日本企業の中国シフト、中国・インド依存症候群: そして、日本の政治は、、

 親交のあるトヨタ自動車の中堅幹部が、続々と中国担当部門に異動になっている。年末にプレス発表があったから、予想されたことではあるが、国内の商品企画やマーケティング担当(市場調査部)であっても、仕事のしかたに中国やインドの影がちらついている。「中国・インド依存症候群」の雰囲気が、日本企業を覆っている。


中国シフトの代表選手は、「豊田汽車」(中国語表記、基本は合弁事業)である。資生堂やキリンビバレッジ、花王やユニチャームは、ずいぶんと前から中国シフトに拍車をかけてきた。外食産業(吉野家、サイゼリア、ワタミ)も、右へならえの、「一億総中国シフト」である
 とはいえ、その成果は、着実に実り始めている。大手メーカーに寄り添うように、広告代理店(電通、博報堂)や市場調査の会社も、中国本土に渡っている。例えば、代表例が、わたしも上海現地調査で利用させていただいた「インテージ」(現地子会社)である。
 広告会社やプロモーション企画の企業で、もっとも元気なのは、中国担当になった若者たちである。若い会社ほど、アジアという新しい環境に適応できそうな気配がある。社歴が長い社員をたくさん抱えている企業は、適応に苦労している。

 メディアではあまり報道されていないが、中国・インドシフトに成功している企業は、実は業績がそれほど悪くない。国内の小売りサービス業が、相対的に業績が振るわないのに比べて、大手メーカーや素材・部品産業は、急速に業績を回復させている。
 それはそうだろう。年率9%(16億人)と7%(13億人)で成長している市場の上澄み(5~10%)を対象に伸びていけば、本国(1億人)の市場での不振を挽回することは、それほど困難ではない。いまのところは、為替換算で製品サービス単価が低いから、表面的には利益貢献の幅は小さいが、その市場規模は国内市場の10倍である。為替レートが2倍に切りあがったら、早晩そうなるだろうから、結果はほくほくものである。
 資本の論理は、冷徹である。人も資金も資源も情報も、新興市場に向っていく。日本の国内で地道に稼ぐよりは、近くのアジアに資金を移動させたほうが効率的なのである。欧州と米国は、近いうち日本にとっては重要な市場ではなくなるだろう。誰が考えても、そうである。
 人的な交流も、アジアシフト、アジア人を中心に動くことになる。「わが国の中学・高校では、英語より中国語を教えるべきだ!」と言い出す政治家や経済人が、そのうちわんさか出てくるに決まっている。

 民主党、鳩山内閣(小沢一郎の意向)の怖いところは、日米関係と米中関係を露骨に天秤にかけていることだろう。本音は、経済界の意向を受けての政治的な方針転換である。中期的に考えると、物事はそれほど単純には進まない。現実的に、日本の再軍備の問題があるからだ。
 米国の軍事的な保護下から抜け出そうとするのは、それはそれでかまわない。しかし、そうなれば、米国の核の傘は期待できなくなる。日本にとって、再軍備の必要性が高まる。実は、憲法9条問題と外交問題は切っても切り離せないのである。経済的にきびしいいまの日本で、経済的に相当な負担となる再軍備は引き合わないだろう。それでなくとも赤字国家である。介護や福祉に投じる資金は、一体にどうするつもりなのだろうか?
 わたしは「右翼」でも「タカ派」ではないが、民主党(連立二党を含む)に組している人々の理想主義にはしばしば辟易させられる。マニュフェストには、対米外交と軍事イシューに関しては、どのような調整を3党で交わしたのだろうか? 平和政治のスタンスは、どう見ても現実的ではない。理想はあくまで理想。政治も軍事も経済も、現実的に判断すべきである。

 対米の政治スタンスを変えないようならば、早晩、民主党政権は対米外交の失敗から破綻するとわたしは見ている。普天間基地の移転問題での迷走が、まさに象徴的な出来事であった。鳩山政権は、ほとんどの大切な公約を実現できていない。
 時制を「過去形」で書いてしまう。根本的な問題は、政治と経済を指南できる有能なブレーンを現政権が欠いていることである。さらに決定的なのは、リーダーの決断力である。小沢一郎首相のほうが、実にすっきりではないかと思うことがある。
 メディアは、鳩山家の贈与税の不正、小沢一郎の贈収賄事件に報道を集中している。しかし、そのようなあきれ果てたゴシップの類は、世界の政治状況から見れば、それほど大してことではない。対米(中)外交と経済運営の失敗が、この国にとっては命取りになりそうなのにである。