季節の変わり目ごとに、欧州総局長としてロンドンに赴任している日経の日下淳くんからメールをいただく。前回も夏の真っ最中、8月にいただいたメールを本HPにアップさせていただいた。1月22日からのツアーで、欧州4カ国(フランス、英国、オランダ、ドイツ)を訪問するのだが、事前情報をいただいたことになる。東京も限りなくロンドンに近づいていくのかもしれない。
明けましておめでとうございます
ご無沙汰しています。経済危機で暗い話が目立つ昨今ですが、いかがお過ごしでしょうか。私は予期せぬニュースにドタバタしたりしながら、「こんな時こそ心持ちは明るく」と、元気にやっています。
ロンドンに来て2年近くになりますが、秋の金融危機以降、さすがに街の様子も変わってきました。中心街には相変わらず観光客が溢れ、クリスマス・年末セールは賑わっています。しかし、住宅地では家の「Sale」の看板が急増、街角では物乞いを見かけるようになりました。
私の仕事にも、金融危機の影響があれこれ及んでいます。ニュースに適切に対応することはもちろん、欧州の雰囲気や今後の展望をいかにうまく読者に伝えるか、現場の記者と相談しながら日々模索しています。こうした報道現場の指揮に加え、経費削減やリストラの要求も日に日に強まり、ヒーコラ言いながら対応しています。何十年に1度の経済転換ですから手探りが続くでしょうが、個人的には歴史の転換期を大いに体感したいと思っています。
以下、近況や欧州の様子のご報告です。
1.ロンドン散策
週末はゴルフへの興味も示さず、第1にロンドン散策、第2に公園での自然と触れ合いを楽しんでいます。夏にはテムズ川沿いなどのWalking(1日20キロ程度)を重ね、美術館・博物館の訪問は数十カ所を数えました。
ロンドンを訪れた親族、友人などは約10人。「大英博物館やバッキンガム宮殿以外のお勧めは」という問には、(1)コベントガーデン(マーケットと大道芸術家)(2)テートモダン(美術館そのものの面白さやテムズ川沿いの散策も含め)(3)切り裂きジャックツアー(19世紀ロンドンの歴史を味わえる)、あたりを答えています。
2.トルコからの携帯
海外旅行ではトルコ、フィレンツェ、ミラノなどを訪れました。夏休みに旅行したトルコは、寝台列車(アンカラ・エクスプレス)で移動中にグルジア紛争勃発の報を受け、カッパドキアの洞窟ホテルやボスポラス海峡のクリージング船上から携帯電話で東京やモスクワ、ロンドンに連絡しまくりました。「世界中・24時間連絡体制」の時代になったことを、改めて実感した次第です。
3.英国の大学
妻は9月からUCL(ロンドン大学)の大学院で環境の勉強を開始。毎日膨大な宿題と格闘しています。大変ですが、日本では想像もしなかった視点など得るものは多く、私も大いに刺激を受けています。
教官はアフリカでプロジェクトを推進する人、英国の庭と環境を研究している人など多彩。同級生も年齢・国籍様々です。
妻の話(および補足取材)通じて感じるのは、英国の大学は世界中の人材を集めて国際競争力を高めるべく、大変な工夫と努力をしていること。それから日本人は大学生、社会人を含め、勉強が足りない(できない)のではないかという懸念です。
4.メディア業界話
業界話で恐縮ですが、日本と対比して(一部)英国メディアの違いを強く感じるのは世界を相手に報道していることです。グローバル化時代の標準語を持つ特権によるのでしょうが、世界中の読者や視聴者が記事・番組を見て、反響を返してくることを前提に情報発信しています。グルジア紛争時には、BBCの番組にロシアのイワノフ第一副首相が生出演。キャスターの鋭い質問に、物凄く流暢というわけではない英語で反論し真剣勝負を演じていました。立場が違うと言えばそれまでですが、業界人として考えるところがあります。また、そういう場に登場し発言できる人材が少ない日本についても、色々考えてしまいます。
業界話をもう1つ。デジタル革命と不況でメディア業界は世界中どこでも大変です。取材でBBCや英新聞者を訪れましたが、リストラの動きや技術変化の速さを改めてつうかんしました。明日は我が身なのでしょうが、変化に向き合う覚悟と冷静さだけは忘れないようにしたいものです。
5.社会情勢
雇用問題の深刻化は英国も日本と同じですが、現時点では日本ほど切実感はない気がします。先日、破綻したウールワース(老舗百貨店)の閉店セールに行ってきましたが、店員の表情・態度が意外に明るいのが印象的でした。最初から終身雇用を期待していないことや労働流動性の高さなどが背景にあるのでしょうが、人生や社会観そのものの違いもあるのかも知れません。街の様子も冒頭書いたように、変わって来たとはいえまだ健全です。
とはいえ、部下からの報告によると、モスクワなどでは治安悪化が目立ち始めています。経済悪化が社会にどう影響してくるか、眼を凝らしています。
年賀状らしくない硬い話も書いてしまいましたが、ご容赦を。
2009年が小川先生とご家族にとって良い年になるよう、お祈りします。
本年もよろしくお願いいたします。
2009年元旦
日下 淳 (Kiyoshi Kusaka)
日本経済新聞社・欧州編集総局