「棚の法則、売場の原理(再録)」

1990年代の後半に、月桂冠からの依頼で、「棚割りの法則と売場づくりのルール」(チェーンストアエイジ誌に掲載)を同社HPに転載していた。その後、リニューアルでわたしが書いた部分が削除されていた。「あのときの記事がほしい」というリクエストがしばしば寄せられている。今回、『マーケティング入門』の第15章に、そのときの記事を再現することにした。以下の文章は、第15章からの抜粋である。


<売場づくりに関する5つの原理>
 建物の設計や契約条件が決まると、つぎは売場のレイアウトを考えることになる。基本的には、来店客が動きやすく、買い物がしやすいように、売場はデザインすべきである。最終的には、業態が異なっても、売場レイアウトには共通の法則がある。ここでは、基本的なルールを紹介する。題して、「売場づくりに関する5つの原理」である。

・第1の原理
「客動線が長くなると、売場への立寄率と購入点数が増えて、客単価がアップする」

 売場を設計する際には、なるべく客動線(買い物客が動き回る距離)が長くなるように売場をレイアウトすべきである。図表15-12は、田島・青木(198?)の調査データである。スーパーに来店した客が、平均的に歩く距離は172.9メートル。売場への立寄回数は、動線長(100m)あたり7.4回である。買上率は56%で、買上個数は1.4個、商品単価は平均219円であるから、買上金額(客単価)は2,214円になる。立寄率、買上率、買上個数をそれぞれ向上させる仕掛けはあるが、最終的に客単価をアップするには、客動線、すなわち、店内での滞在時間(15.1分)を長くすればよい。

・第2の原理
「店内に入って早い時点で商品を買うと、客動線が長くなり、買物点数が増える」

 最初に衝動買いを誘うように商品を陳列するのが、売場づくりの定石である。店の入口にディスカウント商品を大量陳列したり、そもそも青果コーナーが売場の最初に配置されているのは、消費者にできるだけ早い時期に「買物に来た」という心の準備をさせることが目的である。買物への構えができることで、客動線が長くなり、店内での滞留時間が延長される。結果として、買物点数が増えて、客単価がアップする。

・第3の原理
「消費者の約80%は、店に入ってから購入商品を決めている」

 日本では、店に入るまでに購入ブランドを決めているケース(計画購買)は、ほぼ2割で安定している。メーカーの立場からは、マス媒体を利用した宣伝広告活動以上に、店舗内でのプロモーション活動が消費者を獲得する上で重要であるという主張がなされてきた。「インストアプロモーション(P0Pなど)」が重視され、予算配分も「インストア・マーケティング(ISM:店頭マーケティング)」にシフトしてきた。なお、ショッピングリストを持って来店する「計画購買型」の顧客のほうが、「非計画型」の消費者よりも単価が高くなる。また、誰かと一緒に来店すると、客単価が高くなることが知られている。

・第4の原理
「消費者は売場のコーナーを丸くまわろうとする傾向がある」

 売場の各コーナーに来たとき、人間は最短の距離を取ろうとして角を丸くまわる傾向がある。なにも工夫をしないと、コーナー近くに陳列される商品は、消費者の目にまったく触れない可能性が高くなる。露出度の低下を防ぐためには、隅に注目させる仕掛けが必要である。購入頻度の高い商品をコーナーにもってくるとか、人間の自然な動きに合わせて、コーナーを突き出したり、丸くレイアウトするとかの配置上の工夫が必要である。

・第5の原理
「売場の最初の部分は見過ごされやすい」 

 客動線は曲線を描くので、売場のいちばん最初の部分はスキップされやすい。売場(部門)の両端をパワーカテゴリーで挟み込むとか、部門が始まるところに特売コーナーを設置するとか、サインを使って注目度を高めるなどして対応する。棚の両端に置かれた商品は無視されやすい。視認率・購入率ともに、端から2番目に置かれた商品のほうが、高くなる。カラーコントロールの手法を使って、両端の商品にくっきり見やすい色づかいをするなどの対処をする。

 <棚割りに関する6つの法則>
 商品の陳列に関しても、長い年月をかけて、研究者や実務家が蓄積してきた知恵が存在している。「棚割りの法則」である。実務的な知見は、棚割りを決めるコンピュータソフトウエア(例えば、「ストアマネジャー))などに利用されている。いずれにしても、実験による売上データの分析、買い物客の視線や身体の動きに着目して得られたルールである。「棚割りに関する6つの法則」を紹介する。

・第1の法則
「床から100cm前後の棚位置が売上最大になる」

 床から90~120センチの高さは、「ゴールデンライン」と呼ばれる。通常のショッピング環境では、買い物客にとってもっとも商品が目に付きやすく、手が届きやすい棚位置である。図表15-12は、宮沢(19 )による実験結果である。陳列される商品(しょうゆのブランド)の棚位置をロテーションして、買い物客が実際に手にとった商品の売上比率を計算したものである。データを見ると、下から第3段目(85㎝+)と第4段目(117㎝+)で売上が大きくなっている。その他の商品(レトルトカレー、ドレッシング、イスタントスープなど)でも、直立型の什器を使った場合は、ほぼ同様の結果が得られている。

・第2の法則
「身長の高い人ほど上段の商品を購入するが、最も身長の高い人では、最下段の売上がやや高くなる」

 主婦を身長の高さで4つのグループに分けて、棚割りの第1法則を確かめてみた結果が、図表15-13である(全体の平均値)。ゴールデンラインの法則は、ここでも当てはまっている。身長が高くなると(~160㎝)、しだいに上段の商品に注目が行くようになる。ただし、身長が160㎝を超えてくると、最下段の注目率が高まる。おそらくは、身長の高い人は、棚の商品を見下ろす感じになるからであろう。

・第3の法則
「フェースを倍にすると売上は平均で約30%増える」

 買い物客から見て、フェース(同種の商品の個数)が増えると、売上げは増加する。注目率が高まり、在庫切れで販売機会を失うこと(チャンスロス)が減るからである。1フェースから2フェースになると、販売個数は平均81%増える。さらに、3フェースになると、売上は132%になる。5フェースまでの平均は、調査対象として全商品で平均30%だった。

 以下、第4の法則から第6の法則までは、データなしに結果だけを示すことにする。読者は法則が成り立つための理由を、人間行動の側面から考えて見るとおもしろい。

・第4法則
「回転率の高い商品では、フェースの売上への効果が大きい」
・第5の法則
「棚の右側のほうが左側より約30%視認率が高い」
・第6の法則
「商品を手に取る確率は、棚の右と左でほぼ7:3の比率になる」

(5)店頭プロモーション
 店頭でのプロモーションに関しても、実務者がインストア・プロモーションを企画するときに頼りにしている実務的な知識が存在している。「インストア・プロモーションについての6つの通説」として、すべてを列挙してみる。実は、そのうちのひとつだけは、調査データからまちがった仮説であることが明らかになっている。

・通説1
「店舗内でのプロモーションによって、商品の使用量が増えることはない」
・通説2
「エンド陳列、値引き、プレミアム(景品)は、ブランドスイッチを引き起こすのに有効だが、チラシとクーポンはブランドのスイッチを誘発する効果が小さい」
・通説3
「デモ販(実演販売)は、そのときだけの試用者を増大させるだけで、リピート購入にはほとんどつながらない」
・通説4
「気温の影響はほぼ季節商品だけに限られる」
・通説5
「既存品に比べて、新製品のほうが店内露出の影響が大きい」
・通説6
「ほとんどの商品アイテムで、価格に反応しない消費者が20~30%存在する」