オランダ便り: 環境保全型農業にとって大規模化と市場化は良いことなのか?

オランダの有機栽培農業と環境保全型花き栽培(MPS)の調査から、昨日(9日)に帰国した。約3年ぶりの欧州調査取材だった。久しぶりで親しいオランダ人と再会できて、楽しかった。



 日本に留学したこともある若き友人のユルンくん(アルスメール花市場勤務)は、出世の階段を昇っていくとともに、オランダ式のワークシェアリング(夫妻ともに週3~4日勤務で子供を一緒に育てる)をやめざるを得なくなっていた。
 3年前は、奥さんのために、金曜日には子供の面倒を見ていた。その子が小学生になったからなのか? オランダといえど、管理職ともなれば週6日は働くことになる。この話題がテーマになると、彼の表情はやや寂しげであった。
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 オランダと日本とは7時間の時間差がある。帰国二日目にして、ひどい時差ぼけに悩まされている。さきほど10時に眠りについたはずが、いましがた夜中の2時に目がさめてしまった。明日からは、学部生たちと軽井沢合宿である。夜遅くまで「飲み会」があるので、先の体力が思いやられる(学生さんたち、早く眠らせてくださいね)。奥田英朗「空中ブランコ」文藝春秋、を読んでも眠れないので、短い「DAY WATCH」を書くことにした。有機農業の大規模化と市場化の是非についてである。
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 実質4日間滞在したオランダでは、急ぎ足で農家巡りをした。有機栽培では大小3軒の農家を訪問すると同時に、政策担当者2人と面談する機会を得た。MPSについては、対照的な大中2軒の農場を見学させてもらった。最高責任者のテオ・デグルート氏には、二日間まるまる現場でのインタビューに同行していただいた。大感謝である。花のこと(MPS関連)は、別の機会に譲ることにする。ここでは、有機農業に話の的を絞る。
 調査していて興味深かったのは、有機栽培農家が規模拡大しながら、「市場化」を目指してきた動きが、いまや農家レベルでは壁に突き当たっていることである。ここで言う「市場化」とは、スーパーマーケットでの販売を見込んで、有機栽培野菜や有機家畜を大量生産・出荷することである。欧州でも、とくにオランダでは、従来の有機農産物の販売チャネルは、自然食品店などの専門店であった。だから、少ない需要を支えられる農家も規模が小さくよかったのである。
 オランダでは、1990年が有機元年に当たる。第3干拓地(レイスタッド地方)で、300ヘクタール規模の有機栽培農地が、地方政府によって確保されたからである。その後の12年間で、栽培面積は干拓地だけでも10倍に増えた。有機農業の思想に共鳴しただけではない。経済的に成功する有機農家が現れたからである。
 1995年にEU政府が有機農業を奨励し始めるや、オランダでも有機栽培事業にさらに新規参入する農家が増えた。97年以降に、食に関するさまざまなスキャンダルが起こり、一般のひとにも有機食品を購入する世帯が増えた。現在は、オランダでも約1.7%が有機食品である。しかし、当面の成長はそこまでであった。この2年間は停滞が続いている。国内市場の供給過剰と需要不足である。
 オランダ(EU)としては、慣行栽培から有機栽培へのの転作に対して、多額の補助金を給付して転換を誘導した。とはいえ、政策的に市場を急拡大させたので、いったん消費者に行き渡ってしまった有機栽培農産物は、2年間で価格が約半分に下落してしまった。困難に遭遇しているのは、栽培面積が40~60ヘクタールの中規模農家である。「アルバートハイン」などのスーパーとの取引は、供給のタイミングと価格面できびしいものがある。
 慣行栽培(2~3品種)に比べれば、同じ面積で栽培品種数は倍以上(6~7品種)ではあるが、リスクをとることになるのは有機栽培でも同じである。市場の動向を見て作付けし、商品供給のタイミングを見なければならない。有機農産物であっても、リスクヘッジと自己防衛のために、産地加工を目指してグループ化するす農家があるほどである(冷凍加工品分野での成功例もある)。
 経営規模を拡大すると、市場価格を見ることになり、販売のロスが許されない。むしろ、4ヘクタール程度の多品種少量生産で、従来からの専門店チャネルで販売している小規模有機農家のほうが、差別化された商品が提供できる。そうした農家は、意外と自信を持って自らの商品を栽培をしている。収益の絶対額は大きくないが、庭先販売などで経営は安定しているらしい。
 2007年までに、オランダは食品の約5%を有機農産物に代替させようとしている。そのため、政府農務省(EUの補助バックアップあり)は、コンサルティング会社に依頼して、有機農産物のプロモーションを積極的に行っている。その成果は徐々に広がってはいるが、ヨーロッパ経済が好調ではないこともあり。まだ十分に実は結んでいない。
 さて、将来は大小どちらの方向がよいのだろうか? 考えているところである。後戻りはできない。