日本マクドナルドが今期は380億円の最終赤字に: 小川のコメントが本日(4月17日)、朝日新聞、読売新聞、産経新聞に同時に掲載されます。

 日本マクドナルドの今期(2015年12月期)の最終損益の見通しが発表された。赤字は380億円。2期連続で過去最大の赤字幅となる。事態を想定した各全国紙から今週は、マクドナルドの事業不振について解説を求められていた。そのコメントが本日発売の3紙に出ているはずである。



 なお、本日は午前中(11時ごろ)に、NHKの報道番組(土曜日放送)のクルーが大学の研究室@市ヶ谷まで取材に訪れることになっている。取材の目的は、マクドナルドの現在の不振について。
 録画でその原因を解説することになっている。以下は、その骨子を事前にまとめたものである。この要約版を、NHKのインタビューでは話すことになるだろう。

 昨日の記者会見(約一時間)では、店舗の閉鎖(131店舗)と賃金カット(役員、社員)が発表された。しかし、業績を回復させるための抜本的な方策については、店舗の改装を急ぐこと以外に、これといった施策は打ち出せていない。2016年度12月期には黒字転換を目指すとされているが、おそらく現経営陣ではその実現は困難と思われる。
 日本マクドナルドが犯した短期的なマネジメントの失策については、拙著『マクドナルド 失敗の本質』に詳しく述べられている。簡単に言えば、①短期志向の経営(とくにマーケティングのミステイクス)、②サービスのトライアングルの崩壊(トップの戦略ミス、社員のモチベーション低下、ロイヤル顧客の離反)、③イノベーションの不足(とりわけ日本ベースの商品開発面で遅滞)の3つである。
 
 この3つ(①~③)は、早期に解決すべき戦略対応を、約10年間、先送りにしてきた結果である。日本マクドナルド創業者の藤田田氏の時代(15年前)にすでに潜在的に同社が抱えていた課題は、以下の5点だった(「勝ち組マクドナルドの死角」『チェーンストアエイジ』2001年12月号に掲載)。すなわち、深刻な5つの経営課題とは、
 (1)「為替レートの反転」
 (2)「高齢化社会の到来」
 (3)「食文化の和風回帰」
 (4)「後継経営者の不在」
 (5)「安価で良質な労働力の確保」
であった。
 そのひとつひとつにコメントを加えてみる。

(1)為替レートの反転
 当時(2000年前後)は1ドル=80円だった。いまは(2015年4月)は1ドル=120円である。食材(牛肉やポテト)をドル建てでグローバル調達している日本マクドナルドは、円安に対して脆弱な事業構造になっている。いつまでも円高が続くと想定すべきではなかった。そのこと(グローバル調達重視)が、いま望まれている国産食材の調達に舵を切れないできない原因にもなっている。

(2)「高齢化社会の到来」
 この時点で、コンビニのように、シニア対応の準備をしておくべきだった。小分け(スモールサイズ)やヘルシーな食材(野菜たっぷり)を導入する時代が到来することは想定できていた。ところが、原田時代(2004年~2013年)のマクドナルドは、真逆の方向に走ってしまった。飽食の国(アメリカ)で成功した商品(ビッグアメリカ・シリーズやクォーターパウンダーなど)は、シニアだらけの日本には不要だった。

(3)「食文化の和風回帰」
  競合のモスバーガーや米国のチポトレ(メキシカン料理の競合で元マクロナルド傘下)は、地場で採れた野菜を食材として豊富に利用している。日本人向けには、オリジナルの商材(牛肉、ポテト、バンズ)以外に、和風(ヘルシーであっさりめ、米や近海魚を使用)に商品開発の方向を転換すべきだった。世界中のマクドナルドでは、その国の食文化に合わせて食材をローカライズしている。日本だけが米国回帰することには無理があった。

(4)「後継経営者の不在」
 日本マクドナルドに、優秀な後継経営者がいなかったわけではない。藤田さんの薫陶を受けた元社員は現在、他のファーストフードでトップになっている。しかも、成功している経営者が少なくない。バーガーキングもフレッシュネスバーガも、現社長はマクドナルドの元社員である。とんかつのサボテンも、マクドナルドの出身者である。マクドナルドは、実は人材輩出企業だったのである。

(5)「安価で良質な労働力の確保」
 いまや若者は誰も、マクドナルドで働きたいと思わなくなっている。そして、クルーの平均年齢が上昇している。業績が低迷している原因でもあり、その結果でもあるのだが、働く場所としてのマクドナルドの位置が低下しているからである。若者がクルーになりたいとは思わなくなる時代が来ることを察知して、スタバや東京ディズニーリゾートのような採用方法を考えるべきだった。

 以上、日本マクドナルドには、ビジネスモデルを刷新するための準備期間(執行猶予期間)が10年以上もあったのに、当時もその後の経営陣も、ほとんど何の抜本的な解決策を講じようとしなかった。現在の業績不振のほぼすべては、マネジメントの不如意に尽きる。長期的な視点の欠落に、同社の事業低落の原因を求めることができるだろう。

 <補足>
 ただし、直近の20年間は、マクドナルドにとってアンラッキーな面もあった。
 第一に、世界的に見ても、日本の外食産業はもっとも厳しい競争環境にさらされている。消費者の舌と目が肥えており、その結果として、提供されている商品とサービスの水準が非常に高い。
 多様な業態(すし、うどん、カレー、牛丼、てんぷら、かつ重、イタリアン、ラーメン、中華、居酒屋、焼肉、和食など)にそれぞれ、CSのレベルが高い優秀なチェーンが最低数社は存在している。手ごわい競合がひしめきあっているのである。そして、マクドナルドには、世界で最もイノベーティブなチェーンである「コンビニエンスストア」という天敵が存在している。
 もっとも不幸の種は、マクドナルド自らが蒔いたものである。40年ほど前、近代的な外食産業経営やチェーンストアの原型を日本にもたらしたのが、他ならぬマクドナルド自身だった。しかし、いまや学習過程を終えた日本のフードチェーンが、マーケティングにおいてもオペレーションにおいても、マクドナルドを凌駕している。

 第二に、2002年以降は、日本マクドナルドは「米国資本」の企業になってしまったことである。大事な意思決定する際に、米国本社(49.9%を保有する株主)にお伺いを立てなければならい。直近では、カナダ人の経営者が日本のビジネスを担当しているが、何らかの形で米国の関与は避けられない。
 これは、迅速な意思決定のためにも、商品やサービス経営のローカライズにはマイナス要因になる。食分野のように地域性が高い事業は、現地の経営陣がローカルな条件を考慮しながら決定すべきである。現状は、企業統治の観点からもそれができない。
 いっそのこと、ふたたび(藤田時代に戻って)、日本のビジネス運営に関与してくれる国内の提携先を考えてみてはどうだろうか?候補が無いわけではないだろう。