「家族割」はペイするのか?

『月刊BIGtomorrow』から、「小川先生に、弊誌の取材協力を賜りたく、ご連絡申し上げました」とのメールが入っていた。特集テーマの取材は、「世間のトリック・ウソを見抜く技術」となっていた。ライターのS氏によると、2002年に一度、インタビューを受けたらしい。


『値段のひみつ』を出したばかりのころだったのだろう。上海から帰ってから、忘れていたころになって、秘書の野田経由で再度連絡があった。「5月27日までインタビューを」となっている。わたしには、もはや時間的な余裕がない。
 申し訳ないが、この手の雑誌取材はあとに残るものがなにも無い。なので、本音では断りたいのだが、人がいいのでいつも対応してしまう。今回は、断る理由ができてほっとしている。質問内容は、しかしながら、なかなか興味深かった。

 ◎取材予定内容
 以下のような「商売のトリック」に関するご質問を事前に送らせていただきます。そ ちらについて、ご回答いただければ幸いです。
  例: ・値引きとキャッシュバック、店から見るとどちらがオトクなのか。
     ・「家族間通話無料」、採算はとれるのか
     ・スーパーの特売とはどのような仕組みなのか

 わたしが反応したのは、二番目の例であった。「家族間通話無料は採算が取れるのか?」についてである。皆さん、どのように考えますか?

 昨年、公正取引委員会と携帯電話のウエブアンケート調査を実施した。その中に、携帯電話事業者別に「ネットワーク効果」を調べた項目があった。ドコモ、AU、ソフトバンクの別に、「友人や家族が使っている携帯は、自分のと同じキャリアのですか?」という質問である。このデータが、質問に対する回答を与えてくれる。

(1)携帯電話のシェア
 ご存知のように、携帯3社のシェアは、ドコモ53%、KDDI30%、ソフトバンク17%である。ドコモとKDDIに一時の勢いは無く、ソフトバンクが「ホワイトプラン」(家族・友人割引き)で躍進している。孫さんは賢い人である。なぜか?「家族割引」(ホワイトプラン)を導入した理屈は、きちんとデータに基づいているからである。

(2)ドコモの友人はドコモ
 「携帯友達シェア」のデータである。3社の中でもっとも携帯仲間が少ないのが、ソフトバンクである。わたしもソフトバンクなので、相変わらず「つながりにくいですよね、ソフトバンク」と馬鹿にされる。そういわれながら、ボーダフォン以来の神話がとてもしゃくである。
 それにしても、ドコモ使用者の(第一の)友人は、もちろんドコモを携帯している。79%がドコモである。第二の友人はKDDIで16%、ソフトバンクは4%しかない。
KDDI使用者では、友人のKDDI携帯シェアは47%である。ドコモ(48%)ほどではないが、低いシェア(30)%の割には検討している。ソフトバンクは悲惨で、友達比率はわずかの4%である。いや、それしかない。
 最後に、ソフトバンクでは、友達の18%しかソフトバンクを使っていない。たしかに、実感でもそうだとわかる。JFMAのメンバーには、ホワイトプランと海外通話を理由に、皆にソフトバンク(旧ボーダフォン)を使わせている。会長権限の濫用である。
 このデータから読み取れることは、友人が少ないソフトバンクは、積極的にオフェンス(攻撃)に出るべきだということである。「ホワイトプラン」は、同じ携帯ならば9時まで通話無料のサービスである。友人が少ないということは、乗換え(道連れ)を促進する誘引が一番大きいのである。逆に、ドコモは、ディフェンス(防御)に回らないといけないので、苦しい環境におかれている。

(3)家族愛はほぼ平等か?
 それでは、「家族割り」(24時間無料)が提供できる根拠は何なのか?
 同じ調査データにその回答がある。低シェアブランドのソフトバンクに最適な攻撃の武器が、「家族割り」なのである。
 同じように、ソフトバンク使用者の家族は、どの程度ソフトバンクを使っているのか?答えは、61%である。ドコモに浮気しているのが22%、KDDIが16%である。案外に、家族割引の効果は大きかったのである。
 ドコモ使用者は、家族は88%がドコモで、9%がKDDI、3%がソフトバンクである。KDDI使用者では、家族の75%がKDDI,19%がドコモ、ソフトバンクはわずか2%である。
 ここでも、ソフトバンクに、家族割が利益を生む可能性は大きい。

(4)低シェアブランドの逆外部効果
 論理的に考えると、低シェアのソフトバンクは、厳しい戦いを強いられそう出る。しかし、孫さんの戦略があたって、「ナンバー・ポータビリティ戦争」では。いまや絶好調で勝ち馬に乗っている。
 家族割引やホワイトプランがペイするのは、低シェアブランドだけである。高シェアブランドは、「無料通話作戦」に対して防戦に回るしかない。わたしも普段から感じているが、ソフトバンク使用者は仲間が少ない。なるべくソフトバンク仲間を増やしたいが、現実にはその他のキャリアの仕事仲間や友人が多い。ついつい固定電話にかけてしまったりもする。
 これがソフトバンク側には貴重な収益源になる。ホワイトプランで「囲い込み」をやりながら、同時に、主たる収益はソフトバンクから他社携帯への通話から得ているという構造になる。シェアがあまり高くならないようにしないと。スイッチを促しながら、実態は矛盾しているのである。KDDIのように、シェアが30%を越えると、抜本的な戦略転換が必要になるのかもしれない。