青木幸弘他(2008)『ライフコース・マーケティング』日本経済新聞社(★★★★)

まじめに研究されたしっかりした本である。編者の青木教授(学習院大)は、相変わらずコーディネーターとしてよく働いている。現代女性の人生行路(ライフコース)を、3つの選択肢、「仕事継続組」「離職組」「復帰組」の間での選択というパラダイムでまとめた研究である。時間資源、経済資源のふたつが、女性のライフコース選択のパラメータである。


メインテーマは、女性の仕事選択とも読める。時間とお金を天秤にかけて、仕事と結婚と出産を決める。現代女性は、生きにくい環境の中で生きている。実は男性もそうなのだが、女性のほうが、まじめで能力が高い分、選択肢が多くなって生き様がむずかしくなった。そんなふうに本書は読める。男の姿がかすんで見える。
 ひと昔前の女性たちは、選択肢が限られていたのである。ある意味で、自分の人生そのものについて思い悩む必要もなかった。たぶん、本書が提起した問題設定の背景には、日本の社会が生み出した「豊かさ」状況がある。ほんとうは、豊かではない社会。というのは、働く女性には時間がない。余裕がない。基本的に時間貧乏になる。自分の母親もそうだった。しかし、成果報酬はあった。そう、楽しい老後。
 わが母のような存在は、例外だったのだろうか?と考えてみた。秋田の農家の出で、商家に嫁いだ「仕事継続組」である。女中さんたちが、わたしたちこどもの面倒を見てくれた。なにも、サラリーマン家庭だけが日本女性が生きてきた場所ではない。
 本書に対する唯一の不満は、農家と商家と町工場で働いてきた女性たちの姿が、描ききれていない点である。いまでもそうした女性のコース選択はありうる。初期の女性ベンチャー経営者を見て欲しい気がする。