玉塚元一社長の時代に、ローソンは地区本部制をやめた。それがいまは、竹増社長の下で販売組織を地域本部制に戻している。引き金は、新型コロナで都心から郊外に需要が移り、取り扱い商品に農産品などローカルな商品が加わったことだ。その結果、コンビニでもトマトやジャガイモなどが普通に扱われるようになっている。
コロナの2年目あたりから、都心部の店舗でも、野菜や肉がふつうに置かれるようになった。リモートワークが浸透して、オフィスに行くのは、週に1~2度という会社や大学が増えてからだろう。
しかも、あまり遠くに出かけたくないとなると、自然に近くのコンビニで野菜や精肉などの食材が売れるようになる。それまで、バナナ程度しか置かれていなかった果物が、ふつうに売れるようになった。当然のことだが、商売では売れるものを売るのが鉄則だ。しかし、これまでのコンビニのビジネスシステムには、ふうつは馴染まないところが出てくる。
そこをどうしていくのか? スケールメリットの追求とローカル対応は、一部では対立することもある。そして、それをどのように企業文化として定着させていくのか? 課題は多いだろう。
最初にコンビニのローカル対応を知らせてくれたのは、ローソンの本部からではなかった。ここ数年来、一緒に惣菜会社のロック・フィールド(本社:神戸市)の社史を制作してきた中野郁夫元参与だった。
中野さんは、ロック・フィールドに転職する前は、神戸商工会議の職員だった。その神戸商工会議所が発行している会報誌『神戸商工だより』(2022年8・9月号)に、地元の農家(おらのはたけ:森谷秀光さん)が、神戸市内のローソン5店舗に地場野菜を納品して販売している記事が掲載されていると知らせてくれた。
その記事(頑張る社長を応援します!)によると、森谷さんがローソンに野菜を納品するようになったきっかけは、神戸商工会議が主催した「ローソンと連携した販売促進事業説明会」だった。この事業連携の販促事業には、ロック・フィールドさんも参画していたので、説明会の存在はわたしも前から知っていた。
兵庫地区では、ローソンが地元企業や提携して商品開発をしたり、農家さんと提携して地場の農産物を販売する話は聞いていた。とはいえ、中野さんとしては、自分も関わっていた販促事業で、ローソンと農家さんが提携している話を聞いてうれしかったのちがいない。早速、ローソンを支援しているわたしに、その記事を送ってくれたわけである。
実は、わたしが住んでいる葛飾区高砂地区には、「セブン-イレブン高七店(たかしちてん)」という品揃えがユニークなコンビニがある。オーナーと直接話したことはないが、歩いて3分のところにあるのでしばしば利用している。この店舗の存在は、引っ越してくる遥か昔、20年くらい前から知っていた。
なぜかというと、品ぞろえと陳列がユニークだったからである。セブンーイレブンの創業時から加盟店だったものと思われる。なぜなら、①陳列が天井までうずたかく積みあげてあり、②菓子類や飲料が多いのだが、そのような商品はセブン-イレブンの本部が仕入れているとはとても思えなかった。③値付けも格安で、商品は「段ボールのカット陳列」である。
ちなみに、自店で仕入れたとしか思えない花束(仏花)やワイン(500円から1万円まで幅広い価格帯を品揃え)、バッタやから仕入れたと思われる菓子類が、山積みされている。実に、地方の食品雑貨店がセブンの看板を背負っている体制の店舗だった。契約形態はどうなっているかわからないが、駐車場も広くて超繁盛店だから、とりあえず本部も高七店の独自仕入れには目をつぶってきたのだろう。
この高砂七丁目店と神戸の農家は、実は独自仕入れルートでの納品という点でつながっている。コンビニが、スーパーの品ぞろえに近い農産物や精肉などを扱うようになると、当然のことながら、鮮度管理や納品形態が問題になる。センター方式が必ずしもよいとは限らないのである。
高七店の場合は、商人的なコンビニの加盟店オーナーが、独自に仕入れた商品を店頭POPなどを駆使して売り込もうとする。店頭はドン・キホーテのような陳列と品ぞろえになるが、地元民は、この店の買い物では衝動買いに慣れてしまっている。アルバイト店員さんも、朝礼で店長から伝達指令を受けるのだろう。売り込む商品の名前と特徴を、通路を歩きながら元気に客に向かってつぶやいてくる。
コンビニで農産品を売る場合も、いま全国で同じ動きが始まっている。農産物とその加工品には、明らかな地域性がある。住む場所が違うと、食べる野菜の品種も違うし、加工品では味付けがちがう。だから、全国一律のMDにはならない。というか、ローカルの品ぞろえで決めて、店頭で売り込まないと商品は売れない。
従来のコンビニのビジネスとは、ことなるマーケティングとMD(商品政策)が必要になる。一言で言えば、個店化でありエリア主導のMDということになる。農産物がそれにもっともフィットするのだが、必ずしもローカル対応は農産品ばかりに限らない。
ローソンの広報部から、前述の兵庫(神戸)の野菜販売の事例を含んだ「事例集」を頂戴した。ここでいくつかを紹介してみたい。これらの事例をみていくと、コンビニは明らかに「ローカル化」に向かっていることがわかる。すでに、北海道のセイコーマートなどは、当初から個店でユニークなローカル対応をしてきた。品揃えも自由裁量の余地が大きい。結果的には、コンビニではCSが最も高い。
<事例集>
①北海道の約 15 店舗で販売「地元のお米、地元企業のピザ・アイス・昆布、冷凍干物」
②岡山県の約 60 店舗で販売「地元精肉店の冷凍肉」
③埼玉県十数店舗で販売「カー用品」
④熊本県の 2 店舗で地元の日本酒と調味料を販売
⑤埼玉県の約 20 店舗で販売する「松尾のジンギスカン」と約 40 店舗で販売している「炭や塩ホルモン」
⑥千葉県の 7 店舗と埼玉県の一部店舗で販売「銚子鉄道のぬれ煎餅」と「銚子ビール」と「アフロきゃべつ餃子」
⑦空港ならではの品揃え「ローソン 成田国際空港第 3 旅客ターミナル店」
⑧北海道の約 30 店舗で販売「釣り具」
農産品については、ローソンとして新しい対応が予定されている。
「ローソン店舗での青果販売について」(広報部発表)によると、青果販売に仕組みは、2020 年 10 月に九州の福岡市にて開始した取り組み。現在は、九州、近畿、関東、東北などに広がっている。全国約 600 店舗で展開中だから、およそ5%の店舗に広がっていることになる。
・仕入れと値付けについては、青果店が責任を持つ。
・配送は、店舗巡回方式で、補充と引き取りは青果店が実施する。
・売上の計上は、成果をレジで精算して、店舗の売上となる。
要するに、アパレルや切り花の量販店の販売によくある「消化仕入れ方式」である。
配送をローソンのシステムではなく、地場の市場と青果店に任せる。
当然のことながら、鮮度とリードタイムは改善する。
ローソン側のメリットとしては、鮮度の良い商品が並び品揃えの幅も広がる。
(これまで、本部ではジャガイモやバナナ一など一部の青果しか取り扱いがなかった)
神戸商工会議所の会報誌の事例では、青果品のみで、多い日で 1 日5万円以上を販売する店舗もあるという。
特に住宅立地等では青果品のニーズが高いことがわかっている。おそらくは、都心に多い「まいばすけっと」(イオン系)のような品ぞろえに近くなると考えれる。
以上、広報誌からの情報と、若干のコメントを述べておいた。