今年の2月18日に、茨城県土浦市の久松達央さん(超優秀な農業者、物書き)から一通のメールをもらった。わたしがローソンの本を書いていることを知らせたところ、ご自分も次の本が決まったという知らせだった。そして、短い出版の趣意書(サマリー)が添付されていた。
それにしても、久松さんは着々と書籍などの実績を積み上げている。すばらしいパフォーマンスだ。すでに農業者(リーダー)として、若手から中堅の域に達している。
その後に、長いメールをいただいている。そのままをコピーしてここに貼り付けるのは、出版の知的所有権の問題もある。ここでは、最初のお願いのメールと企画書を要約して紹介する。その後、わたしに課された課題と、わたしからの返答の方向性を示唆することにとどめる。
久松さんからのメール(2025年2月18日)。
おはようございます。ローソン本楽しみです。
さて、私も次の書籍の企画が決まりました。農業のモジュール化と資本の参入によって産業構造が変わり、ゲームチェンジが起きる未来を、他産業で起きたことを例に取りながら考える本です。その中でぜひ小川先生に、小売業界で起きたこと、起きていること、農業の現状と未来についてお話を伺えないかと考えております。以前、先生が、「現在の農業は50年前の小売業に状況に酷似している」とおっしゃっていたことがきっかけになっています。
一度企画趣旨をご説明したいので、お時間をいただいてzoomでお話しすることは可能でしょうか?ご検討いただければ幸いです。
このあと、何度かやりとりがあった。ところが、この後すぐに、わたしは拙著『ローソン』(PHP研究所)の出版準備や講演会、雑誌社からのインタビューで忙しくなってしまった。「しばらく待ってください!」と伝えて、瞬く間に2か月が経過してしまった。
仕切り直しで、今週初めにわたしから久松さんにメールを送った。「そろそろ落ち着いたので、zoomをしますか?」と送信したところ、月曜日(5月19日)の午前中に、最初の面談をすることになった。
わたしの役割は、久松さんからの2月のメールに書いてあるように、「小売業界で起きたこと、起きていること、農業の現状と未来について歴史的な事実の紹介」である。どの程度、役に立つかわからないが、再度送られてきた「書籍出版の企画書」を眺めている。
ここ数日は、「花の日の振り返り」の原稿と「農業(花産業)の地殻変動」について、考えている。寝ても覚めてもこの2テーマである。
わたしの方で、簡単なメモを作成しておくことにした。本日のブログは、そのための準備のメモ帳である。
1 久松さんからの企画案(要約)
テーマ:「日本の農業で今、何が起きているか、これからどうなるか」
日本の農業は、小規模な個人事業で支えられてきた。それが変わろうとしている。大淘汰時代を迎えるが、それは他の産業(小売業、飲食業、製造業など)では既に起きたことだ。農業が近代的な産業に発展する過程で、他の産業で同じような変化を経験した人たちの話を聞きながら、農業の未来を予測し、何が重要になるのかを考えようとする一冊。
2 農業の大変革を引き起こす要因
久松さんの見立ては3つ。
①農業のモジュール化
②ヒト・モノ・カネの外部からの調達
③食の外部化(野菜の6割は加工業務用)
+④キーとなる重要な要因がもっとあるような気がする?
3 以上の3つの結果、これから先に起こること
栽培のOSが変わると経営のOSが変わる(久松さんの言葉) → ややわかりにくいが、、、
①農業の二極化が進展
スケールメリットがある分野で、大きな会社やグループ
そうでないところ分野では、小さく個で生きる農家に二極化。
②所有と経営の分離
自作農主義(耕作者主義)が崩壊し、M&Aや垂直統合が進む。
農業分野は、二つの選択肢のどちらが優勢になるのか?
商業で起こったレギュラーチェーン(スーパー)とフランチャイズシステム(コンビニ)
③地域農業のインフラ維持が困難
これからは、水路や農道、集出荷場などを維持するのが難しくなる。
「この地域は農業を続けるけど、この地域はもうやめる」という線引きが必要になる?
④日本の食文化への影響
多品目生産がむずかしくなるので、「フルセット型農業」が維持不可能になる?
①との関連を見ることが必要?
フルセットは小さな生産主体、大規模生産者は単品大量? いや必ずしもそうではないかも。
⑤働く人の変化
農業も職人仕事から「ジョブ型ワーカー」と「経営者」(マネジメント層)に分かれる。
4 ①~⑤の変化は、他の産業(小売業、外食産業、製造業など)で過去に起きたこと。
農業は特別なものではない。
というわけで、
① 今農業で起きている「モジュール化」など「外部資金調達」という変化について説明。
農家さんが大きくなりにくい理由や、農協組織の関わり。
②農業のやり方(所有と経営の関係、ビジネスの形、働く人の役割)がどう変わるのかを
掘り下げる。その昔、日本にもあった大規模な農業経営の例(大地主制度?)も紹介します。
③ 農業よりも先に、同じような大きな変化を経験した他の産業
(小売業、外食産業、製造業、建築業界など)の専門家に話を聞きます。
→ ここで私が登場することに。
5 他の業界の変化(小売りサービス業の近代化、産業化の経験を述べる)
①産業化・近代化のプロセスで何が起きたのか?
②具体的に何が起こったのか?
③どんな人が成功して、どんな人が退出を迫られたのか?その違いは?
わたしの担当は、小売業の専門家: 個人商店がコンビニやスーパーに取って代わられた過程で起きたこと。+レストランなど(外食産業)の専門家: 個人の小さなお店から、大きなチェーン店やフードコートまで、外食産業がどう変わってきたのか。
<小川の回答、アトランダムに>
1 示唆:海外の農業分野を見てみたらどうか?
日本の農業が、環境変化と技術革新によって大きく変わることはまちがいないが、海外にはすでに離陸した農業国がある。そこを見てみるのも参考になるだろう。
①オランダのフラワー協議会:
機械セリシステムの導入と情報物流システムの統一化、品質管理システムの導入
③米国の果樹・畜産業界:
協会によるグローバルなコモディテイ・プロモーション、冷蔵冷凍技術の開発など
2 日本の小売業の発展に関係した出来事
①海外(米国)からの「チェーンストア理論」の導入学習
②業界団体(商業界、ペガサスクラブ)による海外視察と経営者の相互啓発
③外部資金調達(株式公開)
④人材育成、産業としての待遇変化
⑤海外調達から商品調達、低コストオペレーション
⑥売り場の改革、ラインロビング(品揃え)
⑦情報物流技術の革新(共同配送、セントラルキッチン、RDC、POSシステム)
3 業界ごとの別の動き(詳細は口頭で)
①総合スーパー
②食品スーパー
③ドラッグストア
④ホームセンター
⑤コンビニエンスストア
⑥レストランチェーン
4 久松さんの質問に対する補足(商業と農業の違い)
①標準作業マニュアル(『しまむらとヤオコー』を参照) ◎共通
②川上(農業)と川下(商業)のちがい △
商業は、顧客に近いので立地選択(多店舗展開)で顧客を直に確保できる
農業は、顧客までの距離が遠いから、販売先の確保が必要(提携)
③変化対応:スクラップ&ビルド 〇
商業は、店舗レベルでの改装、業態・立地開拓
農業は、需要に合わせて栽培品目(品種)を変えていくことが必要
④季節変動に対する対応 共通◎
商業は、MDを季節ごとに変えるだけ(52週MD)
農業は、播種のタイミングと品種品目選定
⑤技術開発と機械化 〇
商業の技術開発は、ソフト面とインフラ構築が大きい?
農業でも、一般的な状況は変わらないのでは?
⑥海外との関係 ◎
商業分野では、先進国(欧米)からソフトウエア、途上国からは商品調達
農業分野でも、同様なことが起こっている(ただし、農産物の輸出入で比較優位がある)
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