ベンチャー企業の生存率: ユニクロ(柳井正)とブックオフ(坂本孝)

 10年前の記事を、いまさらながら感慨深く眺めている。「ある倒産についての異なる反応:あなたはどちらの経営者ですか?」というブログである。法政大学の会議室で、隣り合わせで座った柳井・坂本のふたりの会話を、ひとこまの時代風景として紹介したものである。



 「ファーストリテイリング」と「ブックオフコーポレーション」(俺の株式会社)。おふたりが始めた事業はいまも健在である。経営者としての名声も、当時よりも高まっている。その一方で、この間に、山のような数の倒産企業をわたしは見てきた。たくさんの数の屍が累々とそこにはあった。

 あれから、10年が経過している。両者ともに、死ぬほどの目にあっている。それは新興ベンチャー企業の常だろう。はじめるときは、どんな会社も中小企業であり、ベンチャー企業である。そこから、這い上がって事業を大きくできるかどうかは、経営者の才覚と創業メンバーと、そして、「[本人に]神様がついているかどうか」である。
 ブログで取り上げた経営者(川端氏)は、当時、華々しくデビューして、多額の創業資金を集めたものだった。その後に、もうひとり同じような経営者(石橋氏)が現れたが、この方も、大きな花火を打ち上げて、ほどなく”散華”することになった。「花と散る」とは言いえて妙な表現だ。

 成功と失敗を分ける境目は、どこにあるのだろうか?
 現在、「俺のフレンチ・イタリアン」で破竹の勢いにある坂本社長に、数回にわたって過去の事業についてインタビューをしてきた。何度も何度も修羅場をくぐってきたご本人だが、いまだに、「自分のビジネスが危うくなってしまうことを考えて、突如、立ちすくむことがある」そうだ。
 経営者の宿命である。わたし自身も、いくつもの組織を創って、いまだに支え続けている。創始者だから、始めたプロジェクト(事業)からは逃げられない。巷間言われているように、柳井さんも坂本さんも、「後継者がいない」のではない。そのようにするしか、自分の人生に対して責任がとれないのだ。

 10年前の記事(プロット)をそのまま引用する。内容は別にして、ここで起こったことは「続き」がある。この記事は、『小説 坂本孝(仮)』(小学館、2015年春)の挿話になるはずである。

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小川のブログ記事(2004.12.16 Thursday)

「ある倒産についての異なる反応:あなたはどちらの経営者ですか?」

日経新聞11月5日の朝刊に、生花販売チェーン「花プレンティ」(大阪市:川端秀一社長)の自己破産記事(負債総額推定34億円)が掲載されていた。当日、わたしどもの専門職大学院では、学生による「プロジェクトリサーチ」(事業企画案)の中間発表会があった。

  会場のボアソナードタワー26F会議室には、ビジネススクールの客員教授として協力いただいている、柳井正会長(ファーストリテイリング)と坂本孝社長(ブックオフ・コーポレーション)が隣り合わせで座っていた。
  柳井会長には、野菜事業(FRフーズ)に参入する以前から、「チャンスがあれば食品ではなく、花事業を始めてください」とお願いしていた。そんなこともあって、朝10時の発表会スタート前に、わたしが席に挨拶に伺うと、さっそく「花プレンティ、倒産しましたね・・・」が柳井さんの”おはよう”の言葉だった。
  ご本人も苦笑いをしていた(ような)気がする。というのは、今春に野菜事業(SKIP)から撤退するにあたって、ファーストリテイリングとしては特別損失28億円を計上していたからである。「野菜の後は、是非とも花事業に・・」と懲りずに書いたわたしのEメールには、「しばらくは、本業に専念するつもりです」とあった。その後は、海外事業(中国、韓国、ブランド買収)と本業回帰に方向転換している。

ふたりの会話を隣で聞いていたブックオフの坂本社長は、いかにも坂本さんらしく、わたしの顔を見てニコッとつぶやいた。「小川先生、これで怖くなって他社が入ってこないですよ。花事業はおもしろいかもしれませんね」。こういう考えをするひとは少ないだろう。参入のハードルが高いことを知りつつ、坂本社長はそこに機会を見ている。
坂本さんは若いころ、出身地の山梨でオーデオ店経営に失敗している。負債総額は忘れたが、夜逃げ寸前まで追いつめられたことがあった。実際に夜逃げをしたのかもしれない。その方がそのように反応したので、花業界はやはり可能性があるのだと思ったわけである。

  皆さんは、同業他社の倒産をどのように受け止めるだろうか? 坂本流か柳井流か? もっとも、わたしはいずれ、ユニクロもブックオフもどちらも花業界に進出してきてくれるものと確信している