2005年3月のエキュート大宮開業時から、継続的にエキナカ店舗を観察してきた。エキュート(大宮、品川、立川)やエチカ(表参道)である。その経験から、通常の「SC内店舗」と比較して、「エキナカ店舗」の立地と顧客特性がどのように違っているのかを整理してみた。
以下は、「エキナカ観察記録」の(上)の部分である。『チェーンストアエイジ』12月15日号に掲載される。
(1)立地特性
①立地は一等地である。店前の通行客は、通常立地に比べて圧倒的に多い。売上高だけで比較すると、エキナカの坪効率は通常立地の50%増から2倍になる。エキュート大宮が開業する直前に、JR東日本事業開発室(当時)が発表した初年度売上は、年商55億円の予想であった。試算の根拠は、大宮駅周辺の百貨店や駅ビルの坪効率であると推測できる(図表:『MJ』2007年8月31日号から抜粋)。大宮駅の改札外ではあるが、駅ビル内のルミネよりはやや高め(+30%)に、駅ビルから離れた百貨店(丸井、高島屋、そごう)と比較して+150%と予測したと考えられる。結果は、エキュート大宮の初年度実績は年商92億円だった。坪効率は、隣接する駅ビルの約2倍の400万円(/年・㎡)であった。
②通行客がそのまま顧客になるとは限らない。エキナカ店舗の潜在顧客は、鉄道の乗降客である。しかし、本来は買い物が目的の来店客ではない。店側としては「買い物をする理由」を作る努力をしなければならない。少なくとも、店舗か商品のどちらかが認知されないと売上には結びつかない。実際に、乗降客数に対する購買客数の比率を見てみると、エキュート大宮が13.2%(3万1000人/23万4000人)、エキュート品川が5.9%(1万6000人/30万9000人)、エチカ表参道が6.9%(1万人/14万5000人)である。コンビニなどの入店比率(通行客の10~20%)に比べて、通行客の入店比率(購買比率)は決して高くはない。エキナカ店舗の立地ポテンシャルは、もっと高いはずである。
(2)買い物客の意識と行動特性
①顧客は不特定多数である。エキュート大宮では、メインターゲットを20-代~30代の若い女性に定めている。たしかに、女性客の比率は高い(約60%)。テナントミックスも、食品を中心なので女性向きに構成されている。しかし、駅構内を通る人の半分以上は男性である。雑多で不特定多数の通行客を掬い取るには、逆説的だが、しっかりした「ターゲティング」が必要である。その方法としては、マイクロな(もっと細やかな)マーケティングが必要なのではないだろうか?
②列車の到着間隔で、客の流れに小さな波動ができる。例えば、立川駅の夕方の時刻表を見ると、中央線が5分間間隔、南武線が9分間隔、モノレールが10分間隔で到着する。電車を降りてからホーム(エキナカ店舗)に移動してくる乗降客には、海岸に波が寄せては返していくような小さな波動ができる。しかも、その波は間歇的である。百貨店や駅ビルでも来店客に波動はできるが、その場合は「大きなうねり」である。したがって、時間単位での従業員シフトで対処できる。しかし、エキナカでは、分単位でやってくる波動にオペレーションを合わせなければならない。「顧客サービス対応」と「作業の段取り」を小刻みにする工夫が必要である。
③客はとにかく急いでいるので、販売は時間との勝負になる。降車客も乗車客も、買い物時間に絶対的な制限がある。次の電車が発車するまで「3分間の戦い」である。短い時間で、エキナカ店舗で買い物するかどうかは、(A)店舗の存在に気がつくこと、(B)商品を欲しいと思わせること、(C)入りやすい店作りになっていること、で決まる。店舗スペースが狭いので、客待ちの空間もない。時間のプレッシャーを受けている消費者心理を払拭しなければならない。筆者の観察によれば、エキナカ店舗の問題は、(D)安心して待てないこと(サービス時間が予測不可能)、(E)時間的なプレッシャー(乗り換え時間)のふたつである。サービス対応を誤ると、顧客は、(F)購買をやめるか、(G)次駅の店で買うことになる。ともかくも、客の取りこぼしをしないことである。
<付表> 2006年度実績(MJによる)
JR大宮駅周辺 商業施設の坪効率(/年・㎡)
エキュート 400万円
ルミネ 197万円
丸井 116万円
高島屋 100万円
そごう 93万円