今週の月曜日(3月24日)に、拙著『ローソン』がPHP研究所から発売になった。2017年から7年間をかけて、ローソンの「大変革実行委員会」のプロジェクトを取材した記録である。おかげ様で、初刷り1万2千部は、今月末に完売しそうな勢いである。今月号の巻頭言では、執筆に際して驚愕したエピソードを紹介してみたい。
第8章「美容師さん、コンビニのオーナーになる」では、静岡市内で25店舗を経営している女性経営者を取り上げている。ローソン加盟店オーナーの石塚直美さん(60歳)だ。30歳まで美容院で雇われ店長をしていた彼女は、事情があってコンビニのオーナーに転身する。そこから30年間の波乱万丈の人生を、『ローソン』に収録することになった。
さて、ローソンの創業50周年という年度だったこともあり、「マチの本屋さんコーナー」がある全国のローソン(約1500店)で、拙著『ローソン』を販売することになった。3月初旬から、ネット書店では予約販売が始まっていた。売れ行きが気になっていたところ、元院生からメールが飛び込んできた。「アマゾンの小売部門で、先生の本が12位にランクされていますよ」という知らせだった。発売2週間前、3月12日のことである。
そのことを、ローソンで複数店を経営しているオーナーさんたちに伝えたところ、翌朝に、石塚オーナーから返信があった。届いたメールは、「私の店舗 呉服町店100冊 手越店100冊 他各店舗5冊 3/24入荷になっています」という文面だった。
わたしは即座にメールに返信した。「石塚さん!おはようございます。300冊も予約注文をしていただき、ありがとうございます!”隙のない陳列”をするため、2店舗に集めましたね!」と応えておいた。2店舗に100冊ずつ、予約発注の合計は300冊。
石塚さんには「得技」があった。色とりどりの商品パッケージを、陳列棚にきれいに積み上げて陳列する技術のことだ。元美容師さんならではのテクニックで、書籍の中でも写真で紹介してある。2店舗にまとめるよう指示を出したのは、ローソンブルーの本を隙間なく陳列するつもりなのだろう。ところが、100冊を2店舗に集めたのには別の狙いがあった。
「もちろん全て予約完売しております。今までに、友人、知人に本の話しをしており、購入予約を頂きました。皆さんの購入しやすい場所が、呉服町店と手越店でしたので、2店舗に集中納品しました」(石塚さん)。100冊ずつを2店舗にまとめたのは、石塚さんの”パーソナルマーケティング”のためだった。新刊本をたくさん売り上げると同時に、自分自身の商売と個人としての“生きざま”を売り込むのが狙いだった。
第8章の原稿は、6月初旬に完成していた。石塚さんは、そこから用意周到に準備を始めていた。書籍が発売になるまでの半年間を、地道に地元ロータリークラブのメンバーや知人、友人のお得意様たちに、3月発売の書籍のことを告知して回り、予約注文を取っていた。
数分後に、わたしのスマホにメールが飛んできた。「四方良し」には笑ってしまった。
「ほんとはもっと欲しいですが、ローソン本部から、これが上限だと言われました。各店舗で納品され販売できれば、カウンターで売り込みもできます。対面販売です。本が売れれば先生良し、お店良し、本部良しの三方良しに加えて、買われた子お客様良しのなんと!!四方良し!!!!」(石塚さん)。
用意周到、準備万端。先の先を読んで行動する経営者は、どこか違っているものだ。
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