アマゾン・ドット・コムが、米ホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5200億円)で買収すると発表した(米国現地時間、6月16日)。ネット通販のアマゾンは、これで本格的に食品小売業に参入することになる。しかし、アマゾンが実店舗を持つことの意味はやや不明である。
アマゾン・ドット・コムが、米ホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5200億円)で買収すると発表した(米国現地時間、6月16日)。ネット通販のアマゾンは、これで本格的に食品小売業に参入することになる。しかし、アマゾンが実店舗を持つことの意味はやや不明である。
EC最大手のアマゾンにとって、ホールフーズ買収は過去最大規模になるが、その経営的なシナジーには疑問符がついている。各誌の論評も、巨大EC企業のアマゾンが、実店舗小売業を買収する意図を図りかねている。
例えば、もっと早くニュースリリースを出している『ブルームバーグ(Bloomberg)』によると、「ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、マイケル・パクター氏は、アマゾンにとって今回の買収は食品の配送網取得といった意味合いが強いと分析。アマゾンはここ何年も食品配送事業への参入を試みてきたが、他の分野ほど成功していない」「アマゾン、ホールフーズを137億ドルで買収-食品販売に本格参入」(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-16/ORN6SK6JIJUP01)など。自社の配送網を確保するのに、自然食品系のホールフーズを必要とするとは思えない。
同じ小売業とはいっても、アマゾンは伸び盛りのIT企業である。ビッグデータやAIを駆使したハイテク経営に優位性を持っている。実店舗(コンビニエンスストア)での商品販売を「自動化する技術」(Amazon GO!)などを開発して、世間をあっと言わせた。他方では、アマゾンは巨大な物流会社という側面も併せ持っている。一方のホールフーズは、自然食品スーパーマーケットの草分け的な存在で、ワイルドオーツなどの自然食品系チェーンを統合しながら成長をしてきた。ただし、売上高一兆円を超えた2010年ごろから、成長性と収益性に陰りが見えてきている。近年になって、とくに得意とするナチュラル&オーガニック市場は、コストコやクローガー、ウォルマートのような伝統的な小売業に急速に浸食されつつある。
真実はといえば、米国流の株主資本家(アクティビスト)の論理がホールフーズにプレッシャーをかけた。その出口として、売却先がアマゾンに落ち着いたというのが正しい答えのようだ。「ホールフーズは、今年に入り8%強の株式を取得したアクティビスト(物言う投資家)のジャナ・パートナーズから、買い手を探すよう圧力を受けていた。アマゾンの傘下となることで、マッケイ氏はホールフーズのCEO職にとどまることが可能になった」(同上、ブルーンバークのコメント)。
とはいえ、1兆円以上を投じて買収を決断したアマゾンの立場からいえば、「ホールフーズの顧客とその購買データ」がもっとも資産的には価値があるように思う。米国の最富裕層の買い物データ(しかも、顧客シェアが高い食料品とデリカ、サプリメントなどを含む)が、ECマーケティングにも利用可能になるからである。また、富裕層をターゲットしている実店舗は、将来性があると言われる自然食材料のテスト市場としても利用価値が高い。
もともと、アマゾンはデータ活用企業である。食品の販売実験場を握ることで、テストマーケティングを試みてくるのではないだろうか。当然のことながら、実店舗を指揮するホールフーズの創業者、ジョン・マッケイ氏はCEOにとどまることになった。