エキナカ原稿『チェーンストアエイジ』2007年12月15日号・2008年1月15日号

「エキナカ店舗の立地・顧客特性:客の流れが速い、時間がない、待てない、そして、売り場は狭い」『チェーンストアエイジ』2007年12月15日号


2005年3月のエキュート大宮開業時から、継続的にエキナカ店舗を観察してきた。エキュート(大宮、品川、立川)やエチカ(表参道)である。その経験から、通常の「SC内店舗」と比較して、「エキナカ店舗」の立地と顧客特性がどのように違っているのかを整理してみた。

(1)立地特性
①立地は一等地である。店前の通行客は、通常立地に比べて圧倒的に多い。売上高だけで比較すると、エキナカの坪効率は通常立地の50%増から2倍になる。エキュート大宮が開業する直前に、JR東日本事業開発室(当時)が発表した初年度売上は、年商55億円の予想であった。試算の根拠は、大宮駅周辺の百貨店や駅ビルの坪効率であると推測できる(図表:『MJ』2007年8月31日号から抜粋)。大宮駅の改札外ではあるが、駅ビル内のルミネよりはやや高め(+30%)に、駅ビルから離れた百貨店(丸井、高島屋、そごう)と比較して+150%と予測したと考えられる。結果は、エキュート大宮の初年度実績は年商92億円だった。坪効率は、隣接する駅ビルの約2倍の400万円(/年・㎡)であった。
②通行客がそのまま顧客になるとは限らない。エキナカ店舗の潜在顧客は、鉄道の乗降客である。しかし、本来は買い物が目的の来店客ではない。店側としては「買い物をする理由」を作る努力をしなければならない。少なくとも、店舗か商品のどちらかが認知されないと売上には結びつかない。実際に、乗降客数に対する購買客数の比率を見てみると、エキュート大宮が13.2%(3万1000人/23万4000人)、エキュート品川が5.9%(1万6000人/30万9000人)、エチカ表参道が6.9%(1万人/14万5000人)である。コンビニなどの入店比率(通行客の10~20%)に比べて、通行客の入店比率(購買比率)は決して高くはない。エキナカ店舗の立地ポテンシャルは、もっと高いはずである。

(2)買い物客の意識と行動特性
①顧客は不特定多数である。エキュート大宮では、メインターゲットを20-代~30代の若い女性に定めている。たしかに、女性客の比率は高い(約60%)。テナントミックスも、食品を中心なので女性向きに構成されている。しかし、駅構内を通る人の半分以上は男性である。雑多で不特定多数の通行客を掬い取るには、逆説的だが、しっかりした「ターゲティング」が必要である。その方法としては、マイクロな(もっと細やかな)マーケティングが必要なのではないだろうか?
②列車の到着間隔で、客の流れに小さな波動ができる。例えば、立川駅の夕方の時刻表を見ると、中央線が5分間間隔、南武線が9分間隔、モノレールが10分間隔で到着する。電車を降りてからホーム(エキナカ店舗)に移動してくる乗降客には、海岸に波が寄せては返していくような小さな波動ができる。しかも、その波は間歇的である。百貨店や駅ビルでも来店客に波動はできるが、その場合は「大きなうねり」である。したがって、時間単位での従業員シフトで対処できる。しかし、エキナカでは、分単位でやってくる波動にオペレーションを合わせなければならない。「顧客サービス対応」と「作業の段取り」を小刻みにする工夫が必要である。
③客はとにかく急いでいるので、販売は時間との勝負になる。降車客も乗車客も、買い物時間に絶対的な制限がある。次の電車が発車するまで「3分間の戦い」である。短い時間で、エキナカ店舗で買い物するかどうかは、(A)店舗の存在に気がつくこと、(B)商品を欲しいと思わせること、(C)入りやすい店作りになっていること、で決まる。店舗スペースが狭いので、客待ちの空間もない。時間のプレッシャーを受けている消費者心理を払拭しなければならない。筆者の観察によれば、エキナカ店舗の問題は、(D)安心して待てないこと(サービス時間が予測不可能)、(E)時間的なプレッシャー(乗り換え時間)のふたつである。サービス対応を誤ると、顧客は、(F)購買をやめるか、(G)次駅の店で買うことになる。ともかくも、客の取りこぼしをしないことである。

<付表> 2006年度実績(MJによる)
 JR大宮駅周辺 商業施設の坪効率(/年・㎡)
  エキュート 400万円
  ルミネ   197万円
  丸井    116万円
  高島屋   100万円
  そごう   93万円

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「エキナカ店舗のオペレーション:速い客の流れへの対応と情報提示の方法」
『チェーンストアエイジ』2008年1月15日号      法政大学大学院 小川孔輔
                              
前回に引き続き、エキナカ店舗についての考察である。まずは復習である。店舗観察の結果として、エキナカ店舗の立地・顧客特性を5点にまとめることができた。
①通行客が圧倒的に多く、通常立地に比べて売上高は高い(2~3倍)。しかし、
②通行客がそのまま顧客になるとは限らない。入店率は通常の1/2~1/5である。
③顧客は不特定多数。商品構成は女性向きだが、駅構内を通る人の半分以上は男性。
④列車の到着間隔で、通行客の流れに小さな間歇的な波動ができる。
⑤客は急いでいるので、販売時間に絶対的な制限がある(1分以内に決着)。
したがって、通行客を買物客にするには、(A)店舗の存在に気づかせること、(B)陳列商品を欲しいと思わせること、(C)入りやすい店にすること、この3つの条件を満たす店づくりが必要である。買物客は、(D)サービス時間が予測できない、(E)乗換えのための時間的なプレッシャーを抱えている。こうした制約に対して、プロモーションとオペレーションの両面から、エキナカ店舗の顧客対応とサービス・オペレーションを考えてみる。

(1)店頭での情報提示
エキナカでの商売(買う・買わない、何を買うか)は一瞬にして決着する。まずは客を店内に引き入れるために、サイン(看板)を変える必要がある。急いでいる顧客の目線は真っ直ぐな方向に速く流れていく。だから、看板の位置や商品陳列の場所は、通常のSCやデパートと比べてやや高めのほうがよい。エキナカには、スイーツや惣菜など同じ系統の店舗が複数並んでいる。比較購買を促進するためなのだが、目立たないと入店してくれない。また、店舗側が思っているほど、消費者は他店との違いを認識してはいない(ブランド認知率も思ったほど高くない)。結論としては、乗降客の目に入りやすいように、店舗の看板などは、①大きめのサイズで、②あでやかな色づかいにする。POPや黒板(商品表示用)も、エキナカ用にアレンジする。簡単に言えば、POPの表現などは、③シンプルにわかりやすく、大きなサイズで表示すべきである。

(2)サービス・オペレーション対応
客の待ち時間を短くする工夫が必要である。繁盛している店ほど、店先に「客だまり」ができる。列車の到着で降車客がいっぺんにホームに吐き出されてくるので、店頭では一瞬にして待ち行列ができる。たとえ短くても、時間のプレッシャーにさらされている顧客は、すぐに列から離れてしまう。結果として、繁盛している店ほど多くの客を取り逃がすことになる。したがって、エキナカでは、待てない客の心理と動きをきちんと科学する必要がある。以下のような調査を実施することが望ましい。
①列車の時刻表を調べて、買い物客の流れをシミュレーションしてみる。例えば、赤外線カウンターなどを準備して、時間帯別、路線方面別に通行客数をカウントするなど。
②待ち行列に対する顧客心理を分析する。具体的には、(A)待ちが何人なると客は逃げてしまうかを記録してみる。(B)待ちの方法(順番対応かランダムかで)が客の取り逃がしに影響するのかどうかを実験してみる。
③サインやPOPの表示の仕方、あるいは呼び込みの方法で、待ち行列の様子が変わるかどうかをチェックする。また、サービス・マーケティングの技術のひとつに「客を退屈させないで待たせる方法」がある。こうした知見をサービス・オペレーションの改善に応用してみる手もあるだろう。

(3)エキナカ・オペレーションの改善提案(一つの事例)
以下は、筆者からの提案である。例えば、惣菜やスイーツなどの店舗では、「包装作業」と「清算作業」が同時に進行する。ひとりの従業員がひとりの顧客に対応していると、待ち行列がすぐに長くなる。それを避けるために、①レジ清算と品出しを機能分担する(ふたりチームで顧客ひとりに対応)、②客の流れに合わせて事前に商品を準備する(新しいパック開発の開発)、③品出しのリズムと顧客対応クルーの動きを乗降客の流れに合わせる(3分~5分サイクルの短いシフトを取り入れる)。状況次第ではあるが、こうした作業改善がエキナカビジネスで提案されてもおかしくはない。