学部長日誌(3): 入試志願者数で法政大学大躍進

 法政大学は、この少子化の時代に、受験者数を昨年度比約7千人伸ばした。2002年度の出願者総数8万6千人が、2003年度は9万3千人に増える見込みである。


新学部のキャリアデザイン学部が受験者数で約4千人、経営学部の新学科受験者が5千人、同じく、経営学部がセンター入試を導入して受験者数が5千人増えている。その理由を実際に仕掛けた本人が解説する。
 法政大学は、キャリアデザイン学部と経営学部(既設の経営学科も受験者数が増加、志願者約7千6百人)で、合計1万4千人受験者を増やした。受験料収入(一人当たり3万5千円)は、総額で約3億円の増収となった(経済学部が志願者を減らしたので、純効果はその約半分)。大学全体としては 受験者総数で約9万3千人となり、早稲田大学続いて、日本では2番目に志願者数が多い大学に躍進するはずである。日大、明治、立命館を一挙に抜き去ることになりそうだが、それがなぜできたのか?
 その答えは、現象的には単純である。経営学部が志願者を増やしたからで、新しい学科を作ることを機会に、一日だけだった受験日を新学科のためにもう一日増やしただけのことである。それに加えて、経営学部の新学科に所属する教員に対して、首都圏の予備校(延べ30校)に行って、新しい学科の説明と入学プロモーションをお願いしたことである。
 日頃は怠惰でエバっているとしか見えない大学教授が、自ら汗をかいて予備校を回る営業活動を実施した。当初は不人気が予想された新学科に、ほんとうに学生が集まるかどうかに対して「危機感」を持っていた入試事務部職員が、われわれの直接行動によって勇気づけられるという効果があった。新学科のスタートに向けて、組織丸ごと臨戦態勢にしてしまったのである。その結果が、今回の志願者増加になったわけである。
 入試日を2日間にすることに対して、学部教員には大いに抵抗があった。出題数は倍増、採点出校日も倍増する。実入りがそれほど増えるわけではない。にもかかわらず、経営学部長として、わたしが複数受験日を決断したのには、ふたつの理由があった。
 まず第一には、受験生の立場を考えてのことである。新しいふたつの学科(経営戦略略と市場経営学科)が誕生しても、そのままでは受験生には受験機会が一回しか与えられない。3学科のうちどの学科(既設の経営学科を含む)を選ぶべきかについて頭を悩ますことになる。ところが、新学科のために受験日を新たに2月8日に設定してあげれば、受験生は2月11日(既設の経営学科)と併願ができることになる。おいしいことには、大学の側としては、受験料収入が倍増する。たまたま11日に他大学と受験日が重なっている場合は、8日であれば受験生は法政大学を受験するチャンスが生まれる。いずれにしても、併願の効果はかなりに大きくなりそうなことが予想された。
 2番目は教授会対策である。3学科で一回のみの受験となると、「単願」(第一希望学科のみでの出願)とするのか、それとも「複願」(第1希望から第3希望までを回答してもらう)とするのかで大論争になる。実際に、新学科を設置することが決まった時点で、教授会が大もめにもめてしまった。不毛な議論を避けて学部内を融和させるには、受験日を2日間に設定し、新学科(2月8日)については単願とするほうがすっきりする。
 学部教員が(時間)コストを負担して、大学のために働くことを学部長としての決断し、論理的に教員を説得した。その結果が、危機感の共有と職員の協力に結びついた。これが逆に、希望学科の順番を問うような仕組みにしていれば、どの学科の人気が一番になるのか?といった「学科間競争」を誘発することになる。わたしとしては、敵は内にではなく、「外にあること」を気づかせたかった。あとは、粛々と計画を実行に移すことであった。
 数字を見てわかるように、経営学部が複数入試日を実施していなければ、本年の法政大学の躍進はなかったことになる。教員が汗を流して犠牲を払うことを決断しなければ、職員からの協力も得られなかった。
 しかし、教授会メンバーの説得は簡単ではなかった。決定当初は、新しく試験問題作成にかり出された仲間の教授からも、大いに不満を申し立てられた。それでも、一晩だけ考えて、学部長一人で失敗のリスクを引き受けることにした成果はあった。前学部長の豊田教授には、教授会で動議を出すことを前日に了承してもらい、必ず成功すると信じて無言の圧力に耐えた。
 結果は大成功となった。新学科への志願者(2月8日)が予想を遙かに上回ったことは言うまでもないが(約3千人の予想が実績は5千人超)、既設の経営学科でも志願者(2月11日)までもが予想に反して増えることになった(約7千6百人)。これにセンター入試の出願者(約5千人)を加えると、経営学部だけで対前年度比+130%の出願者増になった。いまでこそ、ほくほく顔の経営学部教員と法人サイドの常務理事たちではある。受験生の便宜を考え、組織内部の矛盾を創造的に乗り越えた結果が大躍進につながったのである。