出版予定(10月23日)「花を売る技術」誠文堂新光社

誠文堂新光社より、久しぶりの単著:「花を売る技術」(Developing Marketing Skills for Flower Growers)を刊行することになりました。発行日を、わたしの54歳の誕生日に、無理矢理持って行くようにお願いしました。


一昨日初校が上げって来ています。<はしがき>を今しがた書き終わったので、本書の紹介にさせていただきます

 <はしがき>
 どんな人間でもひとつやふたつは、誰にも負けない得意技を持っているものである。芸術の分野では、そうした技能のことを「巧みの技」(アーティスティック・センス)と呼んでいる。対照的に、「物事を巧みに成し遂げること」を意味する科学的な用語は、「技術」(テクニカル・スキル)と呼ばれる。両者のちがいは、目標となっている技が学習できるかどうかにある。
 芸術的なセンスは、密かに盗み取ることはできるが、基本的に学習不可能である。技能の獲得には特別な環境が必要であり、技の完成には長い時間を要する。対照的に、科学的な技能の適用では、「学び」の手続きが標準化されている。時間をかけさせすれば、そしてきちんとした教師がそこにいれば、誰がやっても同じような成果が期待できる。標準的な教育訓練の手法が準備されているので、最終品質が保証される。だから、知識の普及によって、全体的な技術水準を日々向上させることができる。
 前置きが長くなったが、「花を販売する技術」の英語の対応語は、「フローラル・マーケティング」である。偶然にも、筆者が会長を務めている協会の名称そのものである。マーケティングの技術は、基本システムが工学に由来しているので学習可能である。
 マーケティングとは、「①顧客を深く理解し、②販売方法を創意工夫する技能を開発し、③具体的に実践するプロセス」である。花の生産者の多くが重要だと考えながらも、苦手としている分野活動である。しかし、ある種の実践哲学であるから、多くの事例に接触することで、マーケティングの考え方とプロセスは比較的容易に理解することができる。
 本書は、とくに生産者が花を販売する場面で知っておくべきマーケティングの基本知識を、エッセイ風にやさしく解説したものである。取り上げている事例は、日本と世界の花業界で現在進行中の現実である。原稿の内容は、『農耕と園芸』の2000年?月号から現在まで、「JFMA通信欄」に連載したきたコラムを再編集したものである。一部分、『日本農業新聞』に短期連載された記事(2000年~2001年)を含んでいる。
 本書の各節には、世界中で成功した生産者の名前が登場する。一人の例外もなく、彼らは、花の販売技術である「マーケティング」を強く意識して仕事を組み立てている。彼らの発想の原点は、「消費者ニーズ」(第一章)にある。栽培品種・品目(商品)の選択と販売方法(コミュニケーションとプロモーション)は、「マーケティングの原理と発想」(第二章)を起点として、「消費者心理の理解」(第三章)に基づいて計画されている。マーケティング計画は、「グローバルな枠組み」(第四章)の中で実践されており、花生産のあり方は決して生業的ではない。花の事業は、「科学的にマネジメント」(第五章)されている。

 本書の完成には、JFMAの広報担当・佐藤綾子さんの力を借りることになった。約一ヶ月という短期間で編集作業を終えることができたのは、彼女の才能のおかげである。なお、「花を売る技術」という書名は、佐藤さんのアイデアによるものである。
 本書にも何人かの名前が登場しているが、出版に当たって、JFMAの理事の皆さんには心より感謝したい。「高品質で手頃の値段の花を消費者に」を基本理念に掲げ、JFMA(日本フローラルマーケティング協会)という業界横断的な組織を結成してから5年が経過した。その後、鮮度保証販売の実験やバケット流通の規格化と普及活動、IFEX(東京国際フラワー商談会)の開催など、日本の花業界をリードする活動を展開することができた。そのような協会の実践活動の中から本書が誕生したわけである。そのことを忘れてはならないと思う。

 2005年9月3日                   小川孔輔