最適な客溜まりは、レジ当たり1.5人!: ロック・フィールド新浦安

エキュート立川の駅構内で、惣菜売り場(FR1)を観察した結果を本HPで報告した(2007年12月12日)。接客がもたついている間に客溜まりができ、待てない顧客を取り逃がしている可能性を指摘した。


前期のフィールドワークで、学生たちが吉祥寺ロンロンで観察した結果と同じであった。その際に、適当な客の待ち(待ち行列)が何人なのかを調べたほうがよいと主張した。ロック・フィールド社長室の協力を得て、「客溜まり仮説」を検証する実験が実現することになった。
 2008年1月18日(金曜日のピーク時間帯、17時~20時)。場所は、京葉線新浦安駅ルミネ店(RF1)である。JR駅改札外になるが、基本的な店舗の特性(早い客の流れと狭い売り場)は、当初実験を予定していたエキュート立川や吉祥寺ロンロンとほぼ同じ条件である。レジの台数は4台である。接客従業員は、ピーク時で6~7人であった。
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(1)乗降客、通行客
 新浦安駅の乗降客数は、一日平均で約10万6800人である(2006年JR調べ)。駅ビル内のルミネ店舗は、改札口のすぐ外側にある。新浦安で乗降する人は、駅ビルを通って通勤・通学しているので、10万人すべてがFR1の潜在顧客である。
 学生たちは4人チームで、それぞれ別々の役割を担って通行人と購入客の観察を行った。それぞれが、①通行量調査、②会計所要時間調査、③客溜り調査、④3段階調査(後述)を担当してくれた。①と②は説明するまでもないだろう。調査期間(合計144分)の店前通行量は1806  人、会計所要時間(商品を盛り付けてから会計が終了まで)は、最低35秒、最長4分、平均が2分30秒だった。最短の35秒は、スイカを利用した顧客である。

(2)客溜まり、立ち止まり率、購入率
 ③客溜まり調査では、ふたつの指標をチェックした。カウンターの前を「メッシュ(60㎝×60㎝)」に分けて、1分ごとに場所別(メッシュ別)に待ちの人数を目視で計測した。3時間内では、平均が6人、最大は14人であった。ちなみに、全調査時間帯(144分間)中、67%(97分間)が客溜まり6人以上であった。後の分析と総合すると、実にたくさんの潜在顧客を取り逃がしている可能性があることがわかる。
 ④三段階調査では、通行人を(A)「ケースをチラッと見た人数」、(B)「5秒以上、商品を見ていた人数」、(C)「実際に商品を購入した人数」に分類し、一分刻みで人数をカウントしている。結果指標として、「立ち止まり率」=(B)/(A)、「購買率」=(C)/(B)の二つを、時間ごとに記録してもらった。なお、一分ごとに、客溜まりの人数がわかるので、客溜まり人数別に、立ち止まり率と購買率をプロットしたグラフが「図1」「図2」である(本HPでは表で数値示す)。
 図(表)を見るとわかるように、購買率は、客溜まり人数が増加すると高くなる傾向にある(3人で約20%、9人で約70%)。「行列ができる店の商品は美味しいはず」との人間心理であろう。ただし、立ち止まり率は、その逆の傾向が見られる(6人までは40%前後、7人を越えると約30%に低下)。原因は、客溜まりが多くなると、ケースに陳列してある商品が見えなくなるからである。また、急いでいる電車利用客は、あえて待つことはしないだろうから、別の店での購入を考える。。
 総合的に見て、RF1の商品に興味を抱いた(チラッと見た)人が、最終的に商品を購買したかどうかは、「立ち止まり率」と「購買率」を掛け合わせた数値に決まる。「最終購入率」=「立ち止まり率」×「購買率」を、グラフにしたのが、図3(表の最終列を参照)である。結論は、ピーク時間帯内では、客溜まりが「6人」のときに、最終購入率が最大(26%)になっている。レジ台数当たりで1.5人である。
 もっと厳密に推論するとすれば、1.3~1.7くらいの間と考えられる。この結果は、学生たちが前期(9月)に、吉祥寺ロンロンで観察した比率に近いものである。ロンロンのRF1の観察結果は、最終購入率=29%、立ち止まり率=52%、購買率=56%であった。

(3)提案1:接客オペレーションの改善
 以上の結果を受けて、学生たちは最終報告会で、ロック・フィールドに対して、以下の3つの提案を行った。先週(2008年1月29日)の報告会には、ロック・フィールドの広報室(社長室)から二人(竹原さん、弓野さん)に参加していただいてたので、そのコメントもあわせて掲載する。

①スイカでの精算の促進
 客溜まりを解消するためには、レジでの会計時間を短くすることである。盛り付けから精算までの対応を迅速にするためには、スイカの導入を促進することが手っ取り早い。学生たちの提案はもっともなことである。以前からわたしが主張してきたこととも、別の観点からこの提案と符合する。ロック・フィールドの事務所や工場では、入館時に消毒液で手洗いを励行している。実際的にも、清潔度を保つ意識を高めるためである。その割りには、店頭に立っている従業員さんたちは、誰が触ったかわからないお札や小銭に触れたその手で、サラダやフライを盛り付けている。工場での衛生管理に比べて、店頭での衛生管理はおざなりになってはいないだろうか?

②自動つり銭機の導入
 ①の応用である。会計時間を短縮し、なおかつ店員さんが金銭に触らなくていいようにするための具体的な方法である。そのために、惣菜の計量機に「自動つり銭機能」をつけることを提案したものである。学生たちは、いいところに目をつけたと感心した。ロック・フィールドの方たちも、これにはうなっていた。

③レジとパック詰めの分業化
 学生たちの二番目の提案は、これまでのわたしの主張でもあった。ロック・フィールドの竹原さんのコメントは、分業したときの問題点は、スーパーでよく起こるのだそうだが、レジ(会計)とサッカー(計量パック詰め)の分業で、商品の入れ間違いが頻発するとのこと。わたしの意見は、精算までの時間が長いために商品の入れ間違いが起こってしまうのであって、タイミングの問題だけだと考えている。この問題を解決できれば、接客が迅速になって、客たまりは解消するように思うが。どうだろうか?

(4)提案2:陳列の見直し
 もうひとつ、学生たちから出た提案でおもしろかったのは、陳列ケースの見直しである。客だまりができて商品が見えなくなるのは、現状の陳列ケースが「横長」のクローズドケースだからであるという指摘であった。たしかに、陳列ケースを一部分でも「縦型」に変更すれば、ブラインドになっている客の後ろから商品が見えるようになる。少なくとも、どのような商品が陳列されているかはわかる。
 ロック・フィールドの、とくにクローズドケースは、デパ地下用に開発されたものである。エキナカや駅ビルの店舗のように、時間ニーズが重要で回転が速い顧客を考慮してデザインされたわけではない。この点に気がついてはいるものの、現状のディスプレイ方式が美しいために、別形式でのケース採用に踏み切れないでいるのではないだろうか。
 実際に、オープンケース(パック詰め商品用)としては、縦型陳列のものが存在している。身長より高い縦長のオープンケースが、新宿南口のルミネのJR改札内にあった。昨年度のフィールドワークで、学生たちはルミネ側のカウンターばかり見ていたが、JR側には背の高い陳列棚の実物があったことに、わたしは気がついていた。
 学生たちは、しぶとく調査設計をして、実務的にもいい提案をしてくれたと感謝されていた。

グラフの元データ(図表1~3)

客溜まり 立ち止まり率 購買率 最終購入率(%)
 3人   41   21    9
 4人   35   52   19
 5人   46   49   22
 6人   39   69   26 *
 7人   44   49   17
 8人   28   69   18
 9人   28   71   20
10人+ 29 67 19