本ブログに、ここ数日間、たくさんのアクセスがあった。衣料品チェーン「しまむら」(創業1953年)の創業者、島村恒俊さんが、7月13日に老衰のために亡くなられていた。日本経済新聞社編集委員の田中陽さんから、一昨日に逝去の知らせがあった。
昨日は、フジテレビの編成の方から電話があった。「夕方の報道番組で島村さんの特集を組みたいのですが、お写真をお持ちではありませんか?」という問い合わせだった。
『しまむらとヤオコー』(2011年)の刊行でお世話になった小学館の園田健也さん(編集者)からも、わたしのところメールで連絡が入っていた。同じ番組でだろうと思う。「本のカバーや記事などを、テレビ放送で使わせてもらいたい」という申し出だったらしい。
フジテレビの長谷川さん(ディレクターさん?)から電話をもらった時間は、来年2月末に刊行予定の『ローソン、挑戦と革新(仮)」(PHP研究所)の第5章「スイーツ開発者、ロールケーキを切り刻む」の第3節を書いていた。
島村さんの写真(2007~08年ごろ@埼玉県吉見町)は、その気になって探せば出て来ると思うが、その時間的な余裕がなかった。「島村さんの写真無しでは、報道番組の制作は無理だろう」と、わたしは本音では思っていた。
その通りで、わたしが写真を探す時間がなかったために、夕方の放映企画は無しになった。フジテレビの長谷川さんからと、小学館の園田さんからも「残念でしたが」というメールが入ってきた。
2000年に、偶然がきっかけで、ヤオコーの川野幸夫会長(当時、社長)とお会いした。
そのことがきっかけで、『チェーンストア・エイジ』(現『ダイヤモンド・チェーンストア』)で2009年から連載がはじまった。
2011年に連載が書籍化されて、『しまむらとヤオコー』が小学館から発売になった。わたしのノンフィクション小説の処女作である。この本はよく売れて5刷りになった。2年前に紙の本のほうは絶版になった。それでも、いまでもデジタル版はぼちぼち売れている。歴史を扱った本は、息が長く読み継がれる。
島村恒俊オーナー(2代目社長の藤原秀次郎さんや伊藤孝子さんの「島村さん」の呼び方)とは、雑誌連載のため、埼玉県吉見町にある、沼のほとりのご自宅に何度も伺うことになった。
当時の島村さんは、80歳代の前半だった。それでも、ご自分で車(トヨタのクラウン)を運転して、わたしを東松山の駅まで送迎してくださった。いまでもよく思い出すのは、うなぎとかとんかつとかを一人前、ぺろりと食べられていたことだった。
健啖家、、、そうそう、「かつや」(アークランドサカモト系列)を知ったのは、島村さんにとんかつをおごってもらったからだった。あれは連載が進行中だったから、2009年頃のことだろう。「この店(かつや)は伸びるだろうな」と思ったものだが、後々にその通りになった。
そういえば、埼玉県比企郡小川町在住の伊藤孝子さん(しまむら7号店、児玉店の元店長さん)と2007年12月31日(大みそかの夕刻)、偶然にも、しまむらの小川町店でお会いしたことが、連載がスタートしたきっかけだった。
この偶然の出会いがなければ、『小川町経営風土記』はなかっただろう。もちろん、小学館から『しまむらとヤオコー』を刊行することもなかった。わたしが、いまのように、ビジネス小説を書くこともなかっただろう。
2009年からは、島村さんが好きだったバラの花束を、ご本人の誕生日(3月8日、国際女性デー、ミモザの日)に毎年のように贈ってきた。一年も欠かさずにである。いつの間にか、この行事が15年目になっていた。それも、今年で終わりになった。
いつも誕生日の翌日には、ご本人から電話があった。
「埼玉の、よ・し・み町の、し・ま・む・らと申します。いつも花束をおくっていただき、ありがとうございます」というメッセージが留守電に残されていた。
昨年は、めずらしくご本人から電話を直接受けることができた。しかし、今年は、娘さんの北村有美さんから、ご本人の代理で電話があった。奥様から電話が来ることあったが、娘さんからの電話は初めてだった。
いずれにしても、島村さんは、日本の小売業の発展に大きく貢献された方だった。
横須賀から京浜東北線で、ご実家(藤原ストアー)の従業員だった今の奥様と、大宮のアパートに駆け落ちしてきたのが、後継者の藤原秀次郎さんだった。藤原さんの才能を見つけて、しまむらの経営をすべて任せた。そのことが、いまの「しまむら」の成功を決定づけた。
島村さんはいつも恬淡としていた。肉親だからと情実を入れずに、物事を合理的に判断する人だった。前後3度にわたるインタビューでも、それは同様だった。いつも冷静だった。経営的な判断も同じだったのだろう。
日本の小売業で、いま一つの時代が終わりかけている。ヨーカドーの創業者の伊藤雅俊さんが亡くなり、戦後の小売業を成長させた創業経営者で残るのは、イオングループの岡田卓也氏(99歳)とベイシアグループの土屋嘉雄氏(91歳)のふたりが残るのみである。
島村さんのご冥福を、心からお祈りします。合掌。
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