セブンイレブン・ジャパン創業者、鈴木敏文会長の退任劇

 どんな優れた経営者でも、いつかは現役を退かなければならない日がやって来る。しかし、昨日の退任劇は、記者会見の内容も含めていかにも不格好に見えた。会社の絶頂期に、自らが提案した人事案件が通らなかった。それだけで辞任に至るという経過が、鈴木氏の孤高と悲哀を感じさせる。



 鈴木会長は、グループの創業家のメンバーではない。伊藤名誉会長に信頼され、これまでほぼ事業のすべてを任されてきたとはいえ、生え抜きの経営者にすぎない。だからこそ、本来ならば80歳を前にして引退すべきだったのだろう。会長と言いながら、執行役員に近い権限を握ったまま今日に至ったことが、今回のような退任劇(人事案件の否決)に至った最大の理由であろう。
 昨日、友人からのメールで退任劇を知らされたとき最初に思ったのは、肥大化した大組織で利害関係者が多すぎるとき、後継者選びは早めに終えておかないとまずいという一点だった。
 わたしの周囲で経営の継承がうまくいった事例は、ファッションセンターのしまむらである。創業者の島村相談役から藤原元会長へ、そして野中現社長へとバトンがつなげている。そして、全員が65歳で社長を退任している。同じく、社長の座を65歳でファミリーメンバーに譲ることができたのが、食品スーパーのヤオコーである。創業家の川野ファミリーでは、実質創業者の川野トモ氏から長男の幸夫氏(現会長)へ、次男の清巳氏(退任)をリレーして、川野澄人現社長(幸夫氏の長男)へと経営が委譲されている。

 昨夜の事件では、7&iグループで、予想通りに後継者が育っていなかったことが露呈してしまった。
 もちろん権力闘争やファンドの圧力などが取りざたされてはいる。しかし、基本的には鈴木氏が後継者を育てられなかったことは明らかだった。ご本人も、そのことを明確に述べている。
 記者会見で、「なぜ、後継者を育てられなかったのか」との質問に対して、鈴木会長自らが、「私の不徳の致す所だ」と答えている。
 わたしの友人の中には、後継者を育てられないまま、社長・会長を続けている現役の経営者がいる。逆に、うまい具合に後継者に恵まれた経営者もいる。また、通常の任期を超えて、例外的に最高経営者にとどまっている友人もいる。こうしたケースを見ていると、わたし自身も悪い方にならないようにと自戒している。

 その中で、もっとも不幸なケースが鈴木会長だったのではなかろうか。
 セブンイレブン・ジャパンの創業と成長、グループ企業の経営統合など、あれだけの実績を残しながら、頼れる番頭も後を任せられる腹心の部下もいなかった。このことは、会見のVTRを見れば歴然としている。鈴木会長の脇に控えて登壇していたのが、80歳を超えた2人の元社員と顧問だったからだ。
 継続か退任かの判断を保留したまま、83歳まで現役を続けていれば、昨日のようなリスクを抱え込むことになる。
 「人間、あしたのことはわからないよ」
 2か月ほど前に、『週刊東洋経済』(3月12日号)のインタビューで鈴木会長が述べていた言葉である。まるで昨日の悪夢を予言していたかのようだ。