修士論文の書き方(手引き書) V1

「修士論文作成の手引き」(要約版)  初版1997年4月                 
法政大学経営大学院 小川ゼミ
1 良い論文の3条件


(1)発見と感動があること(Emotional)
  「頭の良い人間には、思わず読みたくなる論文が書けない」
(2)先人の知恵を借りていること(?)
「論文は一夜にしてならず」
(3)起承転結がはっきりしていること(Simple)
「学術論文も、ある種の物語である」

2 論文ができるまで
(1)テーマ選び
(2)仮説づくり(おもしろさをどこに求めるのか?)
(3)リサーチの方法
(4)執筆の準備作業
(5)とりまとめ/発表準備と添削指導
(6)論文の作法

3 論文のスタイル
(1)学術論文: Academic Orientation
(2)事業計画書: Business Orientation
(3)事例研究: Case Orientation
(4)以上の混合形: スタイルにとらわれないこと

4 テーマの選び方
(1)テーマ選択のヒント
  ・論文作りはマーケティングである
    「新しい製品作り」であり「アイデア創造過程」と同じ
    「ポジショニング」「USP」の考え方が参考になる
    自分の「得意技」を早い段階で見極める
  ・柔らかく発想してみる
    「経営の視点で硬く考えない」
    「仕事の発想を離れてみる」
    「決め打ちをしない」(候補リストを作ってみる)
・誰かと話してみる(対論の勧め)
    「いつでも論文のことを考える」(集中力と環境づくり)
    「ひとりでは論文が書けないと悟るべし」
    「他人のふんどしで相撲を取るべし」(盗用の勧め)
(2)チェック項目
  ・自分がおもしろいと感じられるか?
  ・誰かに(家族・恋人)に話してみて、おもしろいと思ってもらえるか?
  ・その道のプロ(指導教授)が「それはおもしろい!」と言ってくれるか?
(3)過去の研究蓄積をみる
  ・関連の雑誌を5年分見る
    「マーケティングジャーナル」「消費者行動研究」「マーケティングサイエンス」    などの学術マーケティングジャーナル(和雑誌)、「JM」「JMR」「JCR」
    「HBR」「MS」「JAR」等の海外マーケティング専門雑誌を閲覧する
    (「ブレーン」「宣伝会議」など、マーケティング事象については参考になる)
・テーマに近い専門書(雑誌論文)を3冊読む
    本の探し方:
     先生の研究室、学会関係の先生紹介、ドクター学生の指導
(4)独自性を確認する
  ・研究の空白領域を発見する
    「当該分野」についての関心度、注目度は高いか? 将来性は?
    「競争者」は誰か? 
  ・3つの独自性
    「テーマ」がユニーク
    「方法」がユニーク
    「対象・事例」がユニーク
(5)実現可能(到達可能)なテーマか?
  与えられ時間は、一年間である

5 年間の作業計画
(1)テーマ選びとスタイル選択(2~4月)
  ・ブレーンストーミング
  ・基本文献のサーベイ(3つの論文の要約紹介)
(2)具体的な仮説理論づくり(5~7月)
  ・専門家との面談
・関連文献の渉猟(10論文以上を読む)
  ・大学院ゼミでの発表(論文のもくじ作成)
  ・論文のスタイル決定
  ・パイロット調査
(3)インタビューと本調査(8~10月)
  ・初めの部分(文献関連)の執筆開始
  ・仮説(結論)を3つ以上、書き出してみる
    「おもしろいかどうか?」の再チェック
  ・フィールド調査の設計(インタビュー、事例収集を含む)
    「作業時間配分」の確認
  ・提出論文の執筆シミューレーション
(4)論文の執筆(11~12月)
・文献調査の補足
  ・フィールド調査の集計分析
  ・執筆の相談/添削指導(2回)
(5)論文提出と発表準備
   ”Aim High!” (高いモチベーションが良い論文を作る)
  ・学術論文としての発表をめざす(多々実績あり)
  ・本を書いて有名になることをめざす(一例、実績あり)
  ・ビジネスで金儲けのネタにすることをめざす(まだないが、目指している人はいる)

6 仮説づくり
(1)理論作りに王道はない
   → たくさん読んでみる 多面的に何でもやってみる 
  ・参考になるのは、やはり、先人たちがたどってきた道である
  ・過去の知的資産の蓄積が、いちばん頼りになる
(2)理論(仮説)が形になるまでには、時間がかかる
   → 熟成の期間を耐えてじっと待つべし
    ”EUREKA”(わかった)の瞬間がいくか必ず訪れる
(3)頭の良い人間が、おもしろい理論を作れるとはかぎらない
   → ”凡人”にも、ユニークな論文が書ける
  ・学校偏差値と論文偏差値は無相関である
(4)論文作りは、一本道ではない
   → 5「年間作業計画」は、あくまでも基本線
    ほとんどは、この通りはいかない(行きつ戻りつ、ぐるぐるまわり)
  ・注意:”癇癪”をおこさないこと
(5)発想するための基本定石は存在する
・組み合わせを変えてみる
・人に聞いてみる
  ・逆さまにしてみる
  ・フローチャートを書いてみる

7 リサーチの方法
(1)デスクリサーチ:
  ・文献サーベイ
  ・「図書館」「資料室」「電子検索システム」
   (図書館を200%活用する方法?0
  ・電子検索システムの利用可能性(方法の紹介)
・雑誌、データベースの一覧表
(2)インタビュー
・取材の作法:
    依頼の方法(電話、手紙、ファックス、電子メール)
    会話の流れのコントロール(歴史から入る)
落語的会話の応用(枕、落ち)
    親密さを作る方法(個人的な事情の取り込み)
  ・禁じ手
    直接話題に入らない
    開示したくない事柄にふれない
    ビジネスと関連づけてはいけない場合(逆に良い場合)
  ・人的ネットワークの活用
    友達の友達は、またともだちになる(芋蔓式インタビュー)
(3)アンケート調査
・誰に、いつ、どんな風に
  ・収集後を考えて作成すること
・過去の院生が作った”雛形”を参考にする
(4)データ分析
  ・ソフトが以外に大事
  ・統計ソフトの貸与
  ・単純な集計でほとんどはじゅうぶん
  ・むずかしく考えないこと

8 論文のとりまとめ
(1)流れを作る
(2)論文を書くためのツール
・ワープロ
  ・/表計算ソフト(統計計算ソフト)
  ・データベース(ソフト)
  ・パソコン通信
(3)論文指導のタイミング
  ・中間(面談2回)
  ・最終チェック(添削2回)
(4)論文の形式
  ・一般的なスタイル
  ・参考文献の取り上げ方
  ・脚注の付け方
  ・図表の配置とナンバリング
  ・「はじめに」と「謝辞」で論文の出来がわかる
(5)提出とプレゼンテーション準備