東京都で採れた野菜を東京都民に(続編:実証実験のスタート)

 5月9日より、東京都の「とれたて東京やさい産直プロジェクト」の実証実験がスタートする。新聞報道などで既報の通り、電子的なプラットフォームを利用して、東京都の野菜生産者(八王子市1団体8名)と青果小売店(5社)を直接的に結びつける販売実験である。


地産地消の理念を、東京という日本最大の消費地で実現しようという試みである。うまくいけば、来年末までには、都内の優良農家が出荷した新鮮な野菜を、都内の専門小売店や量販店の野菜売り場で、都民がいつでも自由に購入できる販売システムが完成する。
 東京都の野菜プロジェクトは、昨年来、筆者が座長となって推進してきた「Eアグリマーケット研究会」(東京都産業労働局)が起点になっている。生活者にとって一番おいしい野菜は、その土地で朝取りされたばかりのキュウリやナスやトマトである。「野菜や果物は収穫したてがいちばんおいしい」という単純な真理が、経済原則(価格要因)と流通の都合(低コスト、大量輸送)でこれまでは実現できなかった。価格と費用のハンディを乗り越えて、時間(収穫後なるべく早く)と空間(なるべく近くで採れたものを)の便宜性によって現実を反転させる実験に荷担することができることを筆者はこの上もない喜びと感じている。電子的な手段は、そのためにこそ活用すべきである。輸送・包装手段として、リサイクル容器(折りたたみ式コンテナ)を実験的に利用することも決まっている。
20世紀が生んだ野菜や穀物の取引システムは、環境負荷や取引の外部性を無視した市場経済一辺倒のマーケティング実践の結果である。とくに、農産品の生産販売システムは、動植物を含んだ地球・生態系の安定と、人類の健康と安全を無視したものである。そのため、前世紀においては、食物を不必要に遠くへ運んでしまう「輸送園芸」が優勢になってしまった。この仕組みは、長期的には人間を幸せにしない。30年前、学生運動が華やかなりし頃、急進派の学生たちは「都市と農村の連携」を主張した。しかし、理想理念は別にして、経済行為として都市農民と都市生活者を結びつけるという発想は持ち得なかった。それは、食物の生産地と消費地が遠く離れていることが前提だったからである。
東京都には、立川のウド、江戸川のコマツナなど、京野菜に匹敵する特産品の野菜が存在する。新橋や赤坂の料亭で使われている野菜は、築地青果市場で相対取引されている北区や荒川区の野菜である。新鮮でおいしいからこそ、料亭主たちは高くても購入するのである。築地の青果組合では、インドネシアや台湾の高地で栽培されている植物(中華料理用のニッコウキスゲの一種など)を、雲取山の麓(東京都奥多摩町)で作ることを検討している。高い航空運賃をかけて運ぶくらいなら、東京郊外で完成品を栽培する代案があることに泉組合長さんが気づいたからである。アジア産の野菜を輸入するのではなく、種子を持ち込んで都内の農家が生産した野菜を、都民が即日に食する台所風景を思い浮かべることは、なんて素敵なことではないだろうか。