接したフロアに間借りして、「こだわり食品フェア」が運営されていたらしい。今年は独立して別棟(ホール9~ホール11)を借り切っての展示になったとのこと。下手をすると、SMTSの本体(ホール1~ホ-ル8)より、こちらの3つのホールのほうが賑わっているくらいだった。ただし、東京にある地方物産館との違いがいまいち不明だった。
菅家さん曰く、「出展している地方のひとにとって、ある種の”学習の場”になっているのではないですかね」。たしかに、ここにくると、大手加工メーカーの動きや食の世界情勢がひとめで分かるようになっている。でも、新田さんのコメントはきびしかった。
彼女の〆のメールは、「トレードショーですが、ああいう大規模な展示会の時代は終わっていると思います」。地方のスーパーに行くと、地産地消でそこにしかない食品の素材がたくさん置いてある。それなのに、このトレードショーには、スケールメリットが必要な加工品しか扱われていない。
わたしもその意見に同意する。このフロアからは、「オーガニックやナチュラル」という近年の動きと連動を感じなかったからだ。象徴的な出来事を最後に紹介したい。某ソースメーカーのブースでの対応に、心底驚いた。
そのブースは、結構大きなスペースを割いて、焼きそばやお好み焼などの試食を行っていた。その中に、新製品のピクルスをパッケージにして陳列した模擬店があった。オープンなカウンターの看板は、「Healhty & ORGANIC」。その看板を認めたので、売り子さんに声を掛けてみた。
「ピクルスの原料は、全部がオーガニックなのですか?」と。ところが、その若い女性は、「オーガニック」が聞き取れなかったらしい。隣の女性がそれを聞きつけて、「この季節なので、そうですね。展示品のごく一部ですね」と助け船を出してくれた。しかし、緑の看板には、「Organic」と大書されている。
どうやらこの売り子さん(たぶん雇われたマネキンさん)は、オーガニックの意味がまるでわかっていないらしかった。そんなひとに、オーガニックかどうかわからないピクルス(人参、大根など)を実演販売させてはいけない。全国的に有名なソースメーカーではあるが、担当者のアルバイトの人選を考えてしまった。商品知識はその程度なのかと。