連休初日の4月29日、「日本チューリップ協会」が発足した。東京有楽町の交通会館で発足の会合があった。記者会見の席上、富山県の石井隆一知事からもご挨拶をいただいた。NPO法人の資格を取得つるつもりではあるが、チューリップの花が咲いている4月中に協会を発足させようということで、任意団体でのスタートとなった。以下、就任のあいさつ原稿である。
日本チューリップ協会の発足と会長への就任については、半年前から非公式に打診があった。わたし自身は、JFMAと大学の役職以外には、農水省や経産省の委員会座長などの特別な場合を除いて、公職は引き受けないことにしている。今回は、原則を破っての会長就任である。お引き受けすることにしたのには、二つの理由がある。
ひとつは、日本チューリップ協会が、単なる生産者の団体ではないからである。生産者団体や卸市場の代表者などが発起人に名を連ねているが、チューリップ協会の中心メンバーは、チューリップファンの消費者である。押し花の会や球根を購入してくれる熱狂的なチューリップ愛好家たちである。需要が低迷している切り花の普及のために、花文化を支えてくれる消費者に対して、情報提供や文化的な側面からの啓蒙活動が必要である。
二番目は、協会設立の趣旨が、わたしどもの日本フローラルマーケティング協会と同じだからである。日本チューリップ協会も、特定の団体の利益目的ではなく、中立的な考え方からチューリップの需要を開拓するという立場に立っている。当初は、地産池消の観点から、「富山県産球根のファンクラブ」を作るという目的で設立を考えていた。
そのアイデアには中間で紆余曲折があって、話し合いが進んでいくなかで、「チューリップ文化」の普及を推進するというより大きな目標を掲げることになった。富山県の球根生産者が中心にはいるが、新潟県にも埼玉県にも声をかけて、日本全国に活動の輪を広げようとしている。場合によっては、「世界の球根生産者仲間であるオランダやニュージーランドなどにも参加を呼びかけようではないか」とチューリップ協会の会長としては考えている。
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協会発足の設立記念パーティが終わってから、富山県花卉球根生産者組合の清都和文組合長さんたち数人と、有楽町で二次会の場をもった。清都組合長さんは、「チューリップ博士」である。チューリップは花弁が6枚ある。そのうちの3枚は、実はガクが変形したものであることをはじめて知った。チューリップの球根も花も、雪の結晶と同じ形をしている。「それは、原種が育った場所(富山と同じに雪が深い場所)と関連があるのではないか?」というのが清都さんの推測である。
チューリップの球根の形は、よく見るとラウンド(丸)ではなく、緩やかな曲線をもった三角形である。「チューリップの球根は、栗の形に似ているな」と思っていたものである。チューリップは、食べられないことはないらしい。球根の外皮は、タマネギの皮と成分と似ていて、抗菌性があるのだそうだ。茎は繊維質で、とても固い。
チューリップの原産国はトルコで、中央アジアの高温乾燥地帯である。その後に、オランダに球根が持ち込まれて、育種は湿気の多い冷涼な欧州の気候の中で進んだ。西暦1600年代。オランダでは東インド会社が設立され、日本は関が原の合戦の時代。それから約400年間をかけてである。そのために、いまのチューリップは暑さに弱くなってしまった。温暖化が進んだいま、従来の産地では、チューリップが育ちにくくなっている。そのあたりのところまでは、わたしも知識としては知っていた。
その先は、清都さんからの受け売りの話である。チューリップの原種(球根)は、もともとが中央アジアの天山山脈の雪の下で冬を過ごしていたらしい。春の到来で、山から流れて落ちてくる雪解けの水で、チューリップは短期間に一斉に花開く性質を持った植物になったのだそうである。チューリップの原種が育った環境特性から考えると、暑さに弱いのは、本来のチューリップの特性ではないことになる。素人の考えではあるが、わたしは日本産チューリップの復興は、そうした育種の方向性にヒントが隠されているようにも思う。原種の血に着目、先祖がえりを狙え、である。
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日本チューリップ協会は、「花育」にも力を注ぐつもりでいる。
子供たちが最初に絵に描く花は、まちがいなくチューリップだからである。そして、幼稚園児がはじめて口ずさむ歌も、「咲いた、咲いた、チューリップの花が・・・」である。
チューリップ協会の会長に就任すると知らせたところ、友人で、小学生のお子さん(いまは小学4年生)を持つお母親さんからメールをちょうだいした。協会発足の挨拶でも紹介させていただいたエピソードである。
(友人)「チューリップは卒園する園児が植えます。一年生になったとき、入学式のあと幼稚園に行きます。卒園式の写真をもらい、担任だった先生にランドセルをみせます。そしてチューリップが咲いてます(笑)。きれいでした」。
(わたし)「たくさん、植えたのでしょうね。最低3個は・・・」
(友人)「(いいえ、)チューリップ一個だからいいんです。つまり自分なんですよ!芽がでて開花(笑)」。
お子さんは、チューリップとともに育ったわけです。チューリップの球根こそ、最高の花育の素材ではないでしょうか?