マーケティング論: 最終講義(概略)

去る1月14日(水)、法政大学市ヶ谷校舎835番教室で行われた「マーケティング論」の講義内容を紹介します。配布された講義レジュメは、すでに「リサーチ&リポート」に公開してあります。



 最終講義のタイトルは、「日本とマーケティングの未来」でした。2004年1月時点で、およそ10年先の日本の姿を予見してみました。これまで5年ごとに行ってきた大予測(85年、90年、95年)の通信簿をつけることから授業を始めました。

1 1985年以来、5年ごとの大予測
 ・当時の予測で当たったことは、
 (1)ベルリンの壁の崩壊(85年)
 (2)ダイエーの経営危機(85年)
 (3)マクドナルドの経営不振(95年)
 (4)ユニクロの成長と復活(95年)
 ・外れ続けていることなど
 (1)中国大分裂・3分割論(90年、95年)
 (2)東京・東海大地震(85年、95年)
 (3)南北朝鮮の統一(90年、95年)

 コメント: 外れ続けてはいますが、(2)と(3)はいずれ起こることが確実です。もしかすると、(1)は別の形(共産主義国家の終焉~中国連邦共和国の成立)で起こるかもしれませんです。

2 2005年の大予測
 1年ほど前倒しになりますが、この先の10年間について、以下のことを予言しておきたいと思います。商品とサービスの消費を中心に、身の回りの世界についての変化を予見します。大胆すぎる予測なので、ほとんど外れるかもしれません。

(1)米国型マーケティングの終焉
 米国を代表する3つの企業が、10年以内に深刻な経営危機を迎えます。その根拠は、米国型のマスマーケティングが歴史的な役割を終えるからです。メガブランドとはいえど、実は永遠ではありません。マック、コーク、ディズニー、現代を代表する3つの米国ブランドがまちがいなく倒れます。その根拠は、以下の4つです。
 ・米国経済の地位低下:
   中国とインドが台頭してきたら、世界の重心はアジアに移ります。
   米国の時代が終わるとともに、栄光の頂点にいた米国のブランドは消えます。
 ・米国型の浪費経済文化への反省。
   京都議定書を未だ批准できない米国は、いずれ世界からつまはじきにされます。
   資源が有限であることがわかれば、浪費の象徴であるマックは世界から消えます。
 ・先進国における少子老齢化
   やっぱり年をとったら、マック、コーク、ディズニーではないよね。

(2)日本では消費の中心モードが”和”に向かいます
 おそらく数年以内に、日本発のデザイナーとアーティストが、世界の芸術界(デザイン、音楽、工芸分野)において大活躍をする時期が訪れます。その背後にある基本的な動因は、経済と文化のブロック化現象です(南北米大陸、欧州+アフリカ、東アジア)。同時に、近々、新しい言語圏(漢字文化圏)が登場するからです。中国がその中心に位置する可能性が高いと思います。
 日本は、そのとき、自らのアイデンティティを気候と風土にあったオリジナルな文化(衣食住)に求めるはずです。和のテースト(明治・大正、江戸時代に回帰)は、すくなくとも国内では当然のことになります。安全で健康な食生活を軸に、エスニックな東アジア文化がこれと融合するかもしれません。

(3)アジア漢字文化圏の成立と英語文化圏の歴史的敗北
 日本、中国、韓国は「アジア漢字文化経済圏」を編成するようになります。そのとき、韓国は母国語を表現する手段としてハングルを捨て、漢字言語圏に再編入されます。韓国人の「短気」はよく知られた事実です(その形質は若干ですが、わたしにも遺伝的に残されているようです)。
 なお、米国では、ある時期からスペイン語が準公用語になり、20年後にはラテン文化圏に組み入れられます。ゲルマン言語圏が米国大陸で敗北を喫するわけです。英語圏は、欧州大陸に押しとどめられます。インディアンをいじめた原罪のツケを、500年後にピルグリムファーザーの末裔たちがようやく精算するわけです。

(4)アジアからは国境が消える
 10年以内に「東アジアFTA(自由貿易圏)」が形成されます。その結果、日中韓は産業的にはEUのような共通の土台をもった経済圏を構成するようになります。東アジアからは経済的な意味での国境が消滅し、日本の中心は北九州(福岡)に移動します。そして、日本はアジアの観光立国になります。もはや日本や知識と文化以外に売るものなくなるので、文芸・文化観光立国にならざるをえなくなるでしょう。
 なお、個人的な願望ですが、韓国人、中国人、日本人が連合して創る企業組織が登場することを願っています。もちろん、欧米人の参加も大歓迎です。創造的な仕事に「国」という概念がなくなるかもしれません。そのときの世界共通語は、英語のままかどうかは未定です。多分そうはならないでしょう。常識はいつも覆されるものです。
 というのは、使い勝手が良い「自動翻訳機」が完成しているので、英語の強みは失われるからです。もっとも、スペイン語と中国語が優勢になるかもしれませんね。

(5)第4次産業としての農業の復権 
 製造直販の波が農業分野に押し寄せてきます。すべての農作物のうち、穀類と根菜類を除いて、野菜の多くは日本ではいまから5年間くらいは輸入超過の時代を経験します。しかし、最終的(10年先)には、国内の農業改革(土地利用制度の変革と株式会社の農業分野参入)が実現した暁には、その段階で野菜の多くは国内生産に回帰します。生産直販が当たり前になりますから、農業は第4次産業(生産+流通サービス業)として復権します。

(6)日本の大企業の多くは生き残ってはいないでしょう
 トヨタ、ソニーをはじめとして、日本と世界を代表する20世紀型大企業は10年以内には苦境に陥るでしょう。それは、製品革新や組織進化の問題というよりは、世界のビジネスを支える組織形態が変わるからです。自立型の組織が連携する「知的連合体」がその中心イメージです。その意味では、米国最大の流通業である「ウォルマート」の流通支配も終わりを迎えそうです。