高杉良氏の『青年社長』を読んで以来の渡邉ファンである。言うまでもなく、主人公の青年社長は、若かりし頃の渡邉美樹である。株式公開を果たす前から、ワタミ(旧フードサービス)の事業はずっと注視してきた。経営者にとって、社会から見られるイメージは大切である。いまメディアで露出されている渡邉会長は、教育ビジネスや介護事業を中心に置いた「社会起業家」に転身しつつあるフードビジネスの経営者である。
本書は、大きく2つの部分から構成されている。前半(第1~3章)は、組織のあり方に対する渡邉会長の考え方を述べたものである。自らが会長に退いた後でも、ワタミの企業組織が100年後も自立して運営できるために必要なポイントが記述されている。各章のタイトルもそのことを反映している。例えば、第1章は、「100年続く「強い組織」を作るために」となっている。
前半部分の3つの章が、経営者としての「戦う組織の作り方」だとすると、後半部分は、現場レベルでの「戦う組織の作り方」について書かれている。内容、エピソードともに、納得できるところばかりであった。約80頁に及ぶ第4章は、「「戦う部下」を育てるリーダー力の磨き方」と題されている。評者がかつて組織の長として実行できなかったことがたくさん書いてある。本書を読んでいれば、いくつかの過ちは犯さなくてすんだかもしれない。
明快な発言を旨とする筆者にしてはめずらしく、明確に記述されていないことがひとつだけあった。「夢に日付がついていない!」ことである。グループの第2の事業の柱についてである。ひとつめは、「農業分野」と明記されていた。日付がついていないもうひとつは、介護の延長で「病院経営」だろうか?NPOで立ち上げた「教育産業」だろうか?どちらも、人が柱になっている産業ではある。あるいは、それ以外の事業なのだろうか?
最後に、「会長からふたたび社長に舞い戻ることはない」と、あまり声高には言わないほうよいように思う。世の中には、ご自身が退いた後で事業が行き詰ったため、カムバックせざるを得ない経営者もいる。わたしの友人にも、やむにやまれず出戻った創業経営者が少なくない。その人たちには、渡邉流の爽やかでかっこいい発言は、実はあまり優しくないのではないだろうか?